第4章 10.

   10.

 『代々木ダンジョン村』という『第1階層レベル1』の日本領土に作られたテント村の一種。

その一角に『女子寮』と呼ばれる組織があって、居座っている。元々『女子寮』はDVシェルターとして生まれ、今や立派な反社会的勢力の一種とみられてもおかしくない存在となっている。

彼女たちは武装し、自分たちの独自のルールの中に生き、彼女たちなりによりよい人生を求めて生きている。


「いやっほぉぉおおおおおおっ! トレンドいりだ――――ッ!!」

――が、別に自分たちのマイルールで生きてるタイプの人間は『女子寮』にしかいないわけではない。

例えば、そう、電動アシストのダンジョン用マウンテンバイクを乗り回す咲坂高校冒険部の『部長』とか。


「あっ、『寮長』さん! 『刑事』さん! たぶんそこら中にあるシジルは『寮長』さんの落書きだよね!? そういうの良くないと思います!

と言う訳で、『刑事』さん、その人『迷惑防止条例違反』でとっと連れて行くといいよ! こうつー条例? とかその辺にもたぶん違反してるよ。落書き行為って」

「「「…………いや、おまえら……」」」

ここ最近のクソ忙しさを思い出す『村井』『加西』ついでに『寮長』。もしやもしやと思っていたが、今ので確信する。


「おまえらだな……? 大陸の傭兵をEEZでたこ殴りにして色々と問題を増やしているのは……?」

「クソが、いきなりアウトサイダーズ候補者どもかよ、帰れよ!! レベル1何か、おまえらレベルだと稼ぎが悪いだろ!!」

『村井』が最近の仕事増量の原因だと確信した女子高生の『部長』に笑顔を向けながら質問を行う。

『寮長』に至っては忌々しい奴らがやってきたといった感じの声調だ。

『女子寮』の戦闘要員達も次々と武器を『部長』に対して向ける。


そして、砲声が鳴り響いた。『女子寮』の建物の方角から飛んでくるのは迫撃砲弾。


「全員吹き飛べ!」

『寮長』の叫び声だった。


軽迫撃砲を用意している事を知ってる『女子寮』の戦闘要員達だけは冷静に動いていた。

そして、着弾。爆破の衝撃と熱風。警察組は一気にHPがごく少量だけ残される。

逆転するべく『女子寮』の戦闘要員、彼女たちが動いて――――


「――はいはーい。もう終わりだよ~」

爆音が鳴り響く。『女子寮』の方角からだ。それどころか、気づけば1人の戦闘員の目の前に迫っているのはピンの抜かれた手榴弾。


(いつのま――――)

――に、と最後まで思う前に起爆。まるで事前にすべてを分かって用意していたかのように。

その手にはダブルバレルライフルと薙刀を持つ1人の少女が爆破によってばらまかれる衝撃波と鉄片の汚染空間の中をバレエを踊るような優雅な動きで、一歩二歩と歩み

7.62ミリのライフル弾がばらまかれる。

そして、手榴弾の爆破の衝撃波が終わった後には1人たたずむ少女と手榴弾の衝撃は、鉄片、そして彼女がいつの間にやらばらまいた7.62ミリの銃弾に撃たれた人間達。

だが、それだけでは終わらない。


「はぇ?」

気づけば、真っ先に手榴弾でやられた奴から一番遠くの戦闘員、彼女の胸に突き立てられ、地面に薙刀で縫えつけられている。

投げ槍の要領で投げられた薙刀に文字通り貫かれていた。


『 「寮長」! ごめんなさい!!』

無線通信。


『 軽迫撃砲が、狙撃で! 吹き飛んじゃった!!』

前提が、崩れる。逆転の前提が崩れる。数も質も軍事力も。


「『妨害装置』はさっきぶっ壊したから、そのまま逝く?」

『部長』の発言。

『女子寮』の方向から『部長』と同じような電動自転車の車輪の音が聞こえてくる。


「『部長』、とりあえずやばそうなモノは潰しておきましたです。でも外側から見えるモノですから、内側にこっそり大量の爆弾をしかけてましたとかは無理ですからね」

『いちちゃん』である。


「邪魔をするな!!」

それでも生き残った戦闘要員の1人がクレイモアという大剣を振り回して目の前の『いちちゃん』に切りかかる。

が、唐突に何かに足をとられて転がる。足元にはいつの間にかワイヤーがつながった投げナイフがあって、ワイヤーに足をとられた。

そして気が付けば両肩に乗っかり首筋に感じる日本刀と脇差の二刀流。


「動いたら大変やで」

たった4人の若造に自分を含めたみんなが無力化されたその風景は、戦闘力を買われていた彼女にとって屈辱で


「うわぁあああああ!!」

雄たけびを上げながら拳銃片手に立ち上がろうとして、気づけば手足が胴体から切断されていた。




「こいつは、すごいことだぁぁああああ!」

『Tフラッシュ』がタブレット片手にハイになりながら4輪バギーに乗っている。2人乗りして、後方に乗りながらタブレットを捜査している。


「何考えているんだよ、お前……」  「『長谷川』さんに見習ったんですよ。いつでも辞める覚悟って奴があれば有意義な仕事が出来るんですよね?」

『川上』がにこやかな笑顔で『長谷川』と共にその後を追いかける。

同じように役人の皆さんがスマホ片手に頭を抱えながら追いかける。


@夜更かし研究部

20XX年7月X日 06:12

ここって、王手ゼネコンの系列じゃねえか

#ダンジョンブラック企業 #労基 #冒険部


@まぐろ侍

20XX年7月某日 06:15

ダンジョンが無法地帯で、奴隷労働してるみたいな話はたまに聞くのよ

マジで証拠映像付きで全世界に流されてるんだけどwww

#ダンジョンブラック企業 #労基 #冒険部


スマホの画面には『川上』が冒険部と自称ジャーナリストの『Tフラッシュ』やらそういった連中に提供したボディカメラ映像がネットでバズってる事を示す反応が流れてくる。

そんな彼らが4人組が『女子寮』を制圧したタイミングで現場にやってきて、『Tフラッシュ』が一言。


「絶対バズるシーン見逃したァ!?」  「「「えっ、バズり!? マジで!?」」」

ちょっと前までならAIのフェイク言われる有様だった4人組も今や興味津々にみられる対象だ。

何しろ


「あっ、今編集終わったよ」  「あっ、ありがとうございます。あとでフォローさせていただきますね」

『オキタ』が珍しくまともな口調で『Tフラッシュ』から送られてきたデータをスマホで受け取る。


「労働基準監督署の人からもらったボディカメラ映像と俺と君たちのボディカメラ映像を組み合わせたら最高に映画みたいな動画コンテンツが作れるからね!!

専門のAIをうまいこと使えば、30分ほどで2時間分の動画コンテンツが作れるさ!」

「やっぱ専業でやってる動画編集者にはかないませんね。その辺の専門のAIだって具体的に何があるのかわからないんで」

「やっぱ、『オキタ』、キャラづくり無理してたでしょ」  「ビークワイエット!!」

そして、動画が『咲坂高校冒険部活動報告書』という名前の冒険部チャンネルに投稿される。

大急ぎで編集されたものとはいえ、字幕が付き、ヤバそうなものにはちゃんと丁寧なモザイクが付いて、しかし何が起きているのかがわかるようになって、見やすく20分程度の動画が一度に2本。


「あーバズってるんじゃー!」

『部長』が閉まらない表情でスマホ画面を見ているが、その足元には人間だった肉と金属の塊を踏みつぶしている。

死亡して、強制送還にならないぎりぎりのライン、HPが一桁水準を地味に維持する感じで踏みつぶしている。


鳴り響くスマホの呼び出し音。女性警察官2人組はひじょーに嫌な予感をしながら電話をとり、後悔した。

上司のお叱り電話である。何しろ『代々木ダンジョン村』での騒動、警察側の情報はほとんど開示されていないとはいえ、何が起きているのか動画コンテンツとして大流出しているのだから。


「どんどんどんどん、トレンド入りしていきますです!!」  「ふっ、これでWeたちも一流エンターティナーかな?」

「師匠に見られたら、技の切れが悪いとか叱られそうや……」

かくして4人組はバズった。なんか明後日の方向に


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