第4章 2.


   2.

 ダイビングスポットにやってきた4人組。いつもの手続きをさっさと行い、ダンジョン内部での雑談配信に向けて準備をしながら入場を待つ。何やらいつもより騒然としているスポットだが、特に気にせず動く。

傭兵の数がやたら多いとは思うが、そういう日もあるだろう。


「『部長』。所持してるすべての弾薬を見せてくれませんか?」

「ん、拒否する!」  「「「なら、すべての弾薬を無理やり取り上げますね」」」

横暴だー! と叫ぶ『部長』。そんなやり取りを数度行い、係員がそろそろいいですか? と声をかけるころには4人全員の息が荒い。

この常連客4人をよく見てきたベテラン係員は特に表情を変えることなく、いつも通り4人をダンジョンへと送り出した。


「さてと、あの4人、雑談配信とか言ってたけど何するんだろう?」

仕事が終わった後にでもあの4人組が始めたとかいう動画を見ることを決意しながら次の人々をダンジョンへ送り出す仕事に取り掛かる。




ダンジョン用の電動マウンテンバイクのバッテリー残量を見ながら、4人組は走り出す。

鍾乳洞を思わせる空間。そして石畳にレンガ積みの壁。

地下迷宮を思わせる空間。そんなちぐはぐな世界。そんな、『第1階層レベル1』。


「だめだ。この動き難しい」  「そうですか?」

移動しながらトリックショットの動きの練習を行う。すなわち、走るバイクのうえで飛び上がって、ハンドルの上に立つ。雑技団かな?

いちちゃんが成功し、外の3人が失敗していく。


「で、この動きを動画にどう生かすんです?」

「「「…………」」」

とりあえず見たものに影響を受けただけなので、特にない。しかしそれを口に出したらなんとなく負けた気になると感じた3人は押し黙るしかない。


「とにかく、雑談配信をするんや。とはいえ、ただしゃべるだけでもおもろない。カメラの背景に情報量が多い状態にするんや。

そう、誰かが無駄に派手な動きをして無駄に時間をかけてモンスターを倒す場面を流しながら雑談配信をする!!」

無駄に派手な動き、無駄に時間をかけて、人によってはそれを『拷問』と呼ぶ。ともあれ、4人組はそれに気づかずその場合、派手に倒せるモンスターは何がいいかという談義に話が進む。


「どうせなら、わかりやすく強敵感があるものが良いわ」  「ゴジラくらいにでかい怪獣でも出てきたら楽なんですけど」

「いやいやいや、比喩にしてもゴジラみたいな大怪獣を期待する方がさすがにバカや。そもそもレベル1やで?」

「ウォッチしているピープルが雑談内容より後ろの状態に気になるもの……そんな都合のいいヴィジョンがありますかね」

「……とりあえず爆発させよう。ド派手な爆破シーンがあればそれだけでインパクトよ!」  「「「!」」」

なにやら普遍の真実? に気づいた表情をする『部長』に反論が思いつかなかった3人は大量の爆薬を確保しに動く。

すなわち、ここ最近彼らが勝手に『弾薬庫』と呼んでいる場所、大陸系採掘企業を次々とぶん殴ってそのまま放置した戦場跡に行くのである。

東側系統のライフルから西側系統、弾薬も古今東西そろっているので、あえて通報せず、必要があればその場所から漁ってくるというスタイルである。


「最近、明らかに私たち以外も漁りまくってる痕跡があるのよねぇ」  「本当は通報しなきゃです。でも黙ってくれてるわけですから、良いじゃないですか」

『部長』と『いちちゃん』がそんな話をしながらマウンテンバイクは時速60キロくらい出しながら突き進む。

石畳だからこれくらいの速度が出せる。それ以外だとさすがに無理。

時折すれ違う冒険者たちは4人組の自転車高速走行に目を丸くする。そんな彼らをしり目に4人組はつい先日ぶん殴って特殊部隊用のバギーを炎上させたポイントに到達。

戦車をぶっ飛ばした時に比べて小さくなった『百億万』の武装部隊を蹴散らしたその場所は、あちらこちらに機械の残骸が散乱し、今も大量の高カロリー食料パックがあちこちに飛び散っている。


「うーん、私たちが吹っ飛ばした時より食料パックが減ってるわね」  「誰かがこっそりと持ち帰ってますね。まぁ、それくらいは良いんじゃないですか」

『オキタ』がカメラドローンで一望させ、その映像を見ながら、この間吹っ飛ばした時から変わってる場所を探す。


「Thisのコンテナが明らかに中身ロスト。まぁ、Weの後にここに来た誰かがこっそりシーフしたのね」

「とりあえず、爆薬は盗まれてなかたで。とはいえ、次はないかも知れへんから、今日でもてる分は持っていこか」

そんなこんなで弾薬の類やついでにスマホの翻訳機能片手に何やら四川料理っぽい食料パックを1人2食分ほどもらっていく。


「おっ、前は気づかなかったけど、ここにポーションがあるじゃん。お宝見っけ(^^♪」

せっかくダンジョンに来たのに、お宝の意味が何やら変だということを今更指摘できるものはここにはいない。

そうやって何やらホクホク顔で荷物をぱんぱんに増やして、さて出発だとなったとき、それは現れた。

すなわち、モンスター発生警報が鳴り響き、彼らが定番の獲物にしているトロールが現れたのである。その数5体。


「『オキタ』!! カメラカメラ!」  「もうやってる!」

大慌てで彼らの『雑談配信』(笑)を始める4人組をドロールは標的に定める。


Tips:『トロール』……主に北欧文化圏において語り継がれる妖精のこと。それを元ネタとするダンジョンに出現するモンスターに与えられた名前。正確には今4人組が相対しているのはグリーン・トロールと呼ばれる個体である。

その見た目は毛むくじゃらの巨人であり、伝承通りといえるが、その伝承自体が地域によって細かく内容が違う。

よって、厳密には伝承ではなくTRPGゲームなどの影響で名付けられた側面が大きいといわれている。

巨大な棍棒を武器として振り回す。


「はい! というわけで今日はダンジョンから雑談配信です!」

後ろで5体のトロールが今まさにぶん殴ろうとしている瞬間を背景に『部長』がカメラの前でしゃべり始める。

そして、いちちゃんが矢で両目を貫いて1体が振り回した棍棒を仲間にぶち当てる。


「ここはレベル1、座標は32.6度、128.6度の西方付近! 見ての通りこの辺は石畳のエリア! おかげですいすい移動できる!」

同時接続数は4人。まぁ、こんなものだろう。なお、その後ろでワイヤーで亀甲縛りにされたトロールが1体、仲間のはずなのに盲目化したトロールにタコ殴りにされてる。


「といった感じで今日は予告通り雑談配信でーす。質問とか答えちゃうよー」

後ろで、トロールが1体、文字通り手足がもげてダルマになって、自主規制君という自動編集AIが直ちにモザイクをかけた。

かなりのカオス配信になっているが、同時にグロでもあるので、同時接続数が1人減った。


「まずは、DMに届いていた質問に答えちゃうよー。冒険部はこの4人だけかって? はいそうです。4人です! だから新入部員募集中!」

後ろで、トロールを邪神に奉げる儀式のごとく貼り付けにして火をつけているが、雑談配信である。


「自己紹介をもう一度してほしいってものもありました。経歴とかそういうのも欲しいって。というわけで、まずは私から!

西崎 杏にしざき あんず』、役割は前衛、指標は近接反撃99スコア、冒険部の部長をしてます。『部長』って呼んでね! こう見えて中学の時に薙刀術全国大会で準優勝しました! おじいちゃんは退官後、実家の武術の道場を次いでやってます! お父さんとお母さんは自衛官!

ダンジョン歴は7年くらい? 両親にはのびのびとやらせてくれて感謝です! グアムで射撃練習に付き合ってくれたりとすごくいい両親です!」


Tips:『指標』……あくまでも便宜上のものなので絶対的なものではない。

近接は砲撃に強く、砲撃は機動に強く、機動は近接に強い。三すくみ。

攻撃は防御に強く、防御は反撃に強く、反撃は攻撃に強い。三すくみ。

つまり、理論上『近接反撃99スコア』と戦う相手は『機動防御』で99以上のスコアを持つ人間でなければ勝つことは極めて難しい。

指標は、あくまでも様々な不確定要素を考慮せず1対1の真正面からのぶつかり合いのみを考慮しているので、絶対ではないが、ダンジョンにおいては極めて有用な戦力判定となる。


「あっちで戦っているのはカメラ担当の『オキタ』。えーと……本名『小北 壮太こぎた そうた』。役割は中衛で指標は『砲撃攻撃49スコア』!

実はクレー射撃、ラビットって競技の選手もしてます! ひょっとしたらオリンピックも狙えるかも? って実力です。実際、『オキタ』の武装ってショットガン多いんだよね。投げナイフにワイヤー括り付けて戦うスタイルを普段は取ってるけど、本気出すと次々といろんな散弾銃だすし。

ダンジョン歴は聞いてないけどたぶん5年くらいあるんじゃないかな」

視線を向けられた『オキタ』は軽く手を振る。なお、その両手に備え付けられた特注の小手からは無数の投げナイフを収納している様子と、ワイヤーを制御するための滑車がくるくると回り、顔面ナイフだらけになったトロールの動きをワイヤー制御しているのがよく見える


Tips:『クレー射撃、ラビット』……クレー射撃競技の一種。ラビットと呼ばれる『的(まと)』が地面を無数に転がしそれを素早く撃つ。

Tips:『砲撃攻撃49スコア』……『オキタ』の指標。不確定要素を考慮せず1対1の正面からの戦いのみを考えたとき、彼に勝つには近接反撃で49以上の人間を連れてくればよい。


「あそこで水飲んでいるのは、『関西』、小さいころに関西に住んでいたせいで関西弁を喋ってるらしいけど、私でもわかる。あれは似非関西弁だ。

ってわけで『関西』って呼ばれているの。『東条 悠馬とうじょう ゆうま』、役割は前衛で、指標は『近接攻撃51スコア』。

ああ見えて道場の息子で姉弟子を追いかけてダンジョンにきてるらしいよ。一途だねぇ……」

「まてや! 絶対なんか、変な事言うとるやろ!! 『部長』のそのにやけ顔!!」

日本刀と脇差の二刀流に短機関銃を組み合わせたバトルスタイルを得意とするが、部の方針? とやらに従って、普段は薙刀とライフルで戦っている。

とても器用である。


「最後は、私の大親友! 『いちちゃん』! 『阿南 一花あなん いちか』で、役割は中衛、指標は『機動攻撃49』!

すごいでしょ、あの娘、マウンテンバイクに乗ったまま戦っているんだよ!? 私今でも信じられないもん! 将来絶対でかいバイクにのるって!  ハーレーみたいな! 私ハーレーしか知らないけど!」

「そこはかとなくバカな声が聞こえますです……」

ダンジョン用の電動マウンテンバイクを乗り回しながら、薙刀を馬上槍のように振り回し、ついに拷問に苦しめられているトロールの首をはねて楽にして挙げた。

いい加減可哀想に感じてきたのである。

かくして、『部長』の背景に映るトロールの残滓がモザイクにかけられ、『部長』以外全部モザイクになったところで、カメラ担当の『オキタ』が気づいた。


「『部長』!! この路線バットアイデア!! リアルタイム配信なのに、モザイクだらけ!!」

「ぇえ゛!?」


【ちゃこちゃこちゃーこ】

【田中正造Mk.3】

えぇ……

【read-meZ】

気づいてなかったのか・・・・


配信を見てくれたごくわずかな人たちの素直な感想である。

気を取り直して、配信の続きである。ただ、この場所、何映してもモザイクが走りそうなので、移動しながらの雑談配信とすることにした。

が、いざカンペとかが無くなると


「何喋っていいかわっかんなーい!!」  「「「いや、こっちも同じだけど(です/や)」」」

ダンジョン用の電動マウンテンバイクを乗り回しながら叫ぶ『部長』とその『部長』から厄介なバトンを渡されてはなるものかと拒否姿勢をとる3人組。

そんなやり取りを数回繰り返しているときにそれを見つけた。


「あそこの地底湖の周り、なんか人集まってない?」

「『春日運輸警備』……境界線の哨戒業務を受注した『傭兵企業』じゃないですか。なんであんなところで固まっているんでしょう?」

「行ってみましょうよ!」

カメラドローンが後を付いて回る事を考慮して、やたら説明口調になってる4人組は日本企業の傭兵たちが集まっている地底湖へと足を向ける。

何やら近づくにつれて剣戟や濁った銃声が聞こえてくる。


「22口径かな。この銃声」  「数を重ねれば22口径にも意味はありますです。1発? 意味あるんですかね……安いのを選んだ感じですかね」

「現実のサプレッサーは映画みたいに音を小さくしてくれん。でも22口径の1~2発なら映画並み……は無理でも近いところまではいけるんやで」

『関西』の銃火器豆知識を聞き流す3人組は自分たちに敵意をないことを示すべく両手を挙げて、『こんにちわー!』と大声で話しかける。


「何かあったんですかー?」  「君たち、ここは危ない! それとそれ以上近づかないでくれ。我々は警戒中だ」

日本刀の刃先と銃口を向けられ、静止を命じられる。


「誰かが誘因装置を埋め込んだらしくてね、次々とモンスターの大群が発生したり集結してきているんだ」

「!?」  「えっ、マジですか」

「マジだよ。さっきから倒しても倒してもきりがない。この場所から離れれば関係ないが、時間がたてば集まったモンスターが周囲一帯に散らばって、資源採掘業務の妨害になる」

「その……埋め込んだ誘因装置っていうのを何とかすればいいんでは?」

『いちちゃん』の疑問に対して、傭兵たちは指をさして返事をする。その指の方向には明らかに人工的に作られた小さな丘があった。

あの丘をどうにかしようとすれば、重機を持ち込んでやらないと時間がかかりそうだ。大岩から砂からいろいろなもので出来ている。


「……発破すれば?」  「爆薬が足りないんだ。あと、それどころじゃない」

けたたましく鳴り響くモンスター発生警報。なるほどさっきからこんな状況で爆薬も足りないとあれば、誘因装置とやらをなんとかするのは難しいだろう。


「『部長』!」  「まさに天の助け、これは私たちの人助けを放送しろという神のお導き」


【田中正造Mk.3】

そうか? そうなのか? そうかも?

【京都在住の男@ちーきたんガチ恋勢】

しっかりいたせ


現れるトロールとゴブリンの群れ。一反木綿の姿も見え隠れする。

軽く見る限り全部で十数体はいるだろう。傭兵たちが日本刀や槍、ライフルをそれらの怪物たちにその矛先・銃口を向ける。

そして、それを見ながら冒険部4人組は思うのだ。


(((よし、私達で発破してあげよう)))

『百億万』という大陸系王手採掘企業をカツアゲして手に入れた爆薬の使い道は決まった。

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