EX.3 一騎当千、万夫不当(side:長名馴染)

 あれから約一ヶ月、私たちは訓練を続けていた。

 今日はレオンさんとの戦闘訓練だ。


 レオンさんが持っているのはとても武器としては使えないような、ただの木の棒だった。

 妖愛の解析でも、何か特別な枝と言うわけではなく、本当にただの木の枝らしい。

 にも関わらず、この威圧感。

 まるで龍と対峙しているような気分だ。


「『常勝無敗の空覇王イスカンダル』!」


 スキルを使い、全員に英霊を付与する。

 これにより全員のステータスと技量が跳ね上がった。


「さあ、行くわよ!」


 私と星歌と伊織の3人で突撃し、レオンさんを狙う。

 レオンさんは私たちの猛攻をものともせず、巧みに捌いていった。


 この剣ホントに聖剣より強いのよね!?

 木の枝に捌かれてるんだけど!?


「チェストォ!」


 伊織が頸を狙い突きを放つ。

 だがそれも容易く弾かれてしまった。


「『秘剣・三段返し・二天』!」

「っ!」

「軽々と捌かれた!?」


 突きと斬撃、2つの性質を併せ持つ攻撃、それが全く同時に12撃放たれた。

 流石としか言いようがない。

 この世界に来て強くなったことで、伊織の凄さを改めて実感することになった。

 純粋な戦闘力はともかく、恐らく技量で伊織に敵う日は来ないだろう。

 それはそれとして突きと斬撃2つの性質を併せ持つ攻撃って何?


「凄いね君。その刃は僕に届き得る。闘気無しで戦技と同じ現象を起こせるなんてね。闘気を込めれるようになれば僕に傷をつけることも可能だろう」


 彼は心の底から称賛してるようだった。

 あっさり防いじゃったけど、彼からすれば将来彼に届く可能性があるってだけで、称賛に値するのね。


「ならこれはどうですか!」


 伊織は刀を鞘に納め、限界まで低い姿勢で居合の構えをとった。

 彼女は目を瞑り、口を閉じる。

 歯の隙間から吐息が漏れるような音がする。

 伊織が目を開いた、その瞬間──


「『絶剱・神薙』」


 一閃。

 伊織が放ったその神速の一振りは、レオンさんの頬に切り傷をつけた。


「っ!?」


 傷は直ぐに塞がったが、彼のの顔は驚愕に染まっている。

 確か『秘剣・三段返し・二天』の12連撃を収束させ、1つに束ね究極の一撃を放つ技、だったはずよね。

 同時刻、同座標に発生する12連撃が重なり合うことで威力を飛躍的に増幅させ、相手の硬度を無視して切り裂けるらしい。

 はっきり言って意味がわからない。

 なんで元の世界で使えてるのかしら。


「ふふふ、本当に凄いね。僕に傷をつけるなんて」


 あのキラキラした目はよく知っている。

 面白いものを見つけた時の目だ。


「ブルジュ・ハリファくらいは一刀両断出来る威力なんですけど? なんで掠り傷で済んでるんですか」

「そんなものを僕に使ったのか君は」


 なんでブルジュ・ハリファで通じてるのよ。

 まさかブルジュ・ハリファまで異世界に来てるとか言わないわよね?

 いや、そもそもなんで掠り傷で済んでるのよ。

 あの技相手の防御力とか耐久力とか無視してダメージ与える系の技でしょ?

 仮にあの斬撃に耐えれる頑丈さでも意味ないと思うのだけど。


「さぁ! ボーっとしてないでどんどんかかってくるんだ!」


 彼の背後に近寄る影が1つ。


「『首狩──「させないよ」きゃあ!」


 彼の木の枝は的確に暮愛の踵を穿つ。

 彼女の体が崩れ、無数の桜の花びらが舞い散った。


「わ、私の……ミスディレクションが……全然……通用しない……ど、どうしよう……お兄ちゃん」

「ムムム……蕾氏以外で暮愛のミスディレクションに対応出来る人間が存在するとは……世の中広いですなぁ……」

「異世界だけどね! というかそんな呑気にしてないでちゃんと戦いなさいよ! 殴るわよ!?」

「そういう所ですぞ!?」


 どういう所よ!

 本気で殴るわよ!?


「『雷槍サンダー・ランス』!」 

「『聖なる一撃ホーリー・スマイト』!」

「火遁『業火滅却』!」


 私、先生、暮愛の放った魔術と忍術が彼に襲いかかる。

 正直これでも目眩まし程度にしかならない気がするけど、何もしないよりはマシよね。

 だが──


「光よ」


 その一言で魔術が全て掻き消えた。


「ウッソでしょ!? どこまで規格外なのよ!」


 理屈は理解できた。

 あれは攻撃用の魔術でも魔術を打ち消す魔術でもなんでもない、ただ光を灯すだけの魔術だ。

 それに魔力を込めまくって濃密な魔力で私達の魔術の魔力を押し流しているだけ。

 つまりはほとんどただの魔力放出だ。

 私が同じことをしようとしても、全魔力を消費して二節級ツーステップを打ち消すのが限界ね。


「絡め取って!」

「動きを止める!」


 理恵の背中から溢れるように触手が伸び、レオンさんの四肢を絡め取った。

 そこに真森が結界を張り、拘束具として利用する。


「『鉄拳聖裁』!」

「『重断ぐがあ゛』!」


 先生と獣乃が挟み撃ちにする。

 先生がぶん殴り、獣乃が斧を振りかざした。

 その瞬間、獣乃の斧から雷が迸る。


「喰らいなさい!」


 私の『常勝無敗の空覇王イスカンダル』による雷操作で獣乃の雷を何倍にも増幅し、レオンさんにぶつけた。

 砂埃が舞い、レオンさんの姿が見えなくなる。


 獣乃は狂化と獣化したうえで防御無視もあるし、先生も聖属性と格上への特攻があるから掠り傷ぐらいはついて欲しいのだけど……。

 ダメそうね。


「はぁ!」


 彼が枝を振ると、砂埃が吹き飛び視界が開けた。


「棒立ちとは余裕だね」


 風香を斬り裂くその瞬間、ふっと姿が掻き消える。

 いつの間にか風香はレオンさんの背後に立っていた。


「うしし、おとなしく攻撃を受けるとでも思ったかい?」


 風香は彼を煽るように周囲で転移を繰り返し、攻撃を避けて行く。


「転移か……なら! はぁ!」

「うぉっ!? 転移が失敗した?」

「どうやら空間ごと斬ったみたいです!」


 空間を斬るって何よ。

 もういちいちツッコんでたらきりが無いわね。


「砲身構築、回路接続、竜炉点火、魔力充填100%、収束完了……弾幕はパワーだよ、ってね」

魔宝霊核ジュエル・コア完全充填フルチャージ! 無垢なる輝きは収束し! 森羅万象薙ぎ払え!」


 風香が手を振り上げると、竜の頭を模した砲台が宙に現れた。

 同時に、知慧瑠の魔法のステッキにも眩い光が集まっていく。


 知慧瑠ったらノリノリね。

 詠唱必要ないとか言ってたのに、思いっきり詠唱してるじゃない。


「『竜爆魔砲ドラゴブレイク・バーストキャノン』」

「『宝玉魔砲マジカル・ジュエル・キャノン』!」


 2本の閃光がレオンさんに迫る。


「──聖剣、抜刀」


 彼の持つ枝から、光が溢れ出す。

 横に一振りすると、放たれた光の奔流が2人の攻撃を打ち消した。


「聖光満ちる主の奇跡よ、罪知らぬ無垢なる盾に宿れ。我が想いは揺るがず、我が決意は折れず、我が盾は砕けず。来たれ、あらゆる災禍よ、その全てを我が杯が受け止めよう」


 星歌が詠唱と共に盾を地面に突き立てる。

 すると、彼女の正面に器のような形状の守護障壁が展開された。


「『災禍注ぐ守護の杯ディヴァイン・グレイル・シールド』!」


 彼女は歯を食いしばってレオンさんの攻撃を受け止める。


「くっ! はぁぁあ!」


 少しずつ押し込まれて後ろに下がったが、なんとか受け止めきった。

 だが、彼は音もなく一瞬で星歌の背後に周り、地面に叩きつけた。


 あれって聖剣がないと使えない技じゃなかったかしら。

 なんでただの木の枝で使えてるのよ。


「勇者とは聖剣の担い手。故に勇者の振るう剣こそが聖剣である。ナジミ・オサナ。君も勇者の力を使いこなせばこのくらいはできるようになる筈だ」


 そんな無茶苦茶な……。

 いや最初から無茶苦茶なことばっかりしてたわね。

 本当に私達いる?

 もう貴方1人でいいんじゃない?

 どれだけ成長しても勝てる気がしないわ。


 その後タンクを担っていた星歌が倒れたことで、私たちも次々とボコボコにされた。

 限界までしごかれ、訓練は終了した。


「さて、無事に約1ヶ月の訓練を乗り越えたね。予定通り実戦を解禁してもいいだろう。っと、その前に、イリーナ王女、みんなの治癒を」

「はい! 分かりました!」


 イリーナさんは杖をトントンと地面に突いた後、空にかざした。

 すると、杖の先に嵌められている宝玉が光り輝いていく。


聖杖励起スタートアップ術式指定コードセット、『魔法強化エンハンス・キャスト範囲化エリア』、『治癒ヒール』、『疲労回復リフレッシュ』」


 彼女を中心に緑色の淡い光が広がる。

 みるみるうちに私たちの傷が癒え、疲労も軽くなっていった。


「みんな大丈夫かな? 君たちに明日からしてもらうのは、迷宮ダンジョン攻略だ。強くなるには魔物を討伐して魂格レベルを上げるのが手っ取り早いからね。君達なら力に振り回されることもないだろうし」


 ようやくレベル上げを出来るのね。

 訓練でもレベルは上がったけど、凄いゆっくりなのよね。

 一ヶ月の訓練で2しか上がらなかったわ。


「奴らが本格的に動き始めた。『陽焔の雷華』というAランクパーティーがデモニビル教団の幹部と交戦したらしい」

「それって確か、邪神を信奉する団体でしたよね?」


 大魔王復活の為に色々やってるっていう。

 いや、正確には大魔王復活は通過地点で本当の目的は邪神を顕現させることらしいけど。


「ああ、そうだ。ある冒険者たちがハイメリアの町近辺、リマジ森で小鬼之王ゴブリンキングを討伐したという報告が入った。その小鬼之王ゴブリンキングは通常より知能が高く、強さも規格外だったらしい。奴らの手によるものであることが分かっている」


 私たちで勝てるかしら。

 小鬼之王ゴブリンキングってAランクよね……。

 私たちの中でも戦闘特化のスキル構成なら単独で勝てるかもって所ね。

 戦闘が苦手な組でも2、3人でチームを組んで連携すれば勝てるでしょう。


「ちなみに、この件に関して君達には伝えておくべきことがある」


 何かしら。


小鬼之王ゴブリンキング討伐を成し遂げたのは3人でね。そのうち1人は『陽焔の雷華』の弟子なんだが……。名をライ・オチマと言うらしいよ」

「っ!」

「ら、蕾!? 本当に!?」

「らいっちいるの!?」


 来てると思ったけど……まさかここで名前を聞くことになるとはね。

 確か『陽焔の雷華』って女性2人組のパーティーよね。

 ……堕としたわね?


「現在はBランク冒険者……と兼任してアイドル活動に勤しんでるね」

「ア、アイドル……」


 何やってるのよアイツ。

 いや確かにアイドルやってる姿は想像つくけど。

 前の世界からやってみたいって言ってたものね。

 収拾つかなくなるから出来なかったけど。


「ま、まあなんにせよ楽しそうでよかったね」


 再会するのが楽しみだわ。

 もっと成長して、あっと言わせてやるんだから。




―――――




【真名】院知インチ妖愛ヨウマ

天職クラス改竄者ハッカー

【性別】女性

【身長/体重】158cm/42kg

【属性】秩序・善

【特技】四則演算、精密動作、妄想

【趣味】整理整頓、掃除、料理

【好きなもの】ラブコメ、妄想

【嫌いなもの】自分のことをからかってくる純情ギャル

【苦手なもの】失敗、敗北

【備考】

負けず嫌いでムッツリスケベな真面目系学級委員長。

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