EP.9 這い寄れ!無貌の神ちゃん

「アイドルとして働いてみない?」

「アイドルかぁ」


 確かに僕の天職クラスは『偶像アイドル』だけどいきなりそんなこと出来ないでしょ。

 歌は……まあ歌えるしダンスも……出来るね。

 クラス補正でもっと上達してるであろうことを考えたらまあアイドル活動できるのか?


「元の世界ではそういうことはしなかったのか?」

「僕がそういうことしたら収拾がつかなくなるから……」


 顔がいいからね仕方ないね。

 ぶっちゃけ僕の彼女達より僕の方がセクハラとか痴漢されるし。

 いや彼女達へのは未然に防いでるんだけどさ。

 僕への痴漢率が異常に高い。

 なんなら何回か誘拐とか強姦未遂とかあったし。

 大抵は脱がしてる途中で僕が男だって気づいて逆ギレしてくるんだけどね。

 あの町……っていうか僕の周り治安が死ぬほど悪いんだよね。

 行く先々で何かしら巻き込まれるし、逆に僕がいない時はめちゃくちゃ治安がいい。

 何故か被害に遭うのは僕だけだからいいけどさ、僕見た目女子中学生なんだよね。

 ロリコン多すぎないか?


「でもまあ、この世界でならやってみてもいいかな」


 こっちでなら身を護る力があるし、スキルや魔術を使えばトラブルが起きてもなんとかなるだろう。


「であればギルド併設の酒場で活動するのがいいだろう。ギルド内でアイドルや吟遊詩人等が活動するのは歓迎されている」

「ああ、そういえばたまに見かけますね」

「理由は単純に癒しになるからと言うのが1つ。もう1つは冒険者の生存率を高めるからだ」


 アイドルや吟遊詩人のバフのことか。

 確かに、効果が微量な代わりに長期間かけれるバフは幾つかあるね。

 僕の場合は、『偉大なる勝利の女神ニケ』によるバフを重ねがけしてるから、本来の効果がどれ程のものかは知らないけど。


「というわけで用意したのがこちらです」

「いつの間に!?」


 手渡されたのは純白のアイドル衣装。

 滅茶苦茶可愛い。

 スカートが異常に短いのは気になるけど、それ以外は文句なしだ。


「これを着て踊って歌ってもらいます」

「やります」


 即答した。

 こんな可愛い衣装を着れる機会を逃す訳ない。

 この衣装めちゃくちゃ品質がいいね。

 コスプレ用の衣装なんかとは比べ物にならないや。


「それじゃあ早速着替えてきて。もうギルドには許可取ってるから」

「はーい!」


 ギルドの更衣室に行き衣装に着替える。

 そして併設された酒場の奥に存在するこじんまりとした木製ステージの上に上がった。

 木製のステージの上に立つと、酒場の空気が一変する。

 冒険者たちやギルド職員の視線が集まるのが分かった。


「えへへ、ライ・オチマです! 精一杯歌うので応援してください!」

「「「うおおぉぉぉおきゃあぁぁぁあ!!!」」」


 男女ともに凄い熱狂っぷりだ。

 ホントに初ライブか?

 クラス補正だけじゃなく、『恐るべき魔性の小悪魔マタ・ハリ』との相乗効果もあってかなり凄いことになっている。


「それじゃあ聴いてください!」


 曲が始まった。

 軽快なリズムが流れ始める。

 そして音楽に合わせて、自然と体が動きだした。


「Lalala~Lalala~La~Lala~Lalala~」


 歌声を響かせ、それに合わせてダンスを踊り、軽快なステップを踏んでいく。

 跳ねる度スカートがひらひら揺れる。


 ちょっとそこ!

 スカート覗こうとしない!

 絶妙に見えない鉄壁スカートを維持するのも大変なんだからね!?

 これの為だけにスカートに闘気流して操ってるんだから!


「ライちゃん! こっち向いてー!」


 ニコッと笑顔を向けると一部の観客が卒倒した。

 しかも誰もそのことを気にしてない。

 あっれぇ?

 もしかして全力で『恐るべき魔性の小悪魔マタ・ハリ』使ってるせい?

 怖っ、これからはもうちょっと抑え気味にしよ。

 そうして3曲続けて歌った。


「みんなありがとー!」


 曲が終わった瞬間、酒場が爆発したかのような歓声が響いた。


「「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」」

「これからもよろしくね!」

「「「いえぇぇぇい!!!」」」


 こうして僕の初ライブは大盛況で終わりを迎えた。


「ふぅー楽しかった」

「ずいぶんノリノリだったわね」

「まあね」


最高だったよ。

他人の注目を浴びるこの感覚がたまらない。

歌もダンスも楽しいし承認欲求まで満たせる。

こんなに楽しいものだったのか。

またやりたいな。

なんて考えていたら、数日後、ヘレンさんに呼び出された。


「ライ君、少しいい?」

「ヘレンさん? どうしたんですか?」


「ギルドからの指名依頼があるの」

「指名依頼?」


 確かそれってCランク以降じゃなかったっけ。

 僕まだD++ランクなんだけど……。

 因みに+はランクアップの基準を満たしていないが戦闘能力は高い場合に与えられ、討伐依頼限定で上のランクの依頼を受注できるようになる。

 僕の場合D++だからBランクの討伐依頼を受けれるというわけだ。


「ええ、というわけで依頼を受けてくれたらC+ランクに昇格するわ」


 えっ、いいんですか?

 Cランクの昇格条件って盗賊討伐が必要だったはずじゃ。

 人を殺せるかの確認だったよね?


「いいのいいの。ギルマスの許可も出てるしね。ギルマスの権限ならBランクまでは勝手に昇格できるのよ」


 そうなんだ。

 でも、ギルマスまで許可してるって一体どんな依頼なんだ?


「それでだけど、ライ君には定期的にライブをしてもらいたいの」


 定期ライブを?


「ライくんのライブ、明らかにバフによる強化率が高いのよね。お陰で次の日だけ依頼達成率がかなり上がったわ。それと、単純に人気だからよ。たった一回であの時ギルドにいた全員を魅了するなんて、凄いわね」


 あー、そういうことか。

 確かに僕のライブなら色々強化されて単純な戦闘力以外も向上するから、採取依頼とかにも役立つしね。


「ライブ一回につき銀貨5枚。最低月4回行ってもらいたいの」


銀貨5枚も!?

この世界の貨幣は下から銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨で、10枚ごとに上の硬貨と両替できるという風になっている。

銀貨5枚あれば一般的な平民なら一か月は暮らせるはずだ。

でも月4回……。

となると週一ペースでしないといけないのか。


「でも定期的に出来るか分からないよ? ずっとこの町にいるとも限らないし、長期依頼を受けたりするかもしれないし」


拠点の転移機能を解放すればなんとかなるかな。

でもあれ一方通行だしなぁ。

相互に転移できるようになれば多分大丈夫だろうけど。


「町を出る時は事前に伝えてくれたら全然良いわよ。その辺りはギルドの方で調整しておくから」

「ああ、それなら問題ないね。じゃあ受注するよ」


こうして僕はアイドルとして本格的に活動することになった。




―――――




僕がこの世界に来てから3週間。

今日はとうとう僕の槍が手に入る日だ。

アリス達は何か重要な依頼を受けているらしく、町にいない。

どんな槍なんだろうとワクワクしながら、マサムネさんの鍛冶屋に向かった。


「マサムネさん!」


意気揚々と鍛冶屋に入る。

だけど、マサムネさんは眉に皺を寄せて俯いていた。


「どうしたんですか?」

「ああ、ちょっとな……そうだ、槍、出来たぞ」


そうしてマサムネさんは槍を持ってきた。

その槍は黒や紫が混ざり合い、柄には眼球がいくつも蠢いていてとても禍々しかった。

更に、黒い霧や星雲のようなものを纏っていて輪郭があやふやだ。


「銘は『無貌の神槍ナイアルラ・ケイオス』。俺の最高傑作だ」

無貌の神槍ナイアルラ・ケイオス……」

「本気の槍を鍛つとは言ったが、まさか神槍が出来上がるたぁ思ってもみなかったぜ」


神槍!?

なんか滅茶苦茶凄そうなのが出来上がってるんだけど!?

絶対今の僕が持っていいようなものじゃないよね。

でも……。


「その割にあまり嬉しそうじゃないね。何があったの?」

「分からねぇ。何かあったのは確実だが、それが何か、俺の眼でも把握できなかった。しかもこの槍を鍛ってる間の記憶がかなり朧気なんだよ。誰か、冒涜的な、聞いていると気が狂いそうになるような女の声が聞こえたような気はするんだが……」

「冒涜的な……女性の声?」


それってまさか……。

いや、まさかね。

だって彼女はこっちの世界に来てないはずだ。


「心当たりがあるのか?」

「友人にそんな感じの雰囲気出してる女性はいるんですけど……こっちの世界に居る筈がないので多分違いますね。この世界と違って元の世界には魔術とかスキルとかそういうのは存在しないので」


まあ彼女、神出鬼没過ぎてなんか超能力とか持ってそうな雰囲気だしてたけどさ。

例え何か持ってたとしても流石に世界を超えて干渉は無理だろうし。

いやでもこの槍既視感が凄いんだよねぇ。

もしこれに彼女が関係してたとしたら……彼女は一体何者なんだ?


「そうか……なら違うんだろうな。スキルや魔術の存在しない世界なんて想像がつかねぇが、確か代わりに科学ってのが発展してるんだろ? 一度見てみたいぜ。そんじゃ早速槍を握ってみろ」

「はい!」


手に持つと、無貌の神槍ナイアルラ・ケイオスは形を変えた。

柄は木製に、穂先は純白に変化し、ルーン文字が刻まれる。


「えっ!?」

「なるほど……そうなるのか」


マサムネさんは何かを一人で納得したようにうなずいた。


「これは一体……?」

「これがその槍に宿ったスキルだ」


そうしてマサムネさんは紙切れを渡してきた。


這い寄る無貌の邪神ニャルラトホテップ

*変幻自在に形態を変化する。

*自身の並行体を生成する。

*装備者の並行体を生成する。

*認識阻害を付与し装備者を認識できなくする。

*装備者の外見を自由に変化させる。

*攻撃時対象の正気度を奪う。


形態を変化する……。

これは一体どんな形態なんだろう。


「そいつの銘は『大神穿つ回帰の槍グングニル』らしいぜ」


大神穿つ回帰の槍グングニル

グングニルって北欧神話のオーディンの槍だったよね。

となると……『輝く槍の戦乙女ブリュンヒルデ』か?


──性質変化、聖職者ヒーラー


クラス、『炎に焼かれし奇蹟の乙女ジャンヌ・ダルク』。

僕がスキルを使うと、槍はたちまち旗へと変化する。

旗には白百合の紋章が刻まれていた。


「今度は『奇蹟起こす白百合の旗ラ・ピュセル』だそうだ」


やっぱり!

この槍、僕の天職クラスの性質付与に反応して形態を変えている。


「僕にピッタリの武器だ……」

「やっぱり、能力も変化するのかな」

「『大神穿つ回帰の槍グングニル』だと投げると必ず命中し装備者の元に帰ってくる能力、『奇蹟起こす白百合の旗ラ・ピュセル』は味方の強化や回復とかの能力があるな」


なるほど……。

名前通りの能力だね。


「ところで、並行体って言うのは分身とは違うの?」

「おう、並行体っていうのは分身体の上位互換でな。全てが本体なんだよ。ただ、並列思考が出来なきゃ碌に扱えなかったはずだ」

「それなら問題ないね。並列思考はいくつか出来るから」


複数の魔術を同時に行使するのに必要だからね。

本来は高等技術らしいけど、元々僕に適性があったみたいで3個の並列思考が出来るようになった。

つまり今の僕なら並列体を2体まで出せるわけだ。


「まあ、その能力がなくても俺が24つの付与効果エンチャントを刻んでるからな。毀れず、折れず、あらゆるものを穿ち貫く究極の一振りだ。大事に使えよ」

「ありがとうございます! マサムネさん!」


この槍に相応しい人間になれるようにもっと頑張らなくちゃ。




―――――




【真名】無貌の神槍ナイアルラ・ケイオス

【武器種】神槍

【能力】

這い寄る無貌の邪神ニャルラトホテップ

*変幻自在に形態を変化する。

*自身の並行存在を生成する。

*装備者の並列体を生成する。

*認識阻害を付与し装備者を認識できなくする。

*装備者の外見を自由に変化させる。

*攻撃時対象の正気度を奪う。


付与効果エンチャント

『筋力超強化』『敏捷超強化』『魔力超増幅』『超加速』

『貫通力超強化』『身体超強化』『穿貫』『硬質化』

『重量無視』『破壊力超強化』『武装破壊』『吸収成長』

『攻撃力超強化』『射程超強化』『投擲超強化』『速度超強化』

『螺旋貫通』『重量超増加』『魔力吸収』『拡声』

『追尾』『盗難防止』『自動修復』『不壊』

【説明】

世界最高峰の鍛冶師、マサムネ・センゴが鍛え上げた最高傑作にして究極の一振り。

あらゆる敵を貫く究極の聖槍……になるはずだったもの。

異世界の神格、その化身が這い寄ったことにより、その力の一端を宿した神槍へと昇華された。

今の蕾では槍の力をほとんど引き出せない。

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