異世界でのんびり農家をしようとしたら、何故か勇者にされた!?

カラスのカンヅメ

第1話 農家になりたいだけなのに、モンスターが収穫されました

 俺の名前はユウト。かつてはブラック企業の歯車として、日本の片隅で働いていた。

 朝は満員電車、夜は終電。上司の怒号と作り笑いでボロボロのメンタル。気づけば栄養ドリンクより濃い色の涙を流していた。


「もうダメだ……このままじゃ人生が腐る……」


 そんなことを考えながら、帰り道にトラックに轢かれ、気がついたら異世界だった。


 お決まりのパターン? そうだよな。でもそのときの俺には“生き返ったような喜び”しかなかった。

 魔法? 剣? 英雄? まっぴらごめん。

 俺がこの世界で目指すのはただ一つ――


「のんびり、農家になるんだ……!」


 転移先の神様がくれたスキルの中から、俺は迷わず【収穫適期】を選んだ。

 なんでも作物がもっとも美味しく実る“最適な瞬間”が一目でわかるらしい。


 スキル説明を読んで、俺は確信した。


 これは……野菜界のプロフェッショナルスキル!

 俺の田舎ライフ、始まったな。



 あれから三ヶ月。森の外れに建てた小屋に暮らし、畑を耕す日々。


「今日のカボチャ、そろそろだな……収穫っと!」


 スキルのおかげで、野菜の収穫のタイミングが驚くほど快適だ。

 まるで野菜たちが「今が一番おいしいよ」って教えてくれるみたいに輝いて見える。


 いやあ、平和っていいなあ……。


 そう思っていた矢先だった。


「ガアアアアァァッ!!」


 獣のような咆哮とともに、森から巨大な影が現れた。

 全身に鋭い棘を生やしたトカゲのような怪物――スパイクドラゴン。


「う、うそだろ!? なんでこんな凶悪そうなモンスターが、俺の畑にぃぃ!」


 のんびりスローライフは、数ヶ月で終了した。


 逃げようとしたそのとき、スパイクドラゴンの体に妙な“光”が見えた。

 ちょうど、右目の上あたり――そこだけ、やたらと“刈り取り時”みたいに輝いていたのだ。


 ……あれ? なんか、カボチャみたいだ。


「ま、まさかな……でも、何もせずに、食われてたまるか!」


 俺は手に持っていた農具――鋭く砥いだ鎌を構える。


 狙うは、あのピカピカ光ってる部分……それだけに集中し、夢中で放った一撃が――


 ザクッ!!


「ギャアアアァァァァァッ!!!」


 ――スパインドラゴの急所を貫き、その巨体が崩れ落ちた。


 しばし沈黙。


「嘘だろ……収穫できた……ってこと?」



 その数日後。


 俺の小屋の前に、村人に報告を受けた王国の騎士団がやってきた。


「Sランクモンスターを、たった一撃で……!? そなた、名を名乗られよ!」


「いや、俺はただの農家で……」


「いやいやいや、ただの農家がモンスターを倒せるなら、我々は何を倒すのですか? 貴方は“勇者”様に違いない!」


「やめて!俺は、野菜が育てたいだけなの!」


「わかりました、そこまで言うなら、畑仕事の合間に魔物を収穫していただければ結構!」


「やだ、なに、その日本語こわい!」


 その日を境に、俺の名前は王都中に広まり、「収穫の英雄」「鎌の勇者」「魂刈りのユウト」などという妙な二つ名が量産された。


 そしてなぜか、冒険者ギルドのSランクに登録され、王城からは召喚状が届いた。


「……俺の平穏な生活が、どうしてこうなった……」


 だが、このときの俺はまだ知らなかった。


 この“収穫適期”というスキルが、ただの農業補助ではなく――

 とんでもないチートだったことを。


 次回、王都へ行く羽目になる農家(仮)!

 彼の農具(武器)は、さらなる強敵たちを“収穫”していくことになる――!


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