Day22 さみしい

 勉強が出来るのは良いことのように言われるが、それも程度による。タクがそう気づいたのは十歳の時だった。

 勉強が好きで、好きなことを続けてそれが結果になることが楽しかった。大人は褒めてくれるし友達は凄いと言ってくれる。だが次第に彼らとの会話が噛み合わなかったり、タクの意図が伝わらないことが増えた。

「難しいことを言う」「頭がいいことを自慢している」

 そんなつもりはない。しかし悪意は駆け足で皆の間を走り抜けていく。どれだけ話しかけても、挨拶をしても、返ってはこなかった。

 まるでタクが同じ人間ではないと言っているかのように。

──じゃあ、人間じゃない友達を。

 同じ人間ではないと弾き出されたのなら、自分と同じような相手を作ればいい。それは必ずしも人間である必要はない。

 名は自分の名前にちなんでナタク、背丈も同じくらいの男の子のロボット。人工皮膚の下は無数の機械が動き、頭の中では高性能のAIが詰まっている。

 初めは赤ん坊にハイハイを教えるようなものだったが、歩けるとわかった途端のナタクの学習速度はタクのそれを超えていた。

 ある時から、彼の話す内容の意味がわからないことが増えた。

 必死になって勉強をしたのは初めてで、今日は追いついても明日の朝には差が開く。昼夜を徹して勉強に勤しみ続けていると、その内にナタクの話がわかるようになっていった。初めは喜んだものの、ナタクの学習速度を思えばあり得ない。

 調べると、ナタクは意図的に学習速度を落としていた。まるで、タクに足並みを揃えるかのように。

 何故、と尋ねると、ナタクはぽつりと呟いた。

「タクと同じじゃないから」

 だから、と続ける。

「さみしい」

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