1-4 獣王国との戦争

36 あいさつ回りをしましょうね



『獣王国は徐々に前線を後退させていった』


 この字面だけを見ると、獣王国が劣勢で汎人側が優勢と見える。

 だが、実際の損耗を聞いている限り……。

 

「本当にこのまま最後の城に向かうんですか?」


「ええ。それに情報によると付近では足場も悪く、徒歩で行軍をするべしと」


「……なるほど」


 ジルの説明を受けながら、俺はその読んでいる紙を見る。目を凝らしていると傾けてくれた。


「死傷者数と撃退数が釣り合っていないと思いますが」


 こちらの軍を削るために戦い、損耗が出そうになると砦を捨てている。

 彼らにとって【砦】はなんの価値もない。

 獣人アンスロに屋内戦闘は向いていない。彼らの背丈は高いからな。

 ただの目印として機能をしているだけ。その価値観をコイツらは知らない。


獣人アンスロ側がこちらを引き込もうとしていると?」


 というと、ジルは肩を竦めるようにして、


「アイツらにそのような知恵はありませんとも」


 ジルもそんな評価をしているのか。

 個人的にはこの老兵さんには期待をしていたんだがなあ。

 まぁ……298年経っても扱いが変わってないんだし、無理か。


「勇者様が目覚められたことは皆には伝えていますでしょうか?」


「いいえ、まだだ。ソラ王子は勇者様のことを尊敬しておられる」


 サプライズの方が面白いと思ってな、とジルは砦の守備隊長と話を続けている。


 今、俺らは黎明国軍と剣王国軍が占領した砦の兵士達と立ち話をしていた。


 あの通信魔道具とやらで事前に聞いておけよと思ったが、連絡できる距離がまぁまぁ短いらしい。人に中継をしてもらえたら連絡を取り合えるみたいだが……現実的ではない。よって、現場の声をこう聞いている訳だな。


 で、話を聞いてるとよく分かる。コイツら、獣人アンスロを舐めすぎ。

 

(油断されている方が良いのではないか?)


(そりゃあそうだ)


(ならば、なぜ、獣人アンスロの作戦に気づかせようとしている)


(ある程度、そういう頭がないと俺も死ぬだろうからなあ)


 獣人アンスロは本気だ。

 全力のナモーの相手にしたら、今の俺では勝てない。

 それに士気が高い獣人アンスロを相手にしながらだと……間違いなく死ぬ。


(だから、コイツらにもある程度は頑張ってもらわんと困るんだよ)


(バーバが死ぬ? 魔王わらわに勝ったお主が?)


(魔力がすくねぇんだろうがよぉ! どっかの誰かのせいで!!)


(わしのせいじゃと言いたいのか! お主が抵抗するからじゃろうがボケ!)


(ボケとはなんだボケとは! 俺の体に住んでんだから賃料取ってやってもいいんだぞ!? 法外な値段で取るぞこの野郎が)


(無一文のわらわに何を求めとんじゃあ~? 体で支払ってやってもいいがのぉ~)


(お前とやるならそこらの馬とやるほうがマシだ)


 なんて言うと、シュンッと目の前に魔王が出てきた。


『……それは言いすぎじゃ……傷ついたぞ』


 なんだこいつ。


『わらわ……そんなに綺麗じゃない……?』


(……そういう目で見れない)


『何故じゃ! わらわは誰しもが羨む存在じゃぞ!?』


 コイツの相手をしてると頭が痛くなる……。

 

「どうされたので?」


「ああ、気にしないでくれ。すまん」


『バーバが相手してくれぬ~。友じゃと言うたのに~』


 砦にいた兵に気遣われた。くそ面倒くさい。情報収集は終わったろう。

 ジルも世間話をしてるし、早々に切り上げるか。ええい、袖を引っ張るな。


「失礼。そろそろと出立しましょう。若者達の手柄が無くなってしまいます」

 

「そうですな、失礼します。いやはや、世間話が長くなってしまうのは年齢のせいですかな、ハハハ」


「それで言うなら、私こそ300歳を越えることになりますよ」


「ハッハッハ! そうでしたそうでした」


 ジルの向こう側に見えた兵士達に微笑んでおく。

 コイツらにも頑張ってもらないと困るんだよな。士気を上げておこう。


「期待しています。我々の背後はお任せしました」


 この体ってのは微笑むだけで、皆の士気が上がる。便利な体だ。

 ゴリゴリ魔力が減ってるのがなんとも言えんが……あと、お前は犬みたいにウロウロするな……。


「では、向かいましょうか。皆を集めます」


 ナモーたちは万全な状態で戦争に望んでいるに違いない。


 だが、戦争が長引けば国力が小さい獣王国は辛い戦いになる。兵站も持たん。いくら、護りやすい立地だとしても内側から崩れていけばどうしようもない。


獣人アンスロは体が大きい分、食う量も汎人よりも多い)


 どうにかしてこの戦争を終わらせる必要がある。

 汎人はこんなでも、ずっとこの大陸の天下を取ってる種族だ。

 獣人アンスロの手の内を知れば、対策を取るのは容易だろう。

 

(この戦争を、この侵攻で止める必要がある)


 それが、俺ができる最善の方法だ。


「ってことで、ガルーとエルフさんはここで待機ね」


「えーっ! 前線基地まで行きます! 叔父様の勇姿を見ないとなので!」


「ダメだ。危険だからな。ジルが話をつけてくれたから、ここで待機しておいてくれ」


 ここからの移動は徒歩になると言われた。距離的にも歩いていける距離だ。

 エルフさんは胸を撫で下ろしてる。戦争に連れ込まれるのは怖いから仕方ない。


「それで、なんだけど。エルフさんはガルーの警護をお願いしていいかな」


「わ、私ですか? 私なんて──」


「できるできる。獣人アンスロよりも森に通じてるんだしさ」


「でも……」


 エルフは獣人アンスロよりも隠密に長けている。人の目を盗むくらい簡単だ。


「頼んだよ」


 肩に手を置いて、俺達は前線基地へと向かったんだが……。


「ここに前線基地を立てたのか……?」


 案内されて向かった先にあったのは森の入口の仮設基地。


 まぁ、位置的には問題はないだろう。


 ここは2つの崖が合流するようになっている土地。そのため、鬱蒼とした森が生え散らかってる。ゴツゴツとした地面で戦いにくく、一度に攻め入る人数も限られる。


 この立地ゆえに『三日月国』と呼ばれたってのはまぁいい。


(対人間用であれば、問題はないだろうが……)


 相手は獣人アンスロだ。こんな攻めやすい場所に基地を立てるなんて、まぁ。

 

「では、勇者様。アルベルト様とソラ王子への挨拶回りにでも行きましょうか」


「あー……」


 そうか、そういうイベントもあるのか。面倒くさいな。

 

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