4.ダナーフィールド

 理不尽をく。不条理を踏み越える。

 そのために必要なものは信念より前に、足元である。


 コロンビアのセイバー・シリーズ。かつての愛足である。

 オムニテック、あるいはアウトドライという最先端の技術が詰め込まれた、ハイテク・シューズ。

 ほんとうに、どこでも歩いていけた。どこでも踏み込めていけた。その勇気を与えてくれた。

 ただ、つくりはやはりスニーカーのそれだ。ちょっとした引っ掛かりに巻き込まれ、破れてしまう。

 今まで何足か履き潰してきたが、どれもがやはり、不慮の事故でうしなってしまっていた。


 機動力を重視するなら鎖帷子でいいだろう。

 しかし防御力を重視するなら、やはり板金鎧だ。

 そして、その答えはポートランドにこそある。


 おっ、ダナーライトの話かね?と思ったそこの諸兄。

 ほんとうに申し訳ない。

 当時の私は、そこまで金銭的余裕はなかったのだ。

 というわけで、ダナーフィールドの話をしよう。


 ダナーフィールド。

 世界的知名度を誇るブーツ・メーカーのダナーが誇る、比較的安価なアウトドア・ブーツである。

 有名どころでは先に挙げたダナーライトがあるだろう。確か世界で初めてのゴアテックス内蔵ブーツだ。

 ダナーフィールドは、それの廉価版にあたる。


 あるいは私よりいくらか年嵩のあるおやじ連中ならば、それを街中で履き散らかし、見せびらかしていたことであろう。

 しかし真価は岸釣りでこそ発揮される。

 藪をこぎ、ぬかるみを踏み越え、岩肌を沿い、そしてポイントにたどり着く。

 ダナーフィールドには、そのための必要最低限かつ十分以上の堅牢性が備わっている。


 組み合わせるならば、ディッキーズのワークパンツだろうか。

 私は、損なわれた軽快性を補間するためにレッドキャップのものにしているが。

 ともかくダナー・ブーツと、コットンポリ・ツイル生地のワークパンツの組み合わせは、無敵の走破性と無類の快適性を与えてくれるはずだ。


 砂利を弾き、泥水に浸り、その革は一層に輝きを増す。

 ビブラム・ソールはあらゆる困難を苦ともしない。

 常に陣頭に立ち、君の成したいことを支え続けてくれることだろう。


 ところで、ダナーフィールドにも弱点はある。

 編み上げブーツである以上、脱ぎ履きには時間がかかるということだ。

 私はジッパーユニットを導入している。どこのものとも知れぬものだが、だいぶんと調子がいい。

 釣行ごとに車にぶち込んで、釣り場ですぐさまダナーフィールドを纏うことができる。


 気ままに我儘を楽しむための一張羅。

 泥に塗れた、縁の下の力持ちである。


―――――

Tacle Data

・ブーツ: Danner DannerField

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