水面に問う

ヨシキヤスヒサ

1.チャターベイト

 チャターベイト。あるいはブレーデッドジグ。

 ルアーというものを知らないひとからすれば、まったく信用のならない釣具のひとつであろう。


 前提として、ジグヘッド、ないしはラバージグというものを知る必要がある。

 言ってしまえば釣鉤つりばりおもりが一体になったもの。そうしてそこにファインラバーなりシリコンラバーなりの紐状のラバーを巻き付けたものである。

 そこにお好みの形状のプラスチック・ワームを取り付ければルアーとして一人前の形状になるのだが、これ自体は水中に入れただけではどうにもならないので、釣り人側の操作で生き物らしく見せていく必要がある。

 小魚状のプラスチック・ワームを取り付けたのならば、中層を漂わせたり、水面付近をせわしなく走らせてみたり。砂利蟹ざりがに状のプラスチック・ワームを付けるなら、水底を這わせ、あるいはときに飛び跳ねさせてみたりするのである。


 さて、チャターベイト。

 そのジグヘッドなりラバージグと糸を結ぶ器官の間に、一枚、金属の板を挟んであるのである。


 確か、どこぞやの地域のローカルな釣具だったはずだ。

 そもそもチャターベイトという名称自体が商品名で、カテゴリーとしてはブレーデッドジグが正しい。というところは、今はどうでもいい。

 なぜ金属板を挟む必要があるのだろうか。それは当然の疑問であるし、そうすることでどういう動きをするのだろう、というのも、聞きたくもなる。


 まあ、百聞は一見にしかずだ。

 ともかく水辺に立ちたまえ。話はそれからだ。


 原型であるラバージグやジグヘッドとは異なり、操作に工夫を凝らす必要はない。ただ遠くに投げ、一定の速度で巻き取ってくればいい。

 手元には、ことこと、ことことと、一定の振動が伝わってくるはずだ。それは金属板が水流を受け、それを左右に受け流し、そうしてその下部に取り付けられているおもりとぶつかる音と衝撃に由来するものである。

 そうして小刻みに左右に振動しながら、それは直進する。しかし、ときに多くの水圧を受け、よろめきながら。


 水中には、そういう生き物などいないだろう。

 しかし小魚状のプラスチック・ワームを取り付けてみれば、それは不思議となまめかしさをまとい、生命感を醸し出す。

 まるで、何かから逃げている小魚のように。


 とある釣り人は、これを「うるさナチュラル」と表現した。

 振動音を撒き散らしながら、しかし尾を振りながら逃げ惑う生命である。


 さて、気を付けるべきは根掛かりである。

 むき出しの釣鉤つりばりがあちらこちらへとふらついて歩くのだから、ちょっとした障害物でもひっかかる。

 これを回避するためには、障害物の少ない、開けたところ、かつそういうものが沈んでいないであろう中層から水面直下というのが狙い目になる。

 つまりは、狙うべきはそのあたりにいる魚。やる気があるのかないのかはさておき、縄張りの外をうろついている、無防備な連中だ。


 音で引き寄せ、姿で誘う。それがチャターベイトである。


 ひとつのポイントで三回通せばいい。それ以上は期待できない。

 あるいは魚の気持ちになって考える。弱って逃げ惑う獲物。それを追い詰めたい。

 そうなれば障壁は二枚あればいい。一枚は岸。もう一枚は水面か水底だ。そうすれば追い込める。


 手元に感じる、一定の間隔の振動。それがなくなる。

 それがつまり、である。


 竿を立てなさい。あるいは巻く速度を思い切りに早める。

 そうすることで重さを感じるはずだ。あるいは叩くような衝撃だ。

 慌てず騒がず、ゆっくりと招き入れる。

 水面を割らせないよう、慎重に。そして丁寧に。


 待ち望んだ翡翠がそこにある。

 しかして賓客はもてなさなければならない。礼儀と節度をもって、紳士的に。

 ガッツポーズなどは、最後でいいのだから。


 プラスチック・ワームは、はっきりとした色がいいだろう。

 私は黒を好む。無論、水の色や、魚ごとの食性にあわせるのもいいが、一色だけというなら、間違いなく黒だろう。

 男というものは黒に弱い。それは溶け込むためか、あるいは浮き彫りにするためかはいざ知らず。

 覚悟の色でもあり、逃げの色でもある。もしかしたらそれは、憧れの色なのかもしれないが。



―――――

Tackle Data

・ロッド:Daiwa 751HRB-SV AGS19“疾風七伍”

・リール:Daiwa STEEZ A TW HLC

・ルアー:Nories HULACHAT 14g

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