異世界板金工

第1話:アイアンロック家の赤ん坊

「……ん、あれ、腕が、うごか、な……い?」


目が覚めると、そこには鉄ではなく、布で囲まれた世界が広がっていた。


ガサガサとした布の感触。擦れるたびに耳元でささやくような乾いた音。


「くそっ、あの天井の雨樋、もう少しで……。」


記憶は錆びついた鉄のように断片的だったが、どうやら俺は、死んだらしい。


──そして今、赤ん坊になっている。


「アイン。アイン、いい子ねぇ~。」


光沢のある銀髪、煤のような瞳。異世界お決まりのファンタジー美人が、優しく抱き上げる。


「こいつは……ファンタジーだな。魔法、あるタイプか。」


かすかな浮遊感。腕に抱かれる間、身体は一切動かさずに宙を滑るように運ばれていった。


──手作業による板金加工の達人だった俺が、こんな世界で何を?


答えは一つだ。


板金だ。


この世界に「タレパン」も「プレス」も「レーザー加工」もないのなら、俺がその穴を埋めてやる。


「目指すは、弟子100人。インフラ整備、鉄骨加工、街づくり……!」


だがまずは、オムツを替えてもらわなきゃいけない赤ん坊である。


鉄を曲げ、鋼を穿った指先が、今は握りこぶしすら作れない。


アイン・アイアンロック、0歳。異世界で、再鍛造の時を迎えた初春の出来事である。

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