《第1部 護衛編》 祝賀歳
第26話 その日
「シュルツよ……先程の発言は全て真意である事を認めるか?」
よかった、本当によかった。
後少しでワタクシはシュルツ外交官にピストルガンで殺される所でした……
彼が計画を話す時にトランシーバーを咄嗟に繋げていた事が功を奏してくれた。
ワタクシ達の作戦では予定到着よりも早く国に到着し女王らは待機するという物だったので
きっと既に国で待機していた女王様達がワタクシの通信をいち早く、受け取り――
国王に音声を聞かせて部屋に駆けつけたのだ。
その間の騒ぎ声がコチラまで聞こえてこなかったのは女王様達御一行が配慮してくれたのだろう。
「ハハハッまさかベレッタさんがコレほどまでに私に執着してくるとは思いもしませんでしたよ……アナタのお陰で計画も随分と狂ってしまったよ」
シュルツ外交官が戦意喪失した魂の抜けた声を細々と出していた。手に持っていたピストルガンは意思もなく床に落ちている。
彼が語る“楽園”と言うのは詭弁だ。
実際、彼が“楽園”を創り上げたとて真の平和が訪れるかも分からぬし彼が思い描く世界というのは
理想でしかないのだ。
「なるほど、その言葉を深く理解したシュルツ……お主が行ってきた事を真実としお主を――」
ワタクシが執着する理由など、一つでいい。
ポロペ国の民にも、ゴルド王子やケプルムさん達含むユパロンの民達が今と変わらぬ平和を
貫き通して欲しいという事だけ。
ポロペ国にやってきてワタクシの人生が好転したように、また様々な人々が救われて豊かになれるそんな国を壊す人物は悪として相手しなくてはならないとは、初任務の時から頭の片隅にはあった。
今回の相手がシュルツ外交官だったと言うだけ。
「一族諸共、国外通報をする」
彼がどんな正義や野望を抱いていても、護り抜く事には当然、現状の平和を優先する。
果たしてそんな物があるのかも分からないが……
決して彼の“理念”のような物は否定しない。
――それが彼の選択なのだから。
ふと女王の姿を見た。
一ヶ月以上振りの女王様は美しく息を呑む。
だが彼女の表情は曇っていた。
「ハハハッ……一族諸共かぁ私共が消え去ればユパロン国と諸外国の外交は危うくなりませんか?私が取り繕って!」
「――もうよい、シュルツ……」
今も尚、膝を崩して無気力感に苛まれている雰囲気であるゴルド王子が声を挙げた。
力無き発声なのだが確かな意思と想いが籠っているように感じれて周囲の者達は騒めいた。
国王はその王子を見るなり、拳を握る。
オーリア女王は伏目でシュルツ外交官をただ見ていた。
「処理は後々、行う。シュルツを牢へ入れろ」
国王が指示を行うと兵士らが間髪入れず、大勢やってきてシュルツを囲んだ。
彼は何も声を挙げず、ただ促されシュルツを囲む様にして部屋をあとにした。
部屋の中に残ったのは
ユパロン国王とゴルド王子
オーリア女王とワタクシである。
場は静まり返っていて
とても何か一声発する事は出来なかった。
何せこの場には王族しかいなく癖者でありながら平民のワタクシには場違いである。
急いでワタクシも部屋を後にする事も頭をよぎるのだが、動く事は出来なかった。
「まずは、二人に謝罪したい――」
沈黙を一番手に破いたのは国王様であった。
国王様はふくよかな身体に口髭、顎髭が白く大きく生えていて、如何にも“王様”と言った雰囲気で貫禄がある。
その貫禄が一層の場の空気を包み込む。
「ポロペ国のオーリア女王、そして護衛兵のベレッタ……今回はユパロン国の外交官、その非礼と愚行を謝罪する、申し訳なかった」
深々と頭を下げる国王様の行動に驚きを隠せないワタクシなのだが、女王は動ぜず
「恐縮でございます国王、妾も妾で何も出来なかったのは同じなのじゃから……」
「まあ、それより号外の件じゃな、あの号外が虚報であると一言、国民に伝えて欲しい」
女王は自然の流れて号外の件について話を進めていた。これで全てが収まる……
「あぁ勿論ですとも、しっかりと伝えよう」
国王様は悠々と言うと陽気に笑うと切り替えて、例の件についてオーリア女王に尋ねた。
「ではでは、今日は煩わせてすまないが“交際証明書”をそろそろ結びましょうか――」
パッとワタクシは王子の方へ振り向くと
王子は覚悟を決めた凛々しい顔構えで話を切り出した国王様の横に立った。
国王様は彼の行動に特に何も反応を示さなかったけれどオーリア女王は何かを察知した目付きでいた
そのコバルトブルーの目線が、一心に王子の心内に語りかけているみたいだ。
「お二人に……お二人に!伝えなければいけない事があるんです!」
王子は心強く放ち、いままでに見た事のない必死な問いかけであった事は場にいた誰もが感じていた
「ゴルド、それは直接的に“交際証明書”が危うくなる事ではあるまいな?」
国王様は神妙に疑問を口にした。
毛並みの整った白髭を手で撫でながらも、何処か疑いの目が掛かっていると感じた。
「はい、ですが僕は……俺自身が伝えないといけない事だから伝えたい!」
ワタクシはこの場合
どうするべきかは分かっていた。
――“何もしない”だ。
ゴルド王子が心を決めて吐露する気持ちをワタクシが何か手助けするのは不要である。
王子の気持ちは王子自身から話す必要がある。
「俺……俺には最愛の人が既にいるんだ!その人が居たから――俺は操り人形にだってなれた……」
全てを明かす事は全てを賭ける様な物。
一重に次期国王を期待されるゴルド王子それでも尚、王子は自身の気持ちを伝えている。
「それは……誠かゴルド、相手は誰じゃ?」
「ケプルムと名の元王宮で働いていた女性です」
目を点にした国王が焦りながら声を裏返らす。
王子は国王様の眼を見ながら淡々と答えた。
国王は“ケプルム”と名の言葉を聞いた途端、細々と呟いた。
「なんと……ならば何故、彼女はあんな事を?まさか、全てシュルツが企てた事か?」
「全て奴の仕業じゃよ話は全部、聞かせてもらっていたから妾は今更、何も思わん……」
呟いた矢先、オーリア女王が挟んだ。
女王の一言は頼もしく王子の背中を支える。
「して……ゴルド王子、それを明かしてお主は何をしたいのじゃ?」
女王はゴルド王子の正面にやってきて、マジマジと見つめていた。
ワタクシはその姿を見るばかりで
何もする事はなかった。
「……」
場の空気が固まった。
王子がグッと何かを堪えていて国王の心情は分からないけれど周囲はそれを優しく見守る印象だ。
『……ドォ……ゥ……ド……』
その沈黙の空間に微かに聞こえてきた。
ワタクシの背後から聞こえるか?
『ゴ……ドォ……ゥ……ド……』
次第に音が大きくなってくる
――ドドド!
突如として王子がワタクシを横切り背後の窓をパッと大きく開けた。
『ゴルド!!』
窓を開いた瞬間、音が鮮明になり
はっきりと“ゴルド”と王子の名前を呼ぶ
女性の声が聞こえた。
ワタクシも気づいた時には王子と共に窓から顔を出してある方向を向いて晴れた気持ちが生まれた。
続いて国王、オーリア女王がやってくる。
――ある方向というのは先程、ワタクシと王子がいがみ合っていた塔からだ。
その塔から身を乗り出して手を振る
笑顔な“ケプルム”さん。
彼女が王宮にやってきてワタクシは
率直に胸を撫で下ろした。
ずっと彼女は葛藤していただろうに、殻を破り本当の意味で王子と彼女は心を通わせていたのだと
――国王に証明したのだ。
「国王……俺、ケプルムを愛しています」
――――――――――――――――――――
後日ユパロン国のゴルド王子は特例によって、ケプルムとの交際を認められ世論では賛否が分かれていたのだが、あまりにもお似合いな二人であるからと祝福の声が次第に大きくなったという。
二人の交際が認められたと同時に号外の件も虚報であると伝えられ一連の騒動は全てシュルツ外交官が仕組んだ事であると伝えられた。
シュルツ外交官の処遇と計画の卑劣さで大きな騒ぎににもなったと聞いた。
その日、ユパロン国王から直々に頭を下げられ“交際証明書”の件は頓挫する事となりポロペ国に無事、ワタクシ達、一向は帰国した。
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