4-5

 八月八日、晴天。

 昨日アオイくんが東京に帰ってきて、今日は久々に4人で練習できる日だ。


「早めに帰っておいでよ、海音」

「わかってるよ、十八時までには戻るから! あ、ケーキ、絶対忘れないでね!!」

「遅かったら皆で食べておくね」

「ズルイ!! 私のなのに!!」


 お姉ちゃんの冗談に見送られ、炎天下の中アオイくん家に向かう。

 バス停までの一本道がゆらゆらと陽炎にゆれ、蝉がヒステリックに鳴いていた。

 バス停に周の姿はない、一本先に行ったのかこの後ので来るのかな。

 バッグには皆へのお土産と新しいピンクのスティック。

 馴染んだら次の県大会と学祭はこれで出たいな。

 アオイくん家の最寄りのバス停近くで四人分の飲み物を買った。

 周にはアイスコーヒー、加瀬くんには炭酸水、アオイくんは最近カルピスが好き、私はラムネにしよう。

 そうして辿り着いたアオイくん家の練習場、インターホンを押すけれど反応がない。

 ……あれ? 誰も出てきてくれない。

 もしかして、時間間違えたのかな? 周とも会わなかったし。

 時計は十三時少し前、早すぎるってことはないだろうけれど……。

 ひょっとして、日付自体が間違ってたんじゃないだろうか。

 八日って言ってた、よね? 不安になってくる。

 もう一度だけインターホン押して、それからドアに手をかけたらガチャリと開いた。

 ただ中は雨戸のシャッターが降りてるせいで、真っ暗でシーンとしている。

 アオイくん家に行って聞いてみようかな、とドアを閉めようとした瞬間のことだった。

 パァァン、パパパァァァンッと乾いた爆発音が鳴り響き、私の頭や顔に、なにか紙のようなものがあたる。


「っ!!!!」


 突然のできごとに、心臓がバクバクし、声も出ないほど驚いてその場にへたりこんでしまう。

 なにが、おきたの?

 派手な爆発音と火薬の匂いと共に、頭に顔にかかったそれを手繰り寄せると、カラフルな紙テープだった。

 これは……なに?


「「「ハッピーバースデー海音~!!」」」


 部屋の電気が点いた先で、笑顔の三人が楽器を持って立っていた。

 じゃら~んと加瀬くんの鳴らしたギターの音を合図に。


「ハッピーバースディトゥユー、ハッピーバースディトゥユー、ハッピバースディディア海音、ハッピーバースディトゥユー!!」


 あまりに豪華な三人でのハッピーバースディソングに感極まって立ち尽くした。


「海音ちゃん、おめでと!!」


 アオイくんが手に持っているのはバースディケーキだった。

 蝋燭に灯った火を、再度暗転した中で、泣きながらそれを吹き消した。


「誕生日おめでと」


 明るくなったいつもの部屋を見ると、ドラムの後ろに誕生日飾り付けがされている。


「私の誕生日……知ってたの?」

「周から聞いてた、で午前中から用意しといたんだよ」


 アオイくんから手渡されたのは、


「こっちが田舎の土産で、こっちが誕生日プレゼント」


 大阪土産のたこ焼きキーホルダーと、誕生日プレゼントは可愛いワイヤレスホン。私が持っていなかったの覚えていてくれたんだ!


「オレからはこれ」


 加瀬くんから手渡されたのは持った感じでわかるけど、きっとあの時よね? いつの間に?

 思った通り、スティック! 水色の可愛いの。

 あの時ピンクと水色で迷ってピンクにしたの見てたんだね。

 ありがとう、とっても嬉しい。


「おらよ」


 周が投げてよこしたそれをキャッチして、


「ありがとう、開けてもいい?」


 と、聞いたらうなずいてくれた。

 周のプレゼントの想像が全く想像がつかなかったんだけれど、出てきたのは五種類ものリストバンド。

 ドラム叩いている時、汗で一瞬だけ拭くために、ずっと洗ってつかっていたリストバンドが色あせていることを、気にしてくれていたのかもしれない。

 みんなから貰った全部のプレゼントを抱きしめて泣き崩れてしまう。

 みんなが大好きだ。大好きな人たちに囲まれた、こんな素敵な誕生日は二度とないんじゃないかなってぐらい感動した。


「ありがとう」


 嗚咽上げて泣きじゃくる私に、ドンキで買ってきたらしいハッピーバースディ王冠をのっけてくる加瀬くん。

 十六歳の幸せな誕生日。

後に貰ったその写真には笑顔の三人と鼻水まで垂らしてるんじゃないかっていう王冠を被った私の泣き笑いが写っていた。

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