3-12
「よし! それじゃあ練習すんぞ。県大会出んだろ?」
周は背中向けたままでそう促す。
「うん、やる!! 絶対行こう、ね」
何でだろう、絶対に行けるって自信があったの。
だって絶好調すぎるくらい絶好調だったんだもの。
音も皆との関係も。そうあの事件以来から。
イジメはあれ以降ピッタリと止んだ。
まるで憑き物が落ちたような感覚だった。
あの翌日、私のところに彼女たちがきちんと謝りに来てくれた。
『勝手に嫉妬していてごめんなさい。アオイとはバンド仲間なんだよね』って。
誤解はちゃんと解けたみたい。
今ではまるであんなことなかったかのように、帰りにすれ違うとバイバイと手を振ってくれるまでになった。ただ、ちょっと困ったウワサ話が一つ。
加瀬くんが私をかばったことで、実はアオイくんではなくて加瀬くんの彼女なんじゃないか、なんてビックリだ。
まあ、すぐにね、私たちが同じバンドだってことで皆が認識しだしたのでウワサももう消えたとは思うけれど。
加瀬くんは、今密かにモテている。
アオイくんほどの派手さはないし、周ほどの美形ではないかもしれないけれど。
かっこいいと可愛さの丁度間、いつもはふわふわしてるのに、時々急激に男の子の顔になる不思議な人。
私のことで加瀬くんがあの子たちを怒っているときに、不謹慎にもかっこいいな、なんて一瞬見惚れてしまっていた。
多分、その時に私と同じように思った子が多かったみたい。
皆「加瀬くん、いいよね」って、話で持ち切りだった。
それを聞く度に私も「うん、すっごくいいよね」って同意したくなっちゃう。
誰にも、言えないけれど――。
「んじゃ、今日もよろしくっ」
加瀬くんが振り向いて私にピースサインで笑ってくれた瞬間に、今日も頑張ろうって思うんだ。
その切ない歌声を魅力的に引き立てられるように。
最大限に引き出せるように、頑張りたいなって思った。
「今ね、新しい曲作ってんの」
終業式の日に配られたプリント見ながら突然そう言い出した加瀬くん。
「この間さ、言ってくれたじゃん、その、………オレの作った曲最強って」
照れながら笑う加瀬くんに思い出して私も照れてしまって、火照った顔で頷いた。
「ちょっと頑張ってみました~、片山さんに褒められたから。だから、一番に聞いて欲しい。明日、練習前にちょっと会える? 駅前で。」
条件反射でぶんぶんと頷いてしまうのは何でだろう。
「んじゃ、前に約束したケーキ屋さんに十時半で」
約束ね、と机の下で差し出された小指に自分の小指を絡めると。
誰にも内緒みたいな約束に心臓がバカみたいに高速十六ビートで鳴りだしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます