3-10

 いつだって事件は体育の日に起きるようだ。

 その日、三、四時間目は一組女子と合同での体育だった。

 ヒソヒソとこちらを見て陰口言われてるなあと感じてはいたけれど、何事もなく無事に終了、したはずだった。

 ……、そうか、そうきたか。

 あの中の一人が、途中体調不良で保健室へと抜けたのは、そのためだったのか。


「由衣ちゃん、凜ちゃん。私着替える前にトイレに行ってくるから先に教室戻ってて」


 二人に告げて更衣室を飛び出した。

 大変だ、制服がない。

 隠されている相場は体育準備室? もしくは体育館の裏?

 あの大きめな着替え入れを運ぶのは目立つから、そう遠くへは持っていけなかったに違いないんだけどなあ。

 でも見つからない。

自分が見当をつけていた場所にはなかった。

 今日はまだ五、六時間目が残ってるから、昼休み中に捜すか、時間がなきゃ放課後になるかも。

 練習行けなくなったら、また心配かけるかもしれないけれど、まずはお昼ご飯を先に食べてしまおうと教室へ戻った。

 ジャージ姿の私を加瀬くんは黙って見ていた。


「もしかして、制服……やられたの?」

「かも、しれない。ご飯食べたらまた探しに行ってくるよ」


 できるだけ安心させるために笑って言ったのに、加瀬くんは無表情で教室中に響き渡るようにガタンっと席を立ちあがり、教室を出て行ってしまった。

 慌てて、廊下に出た加瀬くんを見たら既に階段を降りていくところだった。

 もしかして一組に怒鳴り込みに? とドキドキしたからそうではないことに少しだけ安心、したのも束の間だった。


 一組から女の子の悲鳴が聞こえたのは、その十分後だった。

 何事かと他のクラスの子達も野次馬のように走っていく。

 私はあの日のデジャヴが甦って周が何かしたのでは、と恐々と一組を覗いてみて目を見開いた。

 加瀬、くん……?

 あの子たちの前に仁王立ちで立っていて、彼女たちを見下ろしていた。

 よく見たらその手には私の着替え袋がある。

 彼女たちは加瀬くんを睨みながら、ゲホゲホと咽せこんで一様に自分たちの体を頭から払っている。


「何するのよ! 痛いんだけど!! 目に入ったじゃない!!」


 一番気の強そうな子が加瀬くんに食ってかかると、


「君らが砂場になんか隠すから砂まみれになっちゃったでしょ、どうしてくれんの?」


 そう言いながら加瀬くんは私の着替え袋を、彼女らの頭の上で入り口を広げながら叩く。その度に、ザラザラとした砂が舞う。

 だから彼女たちは、体を払っていたのか。


「私たちが隠したなんて証拠、どこに」

「三組の子が教室から見てたってさ、一組の女子。あ、君だわ。ポニテの子」


 確かに、体育を抜けたのはあのポニーテールの子だ。

青ざめて、グッと黙ってしまった彼女らに、


「今後二度とウチのドラムに手出さないでね? 次はないから」


 加瀬くんの後ろにはいつの間にか鬼の形相をした周と、明らかに怒っているアオイくんもいて、彼女たちは何も言えずに俯くだけだった。

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