第26話
「では我が主。私の屋敷を案内しよう」
「ちょっと待ちなさい。何勝手に連れて行こうとしているのよ?」
「専属の契約はなくとも、主の身の安全と快適な生活を保証するのは当然のこと。ギルドマスターである私の屋敷以上に安全で快適な場所が、この都市にあるとでも?」
「あるわよ、ここに!」
「お待ちになって。それでしたら、わたくしのクランハウスの方がセキュリティに関しましては万全かと存じますわ。ええ、それ以外にございましょうか」
「なっ……エステル、あなたまで!?」
今度は、シルヴィアとエステルがクリストフの拠点を巡って言い争いを始めそうになる。三人の様子にクリストフは苦笑を浮かべるしかない。
「俺としてはせっかくシルヴィアの家に部屋も用意してもらったし、庭で畑も始めたばかりでね。正直今はここが落ち着くから、ここにいさせてくれないかな」
クリストフがそういうと、シルヴィアの顔がぱあっと輝いた。彼女は、これ見よがしに胸を張り、エステルとファナに向かって、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「……とのことよ。クリストフさんご自身がそうおっしゃっているのだから、文句はないわよね?」
エステルとファナは、ぐぬぬ、と悔しそうな顔をしたが、強く出ることはできなかったようだ。
ほっとクリストフが安堵の息を漏らし、応接室の空気も少し和らいだ頃、シルヴィアがふと呟いた。
「しかし……さっきのファナの言葉もそうだけど。確かにクラン同士で協力したら、今までできなかったような大きなこともこなせるようになるかもしれないわね」
「連携が取れれば、の話ですけれど」
そういうものなのか、とクリストフが考えていると。
ファナが呆れたように、シルヴィアたちへ鋭い視線を向けた。
「お前たちは、少し物事を軽く考えすぎだ。私がここへ来る前に、一度ギルドへ戻ってシルヴィアの屋敷の住所を調べてからきたのだが、その時のギルド内がどれほど緊迫していたか、知っているのか?」
「あら? なぜですの?」
きょとんとするエステルに、ファナは重々しく告げる。
「『閃光の翼』と『銀槌旅団』。迷宮都市の、いや、大陸でもトップに近い二つのクランのリーダーが、なぜか手を取り合っている。もちろん、それ自体は喜ばしいことだが……同時に国は警戒もしていたのだからな? クランが何かしようとしているんじゃないかって考えていたようだぞ?」
「大げさね。何かって何よ」
「それは、国への戦争とかだろう。王国騎士団も警戒態勢を張るくらいには緊張していたのだからな」
その言葉に、一番驚いたのはクリストフだ。
「そんな大事になっているのかい」
「いえ、安心してくれ主。私が指示を出しておけば問題はない。ただまあ、クランの代表者がそう軽々と思いつきでの行動はしないでくれ。くれぐれも、節度をもって動くように」
「……それはファナもじゃない?」
「……ええ、わたくしたちだけではないように思いますわ」
二人が顔を見合わせながらぼそりとそういうとファナはじろりと睨む。
「何を言うか。私の権限はあくまで限定的なものだ。しかしな。お前たちの全兵力が本気を出したら、王国騎士団でも抑え込めないだけの戦力になるのだからな? 自覚を持て自覚を」
「私たちのクランメンバーだって、皆が皆私に右に倣えじゃないわ。国に戦争なんて仕掛けて、協力してくれる人なんてほとんどいないわよ」
「左様ですわね。少々、大げさですのよ」
エステルがからかうように言うと、ファナがひくひくと頬をひくつかせる。
クリストフはそんな彼女らの話を聞いて、改めて少し心が温かくなっていた。
こうして、皆が立派に生きてくれて、ただそれが嬉しかった。
そんな風に笑顔を浮かべていると、ファナがじろっとした視線を向けてきた。
「主も主だ。主の力も凄いものなのだから、自覚をもって行動するように」
「ええ、本当にね」
「それはそうですわね」
同じく、回復されたことがあるからか、皆が同調する。クリストフとしては、彼女らSランク冒険者に匹敵するほどの影響力はないとは思っていたが、その場では静かに頷いた。
「了解。とにかく……これから皆、よろしくね」
「……そうね。改めて、よろしくね、クリストフさん」
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ、クリストフ様」
「我が主……よろしく頼む」
改めてそう挨拶をして、皆は笑顔をかわした。
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