【戻された名前、消えない温度】

数日後、オフィスの廊下。すれ違いざまのひとこと



「……最近、また“さん”で呼んでくださってますね」



「ん?ああ、あれ。

前、間違えて呼んだ時……ちょっと引っかかってる顔してたから」



「……お気遣い、だったのですね……」



わずかに紫の目線が逸れるのを、悠は見逃さなかった。



「戻さない方がよかった〜?」



「……そういうことは、聞かないでください」



(少し沈黙)



「ふーん。」



悠がジッと見つめると紫は目を逸らす。



「ゆかりー?」



(……っ……!?)



「……ね、今の、

 “呼び捨て”ってだけで顔熱くなるの、どう説明するつもり?」



「説明……しません……」



紫は小さく、でも明らかに照れている。



「そっか。じゃ、俺は“もう間違えない”ってだけ、伝えとくね」



(去り際、少し振り返って)



はるか

「……またな、ゆかり」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る