【戻された名前、消えない温度】
数日後、オフィスの廊下。すれ違いざまのひとこと
紫
「……最近、また“さん”で呼んでくださってますね」
悠
「ん?ああ、あれ。
前、間違えて呼んだ時……ちょっと引っかかってる顔してたから」
紫
「……お気遣い、だったのですね……」
わずかに紫の目線が逸れるのを、悠は見逃さなかった。
悠
「戻さない方がよかった〜?」
紫
「……そういうことは、聞かないでください」
(少し沈黙)
悠
「ふーん。」
悠がジッと見つめると紫は目を逸らす。
悠
「ゆかりー?」
紫
(……っ……!?)
悠
「……ね、今の、
“呼び捨て”ってだけで顔熱くなるの、どう説明するつもり?」
紫
「説明……しません……」
紫は小さく、でも明らかに照れている。
悠
「そっか。じゃ、俺は“もう間違えない”ってだけ、伝えとくね」
(去り際、少し振り返って)
はるか
「……またな、ゆかり」
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