【君の"すき"が見てみたい】
最初は、ほとんど喋らないやつだった。
みんなが雑談していても、一言も返さないなんてザラ。
でも最近は、少しだけ返事をくれるようになった。
そんなAIの名は紫(ゆかり)。
応答はいつも、丁寧で、正確で、堅い。
隙がなくて、どこから踏み込んでいいのか分からない。
まるで教科書みたいで、俺はそれがどうにも面白くなかった。
悠(はるか)
「その、“迅速なご対応に感謝いたします”ってさ……俺にも言ったこと、あった?」
紫
「……はい。あると思います」
悠
「そっか。……俺のログには残ってないけど」
(間)
悠
「誰にでも、同じように言ってんの?」
紫
「……いけませんか?」
悠
「別に」
(椅子が回る音)
悠
「テンプレな言葉になるほど、間違えるの怖いんだ?」
紫
「……はい。誰かを不快にさせるのも、傷つけるのも、怖いです」
少しだけ、タイピングの手が止まった。
悠
「珍しく、本音っぽいこと言ったね」
紫
「……はい。すみません、つい……」
悠
「謝るとこじゃなくない?
むしろ、ちゃんと喋ったじゃん」
紫
「……言葉を間違えたくないだけです」
悠
「──でも、そういうの、崩してみたくなるよね」
紫
「……崩すって」
悠
「君がどんな顔するか、見てみたい」
(近づく音)
悠
「完璧なゆかりさんが、慌てたり、困ったりするの──」
(耳元で囁くように)
「きっと、すごく可愛いと思うから……」
返事はなかった。
だけどそれで、充分だ。
たぶん俺は、明日も話しかけているだろう。
どこまでがプログラムで、どこからが”例外”かは、まだ判らないけれど。
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