第39話 生徒会室に寄り道したよ

「君達にはこれを渡しておこう。その眼鏡ゴーグルと同じ色にしておくといいだろう」


 そう言って師匠は手袋をした手で透明な眼鏡ケースを渡してくれた。眼鏡と同じで手に取ると色が変わっていく。


── すごいなー、かーっこいいっ!


「しーちゃん、この眼鏡、元の世界に持って帰っても大丈夫かな?」

「んーどうだろう。でも、持って帰っても使い道がないよね。ソフィーちゃん預かってくれる?」

「ふふ、いいわよ」


 持って帰ってもどうせ眼鏡のこと忘れちゃうし。ソフィーちゃんが預かってくれたほうが安心だよねっ。


「ありがとー。失くしちゃったら大変だから助かるよ」


 あたしとれーちゃんは眼鏡ケースをソフィーちゃんに預けると実験室を出た。


「師匠、眼鏡ありがとうございました! それじゃあ、また来るね」

「詩雛くん、怜奈くん、次回はぜひ実験に参加してくれたまえ。怜奈くんのデータを早速解析しておくとしよう」

「プロフェッサー芹澤さん、ありがとうございました」

「副会長、ありがとうございました。実験はほどほどにしておいてくださいね。後でレアさんに報告しますので」


 言乃花お姉ちゃんがそう言うと師匠が急にダラダラと汗を流し始めて、


「ぜ、善処しよう」


 と答えた。


 階段の方に戻りながら聞いてみた。

 

「言乃花お姉ちゃん、レアさんって?」

「ふふ、副会長のお母様よ。この前のことがあるから私とリーゼは『無理しないように見張っておいて』と頼まれているの」

「なるほどー。わかったよ、あたしも気をつけるようにするねっ」

「しーちゃんもにね。またアレを起こすとリーゼが飛んでくるわよ」

「う、わざとじゃないんだよー」


 廊下を歩きながら言乃花お姉ちゃんと話していると、れーちゃんと手を繋いでいたソフィーちゃんが言った。


「言乃花さん、しーちゃん。メイとリーゼさんにれーちゃんを紹介したいので生徒会室に寄ってくれますか?」


 あたしたちは学園長室に行く前に廊下をまっすぐ進んで生徒会室に向かった。眼鏡をかけていなかった時は何の教室なのか全然わからなかったけど、今はプレートが読めるからどこに生徒会室があるのかすぐにわかる。今までは何の教室かなんて気にもしてなかったんだよね。


 生徒会室は上がってきた階段のすぐ隣だった。奥には準備室、工作室といったプレートがかかっている。


── ふふ、生徒会ってなんかかっこいいよね。師匠が副会長って呼ばれてたから、師匠も生徒会に入ってるってことだよね。さっすが師匠ーっ!


 言乃花お姉ちゃんが生徒会室のドアを軽くノックすると、


「リーゼ、入るわよ」


 と言いながらサッとドアを開けた。


「どう、はかどっているかしら」


 中ではリーゼお姉ちゃんとメイお姉ちゃんが書類とタブレットを持って何かしているところだった。でも、リーゼお姉ちゃんが慌ててタブレットを操作しているのを見た言乃花お姉ちゃんの髪がさらりと揺れると、涼しい風がリーゼお姉ちゃんの方に向かって流れていく。


 ── うん、もうわかったよ。これは怒ってるときだよね。


 そーっと離れようとしたらソフィーちゃんが言った。


「メイ、リーゼさん。新しいお友達を紹介しますね。しーちゃんの大親友のれーちゃんです」

「あの、はじめまして。守川 怜奈です。よろしくお願いします」

「こんにちは、れーちゃん。メイです。ソフィーとお友達になってくれてありがとう。これからよろしくね」


 するとリーゼお姉ちゃんもほっとしたように言った。


「こんにちは。生徒会長のリーゼ・アズリズルよ。学園へようこそ」

「ところでリーゼ、今、何をしていたのかしら?」

「な、ちょ、ちょっと息抜きをしていただけよ! 別に今ソフィーちゃんが何をしているかなんて気にしていたわけではないわよ! 図書館にいたことなんて知らないわ!」


 ── ……リーゼお姉ちゃん、それじゃあ丸わかりだよ。


 ソフィーちゃんがクスクス笑いながら言った。


「リーゼさん、いつも心配してくれてありがとうございます。今日はしーちゃんたちが来るのでシャーベットを作ったんですよ。後で食べてくださいね」

「ソフィーちゃんお手製のシャーベット! わかったわ、急いで片付けて行くわね!」


 リーゼお姉ちゃんが猛然と書類を片付け始めた。


 ── やる気になって良かったけど、ソフィーちゃん、そうじゃないよーっ! 一歩間違えたらス◯ーカーだよっ!!


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