第14話 迷子になっちゃったよ……
しばらくは書庫の中をみんなで歩いていく。本当にどこまで行っても、本、本……。ずーっと本棚が続いている。天井も高くて、どこが天井でどこまでが壁なのかよくわからないくらい高いところまで本棚がある。
言乃花お姉ちゃんはどんどん奥へ進んで行くけれど、あたしは壁際の本棚が気になってしかたなかった。
── あの本棚ってどうなってるんだろ? ……そうだ、縦に進んでるんだから横に進めば壁際まで行けるんじゃない?
── よし。そうと決まったら。
あたしはさりげなく冬夜兄ちゃんに聞いた。
「ねーねー、冬夜兄ちゃん。あそこの本はどうやって取るの?」
すると、冬夜兄ちゃんもリーゼお姉ちゃんも上を向く。
── 今だ!
あたしはこっそり本棚から出ると、後ろの通路を横に曲がった。冬夜お兄ちゃんたちの声が聞こえる。
「そういえばそうだな。あんまり来ない場所だから気にしてなかったが」
「ほんと。ばかみたいに数があるからいちいち気にしていなかったわ」
── うまくいったよっ! さあて、この道をまっすぐ進めば……。
あたしは壁際に向けて走り出した。
「あれ、しーちゃんは?」
戸惑ったようなソフィーちゃんの声が聞こえたけれど、振り切って通路をひたすらまっすぐ!……走っていたはずなのに、気が付いたらさっきと同じような本棚の間にいた。
── ここ、どこー!?
「え? しーちゃん?」
メイお姉ちゃんの声が聞こえる。だけど、どこから聞こえてくるのかわからない。
「リーゼ?」
「え? だ、だってさっきまでそこにいたじゃない!」
みんなの声だけがどこからか聞こえてくる。でも、あたしの背よりもうんと高い本棚に挟まれて全然見えない、わからない。
「どこにいるの? しーちゃん。いたら返事して!」
ソフィーちゃんの大きな声が聞こえたので、
「ここだよー!」
大声で答えた。
「どこだ?」
「待って、冬夜君。下手に飛び出すと位置がわからなくなるわよ」
「じゃ、どうすれば……」
「迷宮図書館の通路はまっすぐに見えても違う場所と繋がっていたりするの。ここから出たらあなたまで見失ってしまうわ。大丈夫、詩雛さんの居場所はこの子が教えてくれる」
── 声だけは聞こえるんだから、そんなに遠くにいるわけじゃなさそうだよね。これは大人しく見つけてくれるのを待ったほうがいいかな? 動くとまた違うところに行っちゃいそうだし。
しばらく大人しく待っていると、ユラユラと通路の方から金色の細い光が漂ってきた。細かい光の粒が糸のように繋がっている。
「なんだろう、これ?」
そっと触ってみたけれど、キラキラと光っているだけで何の感触もない。首をかしげていたら、いきなりその光から声が聞こえた。
『詩雛さん、その場所から動かないでね』
── びっっっくりしたーーーっ! これ、言乃花お姉ちゃんの魔法? すっごーーーいっ!!
『詩雛さん、聞こえてるかしら?』
びっくりしていたら心配されたみたいだ。あわてて返事をした。
「うん、わかったよ。言乃花お姉ちゃん!」
すると、金色の光が流れてくる方から言乃花お姉ちゃんが青色の透明な蝶を連れて歩いてきた。思わず言乃花お姉ちゃんに抱きついちゃった。
「言乃花お姉ちゃん、ごめんなさい! 見つけてくれてありがとう」
「しーちゃん。勝手なことしたら、め、だよ!」
「心配したぞ」
「まったく。言乃花がいなければあなた遭難していたわよ」
「見つかって良かった。心配したのよ」
みんなが心配そうに声をかけてくれる。
「ごめんなさい。あの壁の本のところにどうやったら行けるのか気になって。さっき通った通路をまっすぐに進めば壁まで行けると思ったんだけど……。気が付いたらいつの間にか本棚の間に入っちゃってて。それに、この棚が高すぎてどこにいるのか分からなくなっちゃった」
素直に謝ったら、言乃花お姉ちゃんが頭を優しくなでてくれた。
「ちゃんと説明しておけば良かったわね。この図書館の通路はまっすぐに見えるけれど、実はそれは幻覚なの。実際はとても複雑に入り組んでいるから慣れていないと迷ってしまうのよ。不安定な空間に存在しているから、時には全く別の場所と繋がることもあるらしいの。本当に危ないから、『離れないでね』と言ったのよ」
「本当にごめんなさい。もうしないよ。あたし一人では探検出来ないってことがよーく分かったもん」
「探検、あきらめてなかったのか」
「冬夜兄ちゃん、わかってないなあ。探検は、女のロマンだよっ」
そう言って胸を張ると、ソフィーちゃんがトコトコと近づいてきて、きゅっと手を握った。
「しーちゃん、本当に心配したんだよ。今度勝手なことをしたらおやつ抜きにしちゃうから」
怒ったように言われて、
「え、おやつ?」
思わず聞き返すと、メイお姉ちゃんが言った。
「昨日、ソフィーがお菓子をいっぱい作ったんだよ。しーちゃんが来るから張り切ってたんだね」
「うん。しーちゃん、戻って一緒におやつにしない?」
「やったー。おやつだ!」
──やっぱりソフィーちゃんは優しいね!
こうしてあたしの初めての図書館探検は失敗に終わった。
── 残念だけど、一人で探検するのは難しいや。次はきちんと対策を立ててチャレンジしなくっちゃね!
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