第13話 紫雨様からのお誘い
コース料理は進んで、メインディッシュの鴨のローストを頂く。
実沙子が美味しいと喜ぶと、紫雨は微笑んでワインを飲む。
「子ども達との、飾り造りの手伝いはどうだ?」
「はい、なんとか作業手順を覚えました」
「初日でもう覚えたのか。実沙子は優秀だな」
優しく見つめられて微笑まれると、頬が熱くなるのを感じた。
「が、頑張ります!」
それから二人でデザートを食べて、素敵な食事会は終わった。
桜階を歩くたび……。
寝室のクイーンベッドの傍らに飾られた薔薇を見るたびに、紫雨の事を想ってしまう。
そして数日、実沙子は子ども達と熱心に飾り造りに取り組んだ。
……十日程過ぎた頃……。
「うん! これで全部完成だぁ! 実沙子おつかれー!!」
子どもたちが皆で喜んでくれた。
罪滅ぼしの手伝いのはずが、実沙子にとってとても楽しい作業時間だった。
嬉しさでまた涙が滲む。
「みんなのおかげよ。ありがとうございました……!!」
全員で喜び合って、抱き合う。
今日で実沙子の手伝いが終わってしまったと泣く子もいた。
それを見て、実沙子もまた泣いてしまう。
一段落しての休憩時間、ザザ丸が実沙子に声をかけてくれた。
「実沙子~~余った水晶があるから、紫雨様に首飾りを作って贈り物にしたらどうだ?」
「えっ紫雨様に贈り物……材料を使っていいの?」
「うん! 紫雨様は、きっと喜んでくれるぞ!」
「いつも何か御礼がしたいと思っていたの。ザザ丸くん、教えてくれる? 頑張ってつくりたい……!」
ザザ丸が用意してくれた余った黒水晶を加工した。
磨いて、首飾り用に穴を開ける。
色も少し変化させることができるというので、紫がかった色にした。
紫雨をイメージした……なんて恥ずかしくて言えないが、誰かを温かい気持ちで想いながらものを創るのは初めてだった。
くすぐったいような、嬉しい気持ち。
それから桜階へ戻った実沙子は、昨日から頼んであった材料をオチバから受け取った。
「じゃあ実沙子様、頑張ってくださいね。私は今日はこれで上がらせていただきます~」
「はい、オチバさん。いつも遅くまでありがとうございます」
二人はすっかり友人のように、笑いながら話をする。
気さくなオチバのおかげだと実沙子は思っているのだ。
「全然ですよ~でも今日は、ザザ丸も実沙子様のお仕事が終わって寂しくて泣いてると思うから、うふふ、一緒に夕飯食べますよ」
「ザザ丸くん……本当に楽しい時間でした。またお手伝いには行きますし、一緒に御飯も食べたいです!」
「ですよねぇ! 地獄門城にいるんですから、いつでも会えますよ。あ、屋上庭園のお花は自由に摘んでいいとの事ですよ」
「嬉しいです」
「紫雨様に花束つくるんですか?」
「は、はい……」
「うふふ! 実沙子様ったら、ほんと可愛いんだから!」
「からかわないでください~!」
今日で仕事が終わるのがわかっていたので、今日は紫雨に手作り料理を振る舞いたかったのだ。
桜階の台所は、現代日本と同じシステムキッチンだ。
改装してもらってからは、毎日お茶を淹れたり掃除をしていたが本格的に使うのは今日が初めて。
「素敵なアイランドキッチン! 材料も最高級品だわ。頑張って作らなきゃ!」
米粉を使った唐揚げに、大根と厚揚げの煮物、茄子の煮浸しに、ちりめんじゃこのサラダ。
紫雨は好き嫌いもないようだが、手料理を振る舞うとなると緊張してしまう。
「紫雨様に満足してもらえるかしら……紫雨様……」
こんな風にずっと誰かの事を、考え続ける事は初めてだ。
屋上庭園で花を摘んで、小さな花束も作った。
しかし今日は紫雨の仕事が忙しく、夕食は一人でとるようにと部下が伝えにやってきた。
「紫雨様……じゃあせめて……これだけでも渡したい……」
つい屋上庭園で、紫雨の帰りを待ってしまった。
ここが地獄だとは思えない穏やかな夜。
不思議な夜空を見ている時も、紫雨の事を考えてしまう。
最初は、無惨に殺されてしまうかも……と思っていた相手。
でも今は……家族として受け入れてくれて……いつでも考えてしまう。
この想いは……。
「……紫雨様……」
小さな革の巾着袋に入れた首飾りと花束を抱えたまま、ベンチでついウトウトしてしまった実沙子。
「ん……」
揺れに気付いて、目を覚ます。
「実沙子、俺を待っていたのか?」
「あ……紫雨様っ……」
「部屋まで送ろう」
また抱き上げられてしまっていた。
目覚めに紫雨の顔がすぐそこにあって、実沙子は慌ててしまう。
「どうしたんだ? 今日は仕事が終わらずで、夕食を共にとれずに、すまなかった」
「も、申し訳ありません! 私ったら、寝ちゃうだなんて」
「……実沙子、謝ることはない。俺を待っていてくれたのか?」
「はい……でもご迷惑をかけてしまいました」
「家族の帰りを待って、寝てしまったのが迷惑になるか……? 可愛いだけだろう」
「ひぇっ!?」
『可愛い』など男性に言われたのは初めてだ。
しかもまたお姫様抱っこをされているので、声が囁くように聞こえてくる。
「ふ……そういう
小さな花束を抱えていたことは、一目瞭然だ。
「あの、今日で飾り造りが終わりまして……それで、首飾りを作ったのです。急ぐことでもないのに……すみませ……」
「嬉しいな。ありがとう……では明日は休みか?」
「何かお仕事を探すつもりでしたが、はい」
「実沙子は本当に真面目で良い子だな。明日は休むといい。……実沙子は夕飯をきちんと食べたのか?」
「……いえ……実はまだ……」
「俺がいない時でも、食べなければ駄目だぞ。……もしかして実沙子が作ってくれたのか?」
「は、はい……」
実沙子の態度を見て、紫雨は察っしてくれた。
「それは済まなかった……では、俺の部屋で今日は食べないか? 酒でも飲みながら実沙子の手料理が食べたい」
「えっ」
「しかしもう真夜中だ……眠たいだろうか?」
「あ、あの是非お願いします……夕飯はもう盛り付けておりましたので、すぐに準備できますから」
「そうか、ではまずは俺の部屋へ行こうか。料理はあとで俺が移動させよう」
「はっはい……あの……歩けます」
「このままでいい」
「は、はい……」
桜階へ向かおうとしていた紫雨は、自分の住む塔へと実沙子を抱き上げたまま向かう。
実沙子の心臓の高鳴りは止まらない。
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