第28話 王家の秘密?
「血薔薇の杖」
「あだだだだだっ! 何!? なにこの赤黒い茨! 新手の敵―――陰キャ、アンタかぁッ!」
「テクト君のほっぺにチューしたテクト君のほっぺにチューしたテクト君のほっぺにチューした―――ぶち殺します」
「上等!」
「疲労困憊なんだから、過去一熱量のあるケンカ止めてくれ」
高ぶる二人を止めつつ、俺は倒れるナルシスの元に向かった。
ナルシスは、拘束されながらも意地を見せたクラスの女子に受け止められ、大きな怪我はないようだった。
しかし、本人的には感謝とかはまったくないらしい。
「クソっ、クソォッ! 君たちが! 君たちが悪いんだぞ! たかがデルフィアさん一人に負けて、それでも僕の親衛隊か! 恥を知、ぎゃぁっ!」
それがムカついたので、俺はとりあえずナルシスをぶん殴った。
「な、なな、なん、何だよぉっ! これ以上僕を痛めつけて、どうしようって言うんだよぉっ!」
ナルシスはギャン泣きしながら喚いていた。俺はため息を吐きつつ、その胸元に掴みかかる。
「結局お前は何だったんだ。何が目的で俺たちに襲い掛かってきたんだ。言え」
「ぅ、く、ぼ、僕は何もしら、し、知らない……!」
「もう一回殴ろうか?」
「暴力反対!」
まだこいつ余裕ありそうだな、と俺は握りこぶしを固めると、不意にゴリゴリと、奥の壁で仕掛けが作動する音が聞こえた。
「何だ?」
俺はナルシスをその場で落とし、一発ケリをくれて悶絶させてから、音の方に向かう。
そこでは、壁の中に階段が現れていた。
「んん……?」
俺はひとまず上がる。上へ上へ、奥へ奥へと進む。
するとそこには、錆びれた剣が地面に突き刺さっていた。
「何だこれ……」
いかにも、勇者に抜かれるのを待つ伝説の剣、と言わんばかりの光景だが。
え? 王家の秘密って、そういうこと? 国宝級の剣、的な? 王家に伝わる伝説の剣?
俺は触るな危険的なニオイを感じ取りつつも、前世の記憶からかこう言うのに弱かった。
だから、触れてしまう。ひとまず刺さってるものは抜いてしまおうと、その柄に触れる。
その時だった。
剣の刺さる台座。その奥底から、瘴気めいた黒い風が吹いた。そして、怨嗟の声が立ち上る。
『抜いたな! よくぞ抜いたな! 我が怨敵よ! 「幻影妃」の血統よ! 貴様の血統に王家の実権は握らせぬ! 我が呪いにて、朽ち果てるがいいわ! ふはははははは!』
瘴気が、俺の腕に巻き付いた。剣を抜いた右腕に、焼けるような痛みが走る。
「はぁあああああっ!?」
俺は叫び、耐えきった。よろめき、壁にぶつかる。
それから、何があった、とパイルバンカーを外し、腕を見た。
右腕には、黒く淀んだ模様が浮かんでいた。俺はそれに「えぇ……?」と声を漏らす。
「な、何? 呪われた? 俺、剣を抜いて呪われたのか? しかもさっきの話を聞くに、人違いで……?」
呆然としてしまう。どういうこと? なおさら何で、ナルシスは俺を露払いに、これを回収しようとしてたんだ?
俺は眉を顰める。腕に鈍痛は走っているが、動きに支障が出るほどではない。
俺は身だしなみを整えてから剣を携え戻ると、全員が目を丸くして俺を見ている。
「……何だよ」
俺が戸惑いがちに言うと、ナルシスが立ち上がり、俺に向かって駆けてきた。
「これを知られたまま、君を返すわけには行かない! 覚悟―――ッ」
「お前気でも狂ったのか」
「あぎゃぁっ!」
俺が剣の平べったい部分でぶん殴ると、ナルシスは倒れて静かになった。
遅れて俺に駆けよってくるのが、ウィズ、アイギスの二人だ。二人はナルシスにものすごい目を一瞬向けてから、俺に触れてくる。
「だっ、大丈夫でしたか? テクト君っ! な、何か、まったく関係ない呪いに、テクト君巻き込まれたみたいに聞こえたんですが……」
「た、多分、そう、なのか……? この通り、腕には何か浮かんでるし」
俺が袖をまくって見せると、アイギスがナルシスの胸ぐらをつかみ上げる。
「これはどういうこと? 今まで王の資格を問う、みたいな感じの試練が続いてたじゃない。何でいきなり呪いになるのよ! どういうことなの!? 吐け!」
「うぐっ、ぐぇ、は、はなさ、ない。ぼぐは、僕は何も知らな、いぃっ!」
散々脅されてなお、ナルシスは屈しない。それは、やはりどこかアイギスに手心があるからだろう。
この貞操逆転世界において、女はどこまでも、男に甘いのだ。
故に―――男に、真に厳しくできるのは、男だけ。
俺はアイギスからナルシスを奪って、逃げだせないよう拘束しながら、笑顔で優しく語り掛ける。
「ナルシス。お前がいてよかった。お前がいなければ、ゴーレムを倒したついでにこの剣を流れで抜いて、手掛かりがないところだったよ」
「ぼっ、僕は何も知らないぞ! なっ、何も言わない! 話さない!」
ぎゅっと目をつむって顔を背けるナルシス。俺はナルシスの髪を掴んで持ち上げる。
「いっ、痛い! 髪が抜ける! 僕の自慢のキューティクルに傷がつくだろうっ!? 早く離してくれ!」
「はははっ、舐めやがって。さっきからずっとそうだ。殺そうとしても、自分だけは死なないと思ってやがる」
俺は逆に笑えて来てしまいながらも続けた。
「で? ナルシスお前、これからどうするつもりだよ。おい」
「ど、どうするって、何がだい……? ぼ、僕は何も知らないぞ……?」
「だから、お前がしでかしたことのそれこれだよ」
「痛いっ! びっ、ビンタするなっ!」
俺は手首でペシペシビンタしながら、ナルシスを詰める。
「ウチのアイギスは、ああ見えてアラゴニア侯爵家の長女だ。いくら領地貴族子息のお前と言えど、二つ名持ちの血統の、侯爵家御息女の殺人未遂は重いだろ?」
俺が罪状を突きつけると、「え……?」とナルシスが顔を青くする。
「……じょ、上級貴族、なのかい? いや、そんな、き、君みたいに騎士になびく、侯爵家入りするような名血統なんて、いるはず」
「ウチの血統は代々大将軍やってるけど? 『小さな要塞』って聞いたことない?」
「……」
アイギスが睨んで言うと、ナルシスがとうとう沈黙してしまう。
かと思いきや、今度は急に泣き叫び始めた。
「やだぁああああ! 頼むっ! 頼む後生だ! 許してくれ! そっ、そもそも、そもそも僕は、君たちを殺そうだなんて考えてない!」
「それは無理があるだろ」
「本当だっ! ここは鏡の中の世界だぞ! 死んでも中の記憶が消えるだけ! 呪いはあっても、死もケガもあるもんか!」
「え、そうなの?」
ぽかんと呆気にとられる俺たちだ。ナルシスは「本当だよぉぉおおっ! みっ、みんなにも、みんなにもそう説明してある!」と俺に縋りつく。
「じゃあここでお前を殺しても、記憶が消えるだけだからいいってことか?」
「うっ、き、記憶が飛ぶのは不都合だからやめて欲しい、けど、取り巻きの内の一人だけでも残してもらえるなら、最悪それで……」
「……」
試しに、俺は刀を抜いて、素早くナルシスの首元に突きつけた。
「うっ」
ナルシスは歯を食いしばり、目をつむる。だが、それはシチュエーションが怖いというレベル感のもので、今の錯乱ぶりを考えると、不自然なそれ。
つまり……多分、ナルシスの言っていることは、本当。
ここで死んでも記憶が消えるだけで、死んだりはせず、だから殺すつもりもなかった、と。
「……なるほどねぇ」
ひとつ謎は解けた。だって、ナルシスに人殺しができるような肝っ玉があるようには、元々見えなかったもんな。
となると、与える罰の程度も変わってくる。ここで殺して記憶を消して、また調子に乗ったナルシスに戻られるのも面倒だし。
「じゃあ、アレだな。どちらにせよ、お前を屈服させて、事情は聞かなきゃならないんだ」
―――殺すのに意味がないのなら、徹底的に精神面にダメージを与え、反抗心を打ち砕くのみ。
俺は刀を肩に乗せる。それから、満面の笑みで言う。
「ナルシス、及び取り巻きの女子ども。お前らはまとめて、……『ガーランドブートキャンプ』の刑に処してやる」
俺の言葉に、ナルシスが怯えた目を向けてくる。
「……な、なん、何だい、その、恐ろしそうなキャンプとやらは……」
「何、大したことないさ。俺に絶対服従するようになって、泣いたり笑ったりできなくなるだけだ」
「ひっ!」
俺の予告に、ナルシスは短い悲鳴を上げる。
幸い、怪我や死はなくとも、疲れはあるみたいだからな。恐らく外に出たら消える類のものなのだろうが、この中では有効だ。
「ナルシス。覚悟はいいか……?」
「い、いやだ。助け―――ッ」
俺は深呼吸を始める。
では―――教育の始まりだ。
俺は大声で、母親の訓示を真似る。
「さぁ始めるぞ新入り! 泣く子も黙るガーランドブートキャンプの始まりだ! まずは小手調べに十キロ走を五セット! 潰れるまで剣術訓練! お前を立派な漢にしてやる!」
逃げ出そうとするナルシスをひっとらえて、ついでにウィズに解放されたクラスの女子もふん捕まえて、俺は実家式ガーランドブートキャンプを開催する。
「逃げられると思うな! 体が動かなくなるまでが訓練だ! 明日は筋肉痛と友達だ! ナルシス! お前はきっと、『話すから助けてください』ではなく『話すから殺してください』と言い始めるぞ!」
「助けてっ! 誰か助けてぇっ! ごめんなさい! 僕が悪かったです! 嫌だぁっ! そんな長時間走らされたらおかしくなるぅぅうううっ!」
「なっ、ナルシス君! ナルシス君をいじめないで! 憂さ晴らしなら、私たちに」
「お前らも走るんだよぉおおおお!」
「ひぃぃいいいい!」
俺は刀を振り回しながら、ナルシスたち一同が休めないように追い立てる。
そうして、俺はナルシスとその取り巻きに、完全服従するまでガーランドブートキャンプを施した。
ウィズはその光景を、まるで悪魔が現れたかのように「ひっ、ひぃぃ……!」怯えながら隅で縮こまり……。
アイギスは平気な顔で「これ楽しいわね! 今度二人で一緒にやりましょ!」と楽しんでいた。
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