第25話:ドキドキの【エンハンサー】

 真面目な冒険者程、早寝早起きを大切にしたりする。


 ゴブリン退治だろうが、薬草採取だろうが、寝起きでろくに動ける訳が無い。


 十分な睡眠としっかりとした朝食。正確な装備の点検に適切なウォーミングアップ等々の地道な準備がパフォーマンスを向上させるのだ。


 リゼッタ・バリアンもその一人な訳で、規則正しい生活を心掛けているのだが、今日に限ってろくに眠れなかった。


 ベッドで横になっている今も目が冴えてしまっている。


 リゼッタは白み始めた空をカーテンの隙間から眺めながら今日が探索日で無くて良かったと思う。


 ただ、彼と探索の準備の為に買い出しに行くだけなのだが、どうも緊張しているらしい。


 だが、不思議と不快では無い。


『ホーリーソード』に居た頃は、こんな気持ちはならなかった。


「――あの頃と心の持ちようも大分変ったものですね」


 ポツリと呟く。


 彼とはまだ数日の付き合いだが冒険者としての実力も、その方針も信頼できる人だと思う。


 ダンジョン探索の合間の彼との雑談も最近の楽しみだったりする。


 思っているよりも、安心感を覚えているのだろう。


 日中の待ち合わせなので、今からでも少しは寝れるのだが、早く時間にならないかと心が急く。


「まるで恋する乙女の様ですね」


 小さくベッドの中で微笑んだ。


 そして、ハッとする。


「私は今なんと……?」


 自身の無意識な思考に困惑する。


 恋する乙女?  誰が、誰に?


 頭で言語化するより早くそして鮮明に昨日の彼の表情と声を思い出す。


『勿論、喜んで』


 驚いた様に、そしてどこか気恥ずかしそうに笑ってくれた。


 それが嬉しくて、胸が高鳴ったのを覚えている。


 丁度、今の様に。


(つまり、私は彼にそういう事なのでしょうか?)


 半分以上答えが出ている様な自問だが、この手の経験値の無いリゼッタは既にキャパシティを超えていた。


「いえ、取り合えず落ち着きましょう。寝不足でも動悸が起きる事があります。支援クラスが不摂生で体調不良などあるまじき事。睡眠大事」


 布団をかぶり、羊を数え出す。


 脳内の草原に羊が溢れかえっても、初めて感じる類の高揚感が眠気を妨げるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

あとがき


26話は12:00頃に投稿予定です


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