第22話:彼女からのお誘い

 レオンとリゼッタがギルドに帰還したのは昼と夕方の間の頃合いだった。


「――今日はお疲れ。ホント、お疲れ」

「はい。正直……クタクタです」


 酒場端の二人用のテーブルにレオンとリゼッタは腰を下ろし、溜息を溢した。

それが思いの他、大きくて互いに苦笑する。


 普段の探索よりずいぶん早めの帰還になったが、疲労感を強く実感した。


 五階層で、本来六階層から出現する筈のミノタウロスが変異して現れた事を通路の崩落と共に急いでギルドに報告したのだが、「あぁ、よくある事ですねー」と軽く流されたのだった。


 言われてみれば初めてダンジョンに挑む際にも、出現する魔物は大まかに分布が分かれているが、個体により数階分の上下は十分に起こりうるとダンジョン探索の同意書にあったのを思い出す。


「まぁ、ダンジョンの魔物は本能で地上に出ようとしてるから、ああいう事もあるわな」


「各階層の何処かに我々が使う階段以外に、行き来が可能な“縦穴”がある事も懸念されているので、既に思っている以上に別階層との魔物と戦闘を行っているかもしれませんね」


「三階層にいた冒険者の装備を使ってたゴブリンの群れとかな」


 もう一度、二人の苦笑が重なった。


「やっぱり俺達だけでの五階層以降での探索は無理があるか」


「不可能では無いと思いますが、稼ぎとリスクを考えると効率的とは言えませんね。でしたら、三階層程度で探索範囲を広げる方が良いかもしれません」


「だな」


 丁度、頼んでいたエールとアイスティーが届き、乾いた喉を潤して、レオンは魔石換金時に職員から渡された依頼書に改めて目を通す。


『三階層未踏領域の探索依頼』


 基本的にどの依頼を受けるかは冒険者の任意だが、時折、ギルド側から冒険者に指名で依頼を出す事がある。


 その冒険者なら期待に足ると判断し、今回はレオンとリゼッタに白羽の矢が立ったらしい。


「ダンジョン調査の一環だってな。普段探索されない範囲の地形や出現する魔物、採れる資源に差が無いかを定期的に複数のパーティに依頼として出して調べてるんだと」


「既に往来の為のルートが分かっている上層では、意識的に未踏領域を埋める事はまずしませんからね。ギルドとしては、毎年構造が変わるダンジョンの情報は少しでも多く得たいのでしょう」


 リゼッタは三階層の地図を広げる。


 改めて見ると、三階層から四階層までのルートは複数あるが空白が多い。


 何より続いている筈のその周りのマッピングが手つかずなのだ。


「俺達に丁度良い、と言えば丁度良い依頼だ。未踏領域を埋めればその分、基本報酬に上乗せしてくれるから、良い稼ぎにはなる」


 けど、とレオンは眉を顰める。


「その分、マッピングが済んでいる範囲の探索よりもリスクも大きい。三階層は飛びぬけて高い能力の魔物は出てこない筈だから、俺達だけでも問題は無いと思うが、一からマッピングをするから普段以上に慎重に行く必要があるわな」


 彼はフム、と小さく考えて、


「俺は無理に奥まで行かなければ、この依頼を受けて良いと思うけどリゼはどうかな?」


「そうですね……」


 リゼッタも短く思考を巡らせる。


「私も問題無いと思います。周囲の警戒などで進行速度は落とす必要があると思いますが、五階層での探索と比べれば幾分やり易いでしょう」


「よし、じゃ受けてみようか」


 彼女の答えに、レオンは頷いた。


「では、準備は十分に行いましょう。明日直ぐに探索に出ても良いですが、未踏領域では何があるか分かりません。各種ポーションは普段より多く持つべきです。それに装備のメンテンスも必要ですね」


「賛成。折角だから俺も新しく剣を用意しようと思う。それにポーションも余っても次に持ち越せば良いだけだから無駄にならない。出費はかさむけど似合う報酬にはなるだろうさ」


 レオンはリゼッタの提案に改めて頷いて、


「一昨日に続いて休息日になっちゃうけど、明日はそれぞれ準備に当てようか」


「はい。そうですね」


 話がまとまり、レオンはこのまま食事にしようとテーブルに常備されているメニュー表に手を伸ばす。


「あ、あの……!」


 何処かのテーブルから「お前をパーティから追放する!」なんて、相変わらずなやり取りが聞こえ、メニューを見ながら苦笑しているとリゼッタが不意に声をかけてきた。


「ん、どうした?」


 彼女は少し戸惑いを見せたが、意を決した様に、


「準備という事でしたら――良ければ、ご一緒しませんか!」


 勢いに任せたのだろう、思いの外、声が大きく出たリゼッタは頬を赤くしていき、それをレオンは間の抜けた顔で眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る