第2話 心霊写真
サークルの飲み会は順調に盛り上がっており、周りは如何にも居酒屋という感じの喧騒が渦巻いている。
だが、浩介と陶子の間には重い沈黙が漂ってた。
お互いを見やったまま微動だにしない。
飲み物にも食べ物にも、手を付けていなかった。
「心霊写真を、集めているの?」
「そうね。」
浩介は押し黙ったまま陶子を見つめている。
いつもの陽気な感じはない。至って真剣な目で、真っ直ぐ陶子を見つめている。
「お願いがあるんだ。」
「お願い?」
「見せてくれないか? その心霊写真を。」
冷やかすような様子も、ふざけている感じもない。
何か思いつめているのか、そう感じさせる声音だった。
「見たいの?」
「見たい。心霊写真なら。」
「・・・・・」
「本当は、自分で撮影したいんだ。でも今まで一度たりとも撮れた事は無いんだ。」
「・・・・・」
「勿論、心霊なるものが実在するというのが大前提だが、僕はいると思ってる。でも僕には霊感が無いらしい。どんな有名な心霊スポットでも、それらしいものを見た事は無いし、一度も撮れなかった。」
「・・・・・」
「TVとか動画とか、印刷物や出版物じゃない、ほんものの心霊写真があるなら、それを見てみたい。だから・・・・・」
「・・・・・」
「見せてくれないか? 君の、心霊写真を。」
浩介の懇願に感じ入るものがあったのだろうか。
陶子は小さく溜息をつくと、彼の目を見て頷いた。
浩介の顔に驚愕と喜色が混ざり合ったような表情が浮かぶ。あるいは陶子があっさりと承諾したのが意外だったのかもしれない。
「本当に、見せてくれるのかい?」
「見たいというなら構わない。だけど、それ程面白いものではないわ。」
「そこは問題じゃないよ。」
「・・・・・」
「そもそも面白さで、その価値を推し計るものでも無いだろう?」
「・・・・・」
陶子は、傍らに置いていた小さな手提げ鞄を、机の上に乗せた。
「一つ聞いておきたいんだけど、今日はどんな感じだったの?」
「今日? 感じ?」
「地元最強心霊スポット探訪。」
「ああ・・・・」
浩介はがっくりと肩を落とす。
露骨に落胆の表情を浮かべて、大きく息を吐いた。
「駄目だったよ。雰囲気は良かったんだけどね。あちこちスマホで撮ってみたけど何も写らない。そもそも何も見えなかったしね。あそこならいけると思ったんだけどなぁ。南徳病院跡ってさ、目撃談も多いし。複数の霊がいるって噂もあるじゃん?」
「成程。」
「え?」
「霊感が無いって言うのは、本当なのね。」
陶子は鞄から銀色の四角い箱状の物を取り出した。
デジカメだった。
「デジカメ? 結構古いモデルだね。」
陶子は彼に応えず、デジカメの電源を入れた。
ぼんやりとした明かりが、彼女の顔を照らす。
恐らく再生モードで、液晶画面に画像を写しているのだろう。
スイッチを操作しているのは画像送りをしているらしい。
「見て。」
浩介の方へ徐に画面を向けた。
「これ・・・!!」
思わず身を乗り出してデジカメに見入る浩介。
そこには、今日行った廃病院の一室が写されていた。
デジカメの小さい液晶画面でも、ベッドや薬品棚がある事が分かる。
そしてその画面の中央に、写っていた。
輪郭ははっきりとしないが、濃い霧か、ガスのようなものが。
浩介にもその部屋に覚えはあった。スマホで撮影もしたが、そんなものは見なかったし、写っていなかった。
浩介に画面を見せたまま、陶子はスイッチ操作する。
次の画像は階段だった。
1階から踊り場を見上げるように撮影している。
そしてその踊り場に、霧の柱のようなものが二つ立っている。
ぼんやりとだが、人の形に見え、立っているという表現がしっくりくる。
勿論これも、浩介には見えなかった。
「これって心霊写真?」
いささか間抜けな質問だな、などと思いつつ浩介は聞いた。
陶子は無言で頷く。
浩介は、普段は明るい男だがいつもの雰囲気は、そこには無い。
眉間にしわを寄せつつ、デジカメの画面と陶子を交互に見つめている。
「成程、こういった写真を、集めているんだね?」
陶子は、軽く首を振った。
「違うわ。」
「え?」
「この写真は、集めているものじゃない。」
「でも心霊写真を集めてるって・・・・・」
「ええ、そう。確かにこれは心霊写真だけど、こういうのを集めてるわけじゃないの。」
「・・・・?」
「この写真は撮れた、写ったというだけで、私の集めている心霊写真としては対象外なの。」
「対象外・・・・・。」
「あそこ、南徳病院跡は、確かに強力な心霊スポットのようね。ただ霊は何となくいる、というか何となく集まって来る、という手合いが多いみたい。そういう弱いのは対象外なの。あそこではそういう弱い霊しか撮れなった。恐らく心霊スポットとしても弱いんだと思う。」
「弱い? 何が?」
「そうね・・・・・、『存在』が、かな。」
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