スキルが【黒塗り】だった俺、【黒衣】の神の使徒として覚醒したら、世界が震えた

永史

プロローグ:不運に魅入られた少年

 俺の人生は、いつだって“最悪”だった。


 生まれた瞬間から、両親は離婚寸前。俺が保育園に入る頃には父親は失踪、母親は男を転々と変えながら、俺にだけ冷たかった。


 運動会の前日、足を骨折。修学旅行はインフルエンザで不参加。中学では自転車ごと交通事故に遭い、入院生活を送った。


 何をやってもダメだった。



 宝くじを買えば番号を間違える。受験の面接では隣の受験生がトラブルを起こし、その責任を押し付けられた。


 バイトではレジをやれば、なぜか店の金が合わずに首を切られ、工事現場では崩れた足場の下敷きになりかけた。


 笑えるほど、不幸が連鎖する。



 俺は「不運」という言葉だけで説明できる生き物だった。


 いや、きっと誰も信じてくれない。だが、俺自身がその“不自然さ”を痛感していた。



「お前、疫病神じゃねぇの?」



 そう、面と向かって言われたのは小学校の頃。以来、俺の人生から友達も、信頼も、何もかも消えた。


 そんな俺が、十九歳の誕生日を迎えたその日。


 最悪は、決定的にやってきた。


 


◆ ◆ ◆


 


「ウソだろ……」


 深夜のコンビニ。バイトのシフトが終わり、雨の中、自転車で帰宅していた。


 路面は濡れ、視界は最悪。だが、何より“それ”が異常だった。


 赤信号を無視して突っ込んできたトラックが、俺の方へ真っ直ぐ向かってくる。


 避ける間もなく、激しい衝撃と共に俺の体は宙に舞い、重力を無視したように景色が歪み、漆黒のアスファルトへと叩きつけられ、滑っていった先で電信柱に背中から叩きつけられた。


 鈍い音と、バキバキと骨が砕ける感覚。

 内臓が潰れた。

 だが痛みはなかった。


それが、死というやつなのだと、朧げに理解した――



 衝撃も、痛みも、なぜかない。

これが死と言うモノなら、苦しくなくて良かった。


 そして、こんな苦行しかない人生なら、終わらせてくれて助かった。


 だが……もう一度人生をやり直せるなら、“あいつら”に復讐くらいしたいもんだ。



 ここで本来なら白い空間にでも移動していれば、転生の神でも出て来るのだろうが、ここでも俺は“運”に見放されていた。



 眼を開ければ、目の前に――“黒い人影”が現れていた。


 


◆ ◆ ◆


 


「やはり、貴様か」


 聞き覚えのない、低く冷たい声。



 その男は、漆黒のローブを纏い、顔はフードの陰に隠れていた。だが、その目だけははっきりと見えた。深い闇色の瞳が、氷のような無機質さで俺を見下ろしている。


「誰だお前……神?」



「正確には、その仲間みたいなもんだ。もっとも、貴様と同じで余り好かれてはいないがな」



 男はそう言いながら、俺の周囲を歩く。気づけば、そこは暗闇だった。道も、空も、建物もなく、ただ黒一色の世界。


「不運に見舞われ続けたのも無理はない。貴様は“選ばれていた”」


「……選ばれた?」


「●●の使徒としてだ」


 その言葉の意味は、理解が出来ずに頭に残らなかった。



「この世界に生まれた時から、貴様は我らが気に入られていた。面白いほどに災厄を引き寄せ、周囲に不幸を撒き散らす。人間社会にとっては、実に“厄介”な存在だ」


「ふざけんな……」


 怒鳴る余裕はなかった。ただ、こみ上げてくる絶望と怒り、どうしようもない現実に、俺は膝をついた。



「俺は……そんなもん、望んでない」


「望んでなどいないさ。だが、世界が望んだ。私は、世界の“調整者”に過ぎん」


 黒衣の男は、手を伸ばした。その指先に、微かに黒い光が揺れる。



「貴様の魂は“死”に魅入られている。だが――終わりではない」


「……は?」


「転生だよ。異世界への」


 一瞬、理解が追いつかなかった。



「異世界だと? ふざけんな……なんで、そんな……」


「理由は単純だ」


 男の声が、酷く静かに、残酷に響く。


「貴様が、我らが“使徒”として最もふさわしいからだ」


 その瞬間、俺の体は光に包まれ、漆黒の世界が崩れ落ちる。


「待て、俺は、そんな……」


 言葉は最後まで届かなかった。


 


◆ ◆ ◆


 


 次に目を開けた時。


 そこは、見知らぬ森の中。


 冷たい土の匂いと、遠くで吠える獣の声。


 俺の体は子供のように小さく、手足は細く、見覚えのない服を着ていた。


「まさか……本当に、異世界……」


 呆然と呟いたその瞬間、脳裏に浮かぶ文字列。


【スキル:■■■■■】



「……ふざけんな」


 真っ黒に塗りつぶされたスキル欄。どんな力を持つのかもわからず、ただ、不穏な違和感だけが全身を包む。



 ――だが、どこか懐かしい感覚。


 思い出した。あの黒衣の男。あの瞳。


 死神は、まだ俺を見ている。


「結局、俺の人生は――」


 そこから、再び地獄が始まった。


 だが、今度は違う。


 この世界で、俺はただ不運に飲まれるだけの存在じゃない。


 死を操り、死を纏い――


 いつか必ず、運命そのものをぶっ潰してやる!


 


――そして、俺の物語が始まる――

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