俺を踏み台にしたオリ主が敗北して人類がヤバい〜崩壊世界で古代魔法を操り、俺の存在を刻みつけてやる〜

ナカザキ

第1話 俺が踏み台になった瞬間

 俺、オルフ・レイフォンは、大人気RPGゲーム『コードブレイド』の世界に転生した。


  『コードブレイド』の舞台は剣と魔法が織りなすファンタジー世界。魔族の進行によって人類の時代は黄昏へと突入している。


 そんな過酷な世界に俺は『主人公』として転生した。


 銀の髪に青い瞳のイケメン美少年が今の自分なんて、鏡を見るたびに信じられなくなる。でも、現実をいい加減認めないとなぁ。


 俺はこの世界の『主人公』オルフとして、魔法の才能と前世のゲーム知識を駆使して、幼馴染のアリアとリーリスを守り、人類を救う。


 それが俺の役目であり夢だ。まぁ、正直ちょっと面倒だけどね。でも俺がやらなきゃヒロインも死ぬし、世界もヤバい。ならやるしかないよな。


 え? 前世に残してきた家族はって―――?


 家族は小さい時にみんな事故で死んだし、大人なってからは毎日朝早くから終電まで働く社畜生活だ。当時の俺にとって、『コードブレイド』の世界が理想のリアルだったのだ。あんな現実には未練はない。


 ―――今、俺は最高に幸せだ。


 夢にまで見た『コードブレイド』の世界にいて、更に俺はその物語の中心なのだから。


 俺ももうすぐ15歳。原作開始の時期が近づいて来る。一抹の不安とそれ以上の高揚感で、胸が高鳴る。


 あぁ。もうすぐだ。もうすぐ俺は『主人公』として狭い村を飛び出て、世界へ羽ばたくのだ。その傍らには見目麗しい少女たちが沢山いる。思わず目尻も下がってしまう。


 しかし。

 その夢は唐突に、そしてあっけなく砕け散った。



 一週間前のことだ。

 いつものようにアリアと薬草を採りに森へ入った時、倒れている少年を見つけたのはアリアだった。


 彼はひどく衰弱していたが、アリアの懸命な介抱で一命を取り留めた。


 ―――それが、ルークだった。


 彼もまた、俺と同じように「コードブレイド」の世界に転生してきた存在だった。


 しかし、その出会いが俺の全てを奪う始まりだったとは、あの時の俺は知る由もない。俺はのんきに転生者どうしの再会を喜び、日本での生活の思い出話に華を咲かせていた。


 そして今日。

 いつものように魔法の訓練をしていた森の奥の小さな広場で、ルークは俺たちの目の前に立っていた。


 アリアは俺の隣で優しく微笑み、リーリスは勝気な顔で、しかし真剣な眼差しで、俺が使う魔法をじっと見つめている。ごく普通の、日常の光景。


 ―――それが、一瞬で歪んだ。


「これが、僕の魔法『強奪』スティール。君の全部を僕にくれよ」


 ルークの掌から不気味な黒い靄が立ち上り、それはまるで生き物のように蠢きながら、俺へと伸びてきた。


「な、に……?」


 喉から絞り出すような声が漏れる。

 全身の力がごっそり抜け落ちる感覚に襲われた。


「どうしたの、オルフ!?」


 アリアが悲痛な顔で俺に尋ねる。


「黒い霧が俺を掴んで、そしたら体の力が―――」

「霧!? なにも見えないわ!」

 

 俺以外には黒い霧が見えていないようだ。

 その間にも黒い霧は俺の全身を覆う。

 まるで、身体中に張り巡らされていた無数の回路が一斉に断線したかのようだ。

 身体が震え、視界がぐらつく。

 ゲームの主人公が持つはずの規格外の魔法の才能。


 それが、根こそぎ奪われていく――直感的にそう理解した。


ルークは歪んだ笑みを浮かべていた。その顔は勝利を確信し、あるいは何かを成し遂げた高揚感に満ちていた。


「や、やめろ! やめてくれ! ルーク! 頼む!!」

「僕は、君のような半端者じゃないんだ、オルフ」


 彼の言葉が、身体の奥底まで響く。俺は膝から崩れ落ちた。


 その身体は搾りかすだった。

 『主人公』オルフの残骸。主人公としての力は全てルークに奪われてしまったのだと直感する。


 しかし、絶望はそこで終わらなかった。

 黒い靄は、俺から離れると、今度はアクアとリーリスへと向かっていったのだ。


「アクア! リーリス!」


 必死に手を伸ばす。

 動かない身体に鞭を打って、這いずってでも、彼女たちを守ろうとした。

 

 しかし。


 黒い靄が彼女の身体に触れた瞬間、その瞳に宿っていた俺への親愛の情が、まるで色褪せるように薄れていくのが見て取れた。


 そして。

 その代わりに、まっすぐにルークへと向けられた純粋な好意の熱。


「ルーク……?」


 アリアが、まるで俺のことなど最初から存在しなかったかのように、ルークを見上げた。その声には、以前の俺に向けていたのと同じ、いや、それ以上の信頼と愛情が込められていた。


 続いて、黒い靄はリーリスへと伸びる。リーリスは、一瞬だけ、ルークに向かって眉をひそめた。勝気な彼女の性格が、微かに抵抗を示したかのようだった。


 しかし、それも虚しく靄が彼女の心に触れると、その瞳の奥にあった俺への少し不器用な友情と信頼が消え失せていく。


「ルーク、次は何をするの? 早く魔族を討伐しに行きましょう」


 リーリスは、まるでごく自然なことのように、ルークの横に立った。


 そこには、俺とアリアと三人で過ごした記憶の片鱗さえ感じられない。

 彼女たちの心の中に、俺はもういない。


 強奪されたのだ。

 彼女たちの俺への好意が、ルークへと。


「これで完璧だ」


 ルークは満足げに頷いた。彼の背後には、彼がこれから歩むであろう「勇者」としての輝かしい道筋が、幻影のように見えた。そして、その道筋の足元には、無残に打ち捨てられた俺の姿があった。


「どうして……どうして……?」

「目ざわりだったんだよね。『コードブレイド』の主人公として全てを与えられた君が。同じ転生者だ。僕が君に劣っているとは思えない。僕にだってやれるはずだろう?」


 なら、と


「くれよ。君の全部。力も。立場も。女も。全部」

「ふ、ふざけるなぁ!」


 俺は重い身体に力を籠め、ルークに殴りかかった。しかし、それをリーリスによって阻まれる。


 彼女の膝蹴りを受け、俺は無様に地面に倒れた。それをルークは満足そうに眺めている。


「じゃあ行こうか、皆。……大丈夫だよ、オルフ。世界は必ず僕が救って見せる! このルークがね!」


 ルークが去り、その足音が聞えなくなっても俺は地面に埋まったままだった。魂が口の隙間から漏れだしそうで、必死に歯と歯をかみしめる。それでも嗚咽は止まらなかった。


「うぅ……うぅ……うぅ…ううう!!」



 俺は全てを失った。



 これが俺が『コードブレイド』の世界で、踏み台となった瞬間だった。





—————

 

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