ママに怒られても 坊やだからさ ママも私も
仏壇の香炉には一本の線香もなく、部屋は狭く薄暗い。
真っ黒な(会社)日本人(そうなのさ)
履歴書を(差し出させ)低賃金(壊れるまで)
青田刈りだ ほら 採用ゲッチュ採用ゲッチュしちゃう
類の母・京子(50代)は正座し、いまだに黒々した髪をきつく結ぶ。
目は鋭く、頬に刻まれたシワが苦労を物語る。
類はソファに座り、スーツを脱いだワイシャツ姿。
黒髪が乱れ、茶色の目が気まずそうに仏壇を避ける。
つけっぱなしのテレビから流れるグローバルな歌だけが、やたら耳に付くようになってきた時、
「ただいまー」
玄関が開いた。ユミリはボブの髪が汗で首に張り付き、黒の目が部屋を一瞥。
ペンタブのバッグを放り、(ソファに座る)おばさんに向かって言った。
「仏壇でお父様にも結婚のことを伝える?」
ヤングマンもヒトゲッチュ 今だまとめて 後妻うわなり打ち
美津子は目を剥く。
「できちゃった婚じゃないなら、今すぐ捨ててきなさい!」
「なりたくても慣れない公務員を辞めるだと!?このアマは」
たまたまこれに関しては否定できないのが悔しい。
作家より公務員の方が安定しているのは否めない。
作家の実力にもよるが、ユミリの場合、「なにかあった未来を迎える可能性」と「県庁が潰れる可能性」を比べると、どう考えても前者の方が高い。
ユミリは好戦的にニヤリと笑い、
「捨てられないよ、おばさん。私、類といっしょに生きるつもりだし。」
美津子は顔を赤らめ、指をユミリに突きつける。
「何!?この女、息子を食い物にする気だ! ろくでなしの父親と同じだよ!」
ユミリの黒の目が鋭く光る。
「お揃いだよ、おばさん。親父を失った母ってのはどうしてこうおかしなボケ方をするんだろうね?類、行こう。ボケた親にまともな話なんて通じないよ」
美津子は呆然とし、線香の煙が揺れる。
「バカも休み休み言えよこの気○い女め‼︎」
ユミリはすでに立ち上がっていた。一瞬遅れて、類も続いた。
「類もだよ‼︎この気○い女に絆されて脈まで気○いに成り果てたならもう私の子じゃないよ、稼ぎが悪い気○い同士、団地で重なり合って死んでしまえ‼︎‼︎」
朝から晩までヒトゲッチュ リアルはみんなグローバル
なにやったって許される でもネットではやっぱり怒られた
グローバル人材は部品じゃなくて親も子もある人間です
最低限度の暮らしをする権利があります。一日16時間も死ぬまで働かせないでください‼︎
母の声を努めて静かに俺が玄関のドアを閉じ、テレビの歌が遠ざかる。
ユミリは類の手を引いて自分の車に滑り込み、エンジンをかけたままアクセルを踏み込んだ。
無言のまま助手席に沈み込む類の隣で、ユミリは運転席に身を預け、目を細めていた。
「親に追い出されれば、生家が爆発するわけじゃない。帰る場所じゃなく、ここから始まる未来に賭けたのは類も同じ。頑張らないとでしょ?」
風が窓を撫でる。
京子は息を荒らげ、線香の煙がその叫びと一緒に空へと逃げていった。
類の耳には、母の言葉はもう音ではなく、遠い波のようにしか響かなかった。
ユミリの言葉は、まるで新しい日記の1ページ目に書かれたタイトルのようだった。
未来の中で、二人はやっと同じ筆を握ろうとしていた。
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