Re勝手に創作者 〜GO!GO!ゴーストライト2025〜
花森遊梨(はなもりゆうり)
二人は19歳。-うまくいかないのは 坊やだからさ-
ファミレスの窓際、夜9時。
テーブルの上には、類の大学受験の参考書が開かれ、ユミリの公務員試験テキストは閉じられている。ドリンクバーのコーラは細かく泡を立て、ユミリはストローで氷を突き続けている。
類は参考書と一緒に持ってきたノートに、「トレード・オブ・シャドウズ」のプロットを殴り書きしていた。
類は中背、黒髪は前髪だけ長く、蛍光灯に光って目にかかる。茶色の目はノートを睨む時キラキラ輝き、色褪せたバンドTシャツは汗で少し肌に貼り付く。細い腕はペンを強く握りしめ、高校生らしい軽快さを残すが、受験の重圧で肩が微かに丸まっている。
「なあユミリ!俺、大学行って文豪になる! 『トレード・オブ・シャドウズ』で雷撃文庫、絶対に獲るんだ!星を、もっともっと、あげるからな!」
類の声には少年の熱が込められていた。
ユミリは類より頭半分低い。黒髪のボブは肩ではね、ペンが髪に挟まりまるでサソリの尾のように揺れている。黒の目は鋭く、毒舌を吐く直前に光を放つが、笑うと意外に柔らかい。カジュアルなチェックシャツの袖をまくり上げ、指には鉛筆の跡。華奢な体を机に乗り出し、ポテトを摘む手が油で光っていた。
「ふーん、叫ぶだけじゃ大学にも受からないし。受かっても、大学で文豪目指して死ぬ気のない太宰治みたいになってどうすんの?」
ユミリはスマホをスワイプし、ニヤリと笑った。黒い目が細まり、歯がちらりと見えた。
「…そういえば、『血まみれのサンタ』、小説化決まったよ。公務員試験も次の面接で最後だってさ」
類は目を丸くし、Tシャツの裾が机に引っかかった。
「サンタ!?いつだよ、ユミリ!」
「類といえど、まだ秘密が多すぎてね。口止め料はこれでいいでしょ?」
ユミリが差し出したポテトを類は受け取り、指が触れて思わずドキリとした。茶色の瞳が一瞬揺れたが、すぐに笑顔に戻る。
「俺は『トレード・オブ・シャドウズ』でデビューしてでっかい賞を獲る。ユミリの夢だって、まだ半分残ってるんだろ?」
類はポテトを半分ユミリに差し出し、指がまた触れ合う。
「そう‼︎ 私がアニメ化したら、ぜったい一緒に祝ってよね?」
二人の声が重なり、笑いがファミレスの空間に溶けていく。
ユミリはペンを髪に挟み直し、笑みを深めた。
蛍光灯の光が二人の影を長く伸ばす。ポテトの油が指に残り、受験前の夜は静かに流れていった。
類の胸の奥に、小さく光る星のかけらが揺れていた。
「星をください。もっともっとください。減るもんじゃあるまいし」
夢と現実、甘くて苦い夜の物語が、今、静かに始まる。
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