慎太郎のはなし2

 ネットでアルファについて調べると、恐れる声はたくさん出てきた。

 「そんなひとばかりじゃない、優しい人もいる。でもどうしても怖い」

 そんなふうに大抵の話がまとまっていた。

 一緒に居るだけで、怖がらせてしまうのか。

 

 「すみません慎太郎さん、龍之介まだ帰ってこないみたいです」

 「あ、ああ。そうなのか」

 瞬はこの間オメガと診断されたばかりだ。

 「シンくん、ごめんね。ちょっとどうしても買いに行かなきゃならないものができて。龍之介が帰って来るまでここで待っててくれる?」

 台所の方から瞬のお母さんの声がした。

 「はい。構いませんよ」

 「瞬、行こう」

 「え、俺も行くの? 慎太郎さんと待ってるよ」

 一瞬動きを止めた瞬のお母さんが声を落とした。

 「もう子供じゃないんだから、アルファと二人きりになったらダメ」

 声を落としていたが、普通に聞こえていた。

 まあ、そうだよなと思う。その自衛が理不尽だとか過剰だとか、微塵も思わない。俺が逆の立場でもそうしただろうから。

 むしろ俺は万が一にも瞬のこと傷つけたくはないので、そうしてくれるのは有難い。

 

 ただ、傷つけたくなんてないのに、どうしてこんなに他人を傷つけるのに向いた体に生まれてしまったんだろう。


 目の奥がツンとなり、慌ててまばたきをする。

 「アルファのくせに泣かないの。常に強くいないと」「お前は恵まれているんだ。悲しんだりしたらベータやオメガに失礼だろう」「オメガを従わせるのがアルファの甲斐性だろ」

 冗談交じりの言葉、説教の一説。どれも悪意なんて無かった。

 ただ濁流の様に今まで言われた言葉が脳内を駆け巡る。

 「アルファなんだからいい大学に行けるよ」「アルファだしお医者さんなんてどう?」「え、アルファなのにまだ恋人居たことないの?」「テストの点数がベータに負けた? 勉強が足りなかったんじゃないの?」「やりたくない? アルファにしかやる資格は与えらえていないんだよ!? オメガやベータが喉から手が出るほど欲しい権利を放棄するの!?」


 「母さん」

 俺の思考を遮る声。

 「それなら、慎太郎さんも連れて行こうよ。どうせ龍之介はまだ帰ってこなさそうだし」

 多分、俺の様子がおかしいことに気が付いたのだと思う。

 「まぁ......それなら。じゃ、近くの公園で二人で遊んでていいよ」

 「公園! 子供じゃないんだから」

 そう言いつつも瞬はあっという間に出かける準備を済ませ、俺の腕を引いた。

 「童心に返って遊びましょう! 俺、久しぶりにブランコしたいです」

 アルファとかベータとかオメガとか無かった、子供の頃に戻れたらいいのに。

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