第4話

 「こんばんは、慎太郎さん」

 仕事終わり。慎太郎さんが会社の入り口まで迎えに来てくれた。同僚が冷やかすような声を上げてから去って行く。

 今日行くのは和食屋さんだ。リーズナブルで美味しく、俺と慎太郎さんのお気に入りの店。


 俺は和風ハンバーグ、慎太郎さんはさばの味噌煮を食べながら談笑する。この時間が、たまらなく好きだ。

 仕事の疲れがみるみる癒えていく。

 でもただ楽しんでるだけじゃ駄目だ。

 「慎太郎さん、結婚とかはまだ考えていないんですか?」

 「え、ああ......。親からせっつかれてはいるんだけど、ね」

 一気に表情が暗くなる。不味い、やらかした。

 「お見合いとかも言われてるんだけど......」

 「お見合い!?」

 思わず大きな声を出した俺に店中の視線が集まる。慌てて居住まいを正した。

 「受けるんですか?」

 「いや、正直......結婚も恋愛もできることなら先延ばしにしたくて」

 お見合いはとりあえず受けなさそうなのでひとまず安心だが、恋愛をする気が無いというのは俺にとって嬉しくない情報だった。

 「瞬は?」

 「え、俺?」

 ここは何か気を引けそうな返しがしたいところだ。

 「龍之介はかなり結婚を急かされているので......次は俺かな」

 が、嘘を吐いたり芝居を打ってもどうせ下手すぎてすぐばれるので、結局正直に答える。

 「そうか。将来的に見合いとか受ける気はあるのか? それとも恋愛結婚がいい?」

 「どうでしょう。そのときになってみないと。......慎太郎さんが結婚してくれれば一番いいんですけど」

 冗談めかして言うと、笑って流された。本当は真剣に言うべきなんだろうけど、好きでもない相手からしつこく言い寄られたら誰だって嫌だろう。

 龍之介はああ言ってたけど、やっぱり慎太郎さんが俺を恋愛対象にしてくれている気はしない。多少言い寄っても邪険にしないでくれるのは、気があるからというより本気にしていないからな気がする。


 「ごちそうさまでした」

 「ごちそうさま。......薬、ちゃんと飲めよ」

 「忘れませんよ。何年飲んでると思ってるんですか」

 ヒートの抑制剤は毎日飲まなくてはいけない。ちょっと面倒だ。

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