37 ナントカと煙は高いところが⋯

 今日はサシャさんをとある場所に連れて行こうと思っている。どんな反応をすることやら。


「ほら!結局!位階はあがってたんですが!時間は延びてないんですよ!」


 そう言って、状態を見せられても字は読めない。表示されている項目は同じだから、数字くらいは覚えてみてもいいかもしれない。


「あ、あぁ、そうなんだね」

「そうなんですよ!だから十分間のままですよ!十分間!」

「わかった、わかったって」

「そんな短時間でどんなとこに行くっていうんですか?!」

「⋯短時間で良かったと思うかもしれないし、もっといたいと思うかもしれない」

「んー???」

「もっといたいって思えば、戻ったらすぐに自分のボタンを押したらいいよ」

「えー??押すと思うんですけど??」

「まぁ、それならそれでいいよ。そろそろかな」


 そろそろ二十分が経ちそうだから肩を掴んでおく。


「ミラさんはいいの?」

「いいんです!」

「そっか」


 時間がきたようで景色が変わった。もちろん、今回は自宅ではない。


「⋯⋯⋯ヒャアッッハ⋯⋯⋯⋯え、私、死んじゃったのかな?」

「死んでないよ?!」

「だってここ、空でしょ?!あとは落ちるだけなんでしょ?!あ、わかった!これから死ぬんだ?!」

「違うよ!?死なないよ!?ちゃんと床に立ってるでしょ!」

「空に床?!どういうことですか?!」


 肩から手を離して足元を見せると、今度はサシャさんが力いっぱいに肩を掴んできた。


「い、痛い痛い。力入れすぎじゃない?」

「⋯ユ、ユウジさん。こ、ここなんなんですか?」

「展望台って言えば伝わるかな?」

「そ、そんなのせいぜい三階とか四階くらいじゃ⋯」

「ここは三十階だね」

「さんじゅ⋯⋯」

「うん、三十階」

「⋯⋯⋯さん⋯じゅっ⋯⋯」


 ここは会社の近くにある、オフィスや商業施設が入ったビル。その最上階にある展望台テラスに連れてきてみた。


 サシャさんの反応からして、あちらにはこんなに高い建物はないんだろうか。仮にあったとしても、行く機会なんてないのかもしれない。


「ほら、もう少し窓に近づいてみようよ」

「わ、割れますよ!落ちますよっ!?」

「割れないし、落ちないよ⋯⋯⋯多分」

「多分?!」

「大丈夫。大丈夫だって」


 新鮮だ⋯。


 こんなサシャさんを見ることができるなんて、連れてきてよかった。高いところは好きかなって勝手に思ってたんだけど⋯⋯⋯そのうち好きになるでしょ。


「ほら。いつもは見上げる建物を見下ろすなんて、なかなかないんじゃない?」

「いやいや、ニホンでしか見上げないし。それもそんなに見てるわけでは⋯⋯⋯ヒィッッッ!!!!?」

「ほらほら、人が歩いているのが見えるかな?」

「そんなの見えませんよー!!っていうか!怖くて見てられませんって!!」


 肩を掴んでいる手は一向に離される気配がない。それどころか、どんどん力が強くなっていく。痛くなってきた。あとが残りそうだ。


「あ、鳥が飛んでるよ?」

「鳥と同じ高さ?!」


 怖がるだけ怖がって、そのまま消えてしまった。


「ありゃ。時間きたか。戻ってくるかな?」


 あの様子だと戻ってこない可能性もあるけど、イスに座って少し待つことにした。



ーーーーー



「も、戻ってきた⋯⋯はぁ⋯⋯」


 魔物の洞窟より怖い目にあうなんて。⋯⋯⋯よし、ミラにも同じ気持ちを味わってもらおう。


「ミラ?どこですかー?」


 ユウジさんが帰ってしまう前に、早く連れていかないと!急げ急げ!


「ミーラー??」

「あ、サシャ!どこ行ってたの!仕事あるのに!」

「まぁまぁまぁ。まぁまぁまあ休憩しませんか?いや、しましょう!」


 強引に移動させてボタンを押す。


「まぁまぁうるさい!⋯って、あっ!」


 ぽちっとな。


 ピンポン。



ーーーーー



「な、な、なんじゃあこりゃあっ?!」


 おっと聞いた事のある声が響いたぞ。合流したくないぞ。


「なにここ!?なにここっ?!」


 どうやらミラさんを連れてきたようだ。テンション高めの声が聞こえてくる。


 ⋯⋯⋯⋯ん?ミラさんの声しか聞こえないような?サシャさんは??


「わー!すごいね!高いたかーい!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ひっ!⋯」

「ほらほら、あんなに遠くまで見えるよ!」

「⋯⋯⋯⋯ひっ⋯⋯⋯⋯」

「ちょっとどうしたの?」

「⋯⋯⋯⋯怖いんですよ。怖くないんですか?」

「えぇ??なんで??」

「⋯⋯えぇ?!⋯⋯ユ、ユウジさーん、どこですかー⋯⋯」


 サシャさんとミラさんの反応は正反対だ。サシャさんは怖いのにどうして戻ってきたんだろう?とりあえず声をかけてあげよう。


「怖いなら無理しなければよかったのに」

「あ、ユウジさん!⋯⋯ミラも怖がるかと思ったんですよ」

「なるほどね。そんなことなさそだね?」

「⋯はい」


 ミラさんは一人で窓に張り付き騒いでいる。全然怖くないみたいだ。観光にきているコスプレ外国人。そんな感じにしか見えない。


「ミラ、おかしいです⋯」

「でも、危険なとこではないんだよ?魔物退治より安全だよ?」

「安全とかの問題じゃないんです。⋯⋯私、高いところダメだったんですね⋯⋯初めて知りました」


 どうやら、本当にダメらしい。全然いつもの調子に戻らない。こんなサシャさんを見てると、なんだかこっちが悪い事をしてしまったような気になる。


「⋯なんだか、ごめんね」

「いえ、私がミラにも同じ目にあえばいいなんて思ったから⋯」

「うん、それはそうだね」

「⋯⋯うっ⋯⋯⋯はぁ⋯⋯」

「まぁ、ミラさんにはいい観光だったと」

「⋯⋯⋯はい、そうですね」

「⋯今度は違うとこ連れてくから」

「ぜひ!」


 十分間、展望台からの景色を堪能したミラさんと、ひたすら怖い目にあったサシャさんは消えていった。


 いろんな意味で、みんなの気分転換になったかな?

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