21 やれません⋯
魔物退治。
今日行くのか、行かないのか。ボタンを押してみればわかる事。
⋯よし。ぽちっとな。
ピンポン。
外だ。教会の中ではない。少し離れたところに家が見えるから、前回のように荒野ではないようだ。そして、少し離れたところに見覚えのある集団がいる。こちらに気づいたようで、こっちに駆け寄ってきた。
「さ!ユウジさん!行きますよ!」
集団の走るスピードは多少落ちたものの、止まることはなく自分の手をひいていく。こうなれば、一緒に走るしかない。
「これは魔物退治に行くって事だね?」
「そうですよ!時間に限りがあるから!急ぎます!」
むやみやたらに探して遭遇するものだろうか⋯。そう思っていると、
「大丈夫!少し前から魔物を探してましたから!」
こちらの考えを読んだのか、欲しくない回答をされる。つまり、魔物に遭う確率は高いという事。
「⋯あーー、そーーですかー」
この集団のメンバーは、サシャさん、ミラさん、ダヌさん、そこに自分が追加された。そういえば、ミラさんも村に来ていたんだな。
⋯前回はなんとか火魔法で倒した。本当に、本当になんとかって感じ。何もイメージできず、単に炎を繰り返して放っただけ。今回は火魔法を使っているダヌさんがいる。彼の使い方を見て、何か学べればいいんだけど。
「あそこです!」
少し前から探していたお陰なのか、すぐに魔物が見つかった。立ち止まったサシャさんが魔法の使用を促してきた。
「ユウジさん、防御力上昇をかけてもらえますか?」
「はいはい⋯『防御力上昇』」
「あ、本当に使えるんだ⋯。聖魔法じゃないよね」
「なんで使えんだ?回復使ってたよな?」
「さぁ!ユウジさん!火でも水でも!やっちゃいましょう!」
「⋯⋯えぇ?!いきなり??俺やんの?ダヌさんの使い方とか見てみたいんだけど⋯」
「いや、時間ないんで!!」
「えぇ⋯」
え?水も?!とか話してる声が聞こえてくる。
そうだよね。普通は一種類なんでしょう?⋯バラして大丈夫なのかな。
ちなみに今回の魔物も獣から変わったようなやつ。元は牛かなんかかな?
⋯仕方がない。やるか。
魔物までの距離があり、木の陰にいるからまだ気づかれていない。それに他のメンバーもいるからか、焦りを感じない。だから前回のように危険は感じない。⋯いや、危険だけど。
よし、今回は槍をイメージしてみようか。炎の槍。かっこいいんじゃない?⋯⋯⋯いやいやいや、何考えてんだ、俺は。とりあえず!槍だ!槍槍槍槍⋯。
『炎』(の槍)
槍というか、パッと見、棒状になった炎が魔物に向かっていく。一発では倒せないかと思い、連続で放った。
『炎』
『炎』
火でできた槍が全部で三本。それが魔物に刺さっている。刺さっているところから徐々に燃え始めて、血と思われる液体がでている。何やら叫んでいるが、こちらに向かってくる様子はない。このまま倒せそうだ。
「「「おお」」」
三人の様子からしても、問題はなさそうだった。
「ダヌさん。こんな使い方、どうでした?」
「いいと思うよ!ちゃんと形になって、刺さってたし!」
サシャさんを見ると、良かったのかダメだったのかわからない表情をしていた。
「倒せたのはよし!⋯⋯でも、何か能力使わせた方が良かった??でも、時間ないし危ないのは⋯」
あ、聞こえてくる内容はサシャさんらしいわ。
急に正気に戻ったのか、次を促してきた。
「さ、次ですよ、次!」
また集団で走り出す。残り時間は大丈夫だろうか。時間がきて戻る時は一人でいいのか、サシャさんはくるのか、ミラさんもくるのか、ダヌさんはどうするのか。そのあたり、サシャさんは何か⋯⋯考えてないだろうな。うん。
「今度はあそこです!」
今度の魔物は獣っぽくなくて、二足歩行している人型に見える。
「え?⋯⋯人?」
「違います!」
「あ゛あ゛あ゛は゛あ゛あ゛」
「何か喋ってる?!」
「喋ってませんよ!気にしないで!」
「え、でも⋯」
よく見れば人じゃない。それはわかる。黒いモヤも漂っている。普段見かける人の肌の色をしていない。でも、獣が魔物になる事もあるって聞いた。⋯じゃあ、人は?人だってなるんじゃないの?⋯人だったんじゃないの?それを攻撃するの?
色々考えてしまい、何も出来ずに固まってしまった。距離はあるから大丈夫だろう。でも、攻撃をしようという気持ちになれない。
あ、どうしよ⋯。やらないとダメ?⋯ダヌさんいるし、いいかな。やってくれるかな。でも、見たくないな⋯。
「ユウジさん⋯」
話しかけられたタイミングで、人っぽい魔物が火に包まれた。自分は何もしていない。何もできていない。ダヌさんだろう。やってくれなかったら攻撃されていたのかもしれない。魔物は火に包まれながらも何か声を発している。
こんな事に縁がなかった現代人としては、獣っぽい魔物を倒すのだって頑張ったほうなんだ。⋯⋯これは人っぽくて、声を発していたけど黒いモヤはあるし、攻撃をしてくる。だから、いくら人っぽくても魔物だってのは理解はしている。⋯しているんだけど⋯⋯やれないよ。
「ここどこだ?!魔物は?!」
部屋に戻っていたようだ。ダヌさんが戸惑っている。一気に日常に戻ってきた感覚になった。
あー、そのパターンにしたのねー。⋯よし、ダヌさんのフォローはしない。つかできねぇ⋯。それどころじゃない。
「ダヌさんの位階はどれくらいですか?」
「急になに?九だけど?」
「ふむふむ⋯。だとすると私達と一緒かも?」
「なんなんだ?ってか、ここどこだ?!魔物は?!」
「ダヌさん、深く考えたら負けです」
今日はあまり喋ってないミラさんが訳知り顔でダヌさんを諭している。
「ユウジさん!お疲れ様でした!」
「⋯うん」
「せっかくだから!なんか、くらってみてもよかったかもとは思ってますけど!」
「⋯うん、そうだね」
サシャさんの態度がいつも通りな気がしたけど、少し違ったようだ。⋯⋯いや、違うのは俺か。
「⋯⋯ユウジさん、あれは魔物です。人じゃありません。⋯仮に、仮にですよ?仮に人がああなったとして!全く意思疎通が出来ずに襲ってくる以上、倒さないと死んじゃいます!」
「⋯うん」
「でも、最初はそうなってしまうのは仕方ないと思います」
「⋯うん」
「一人の時じゃなくて、私達がいる時で良かった」
「⋯うん」
「また何かあるかもしれません。そして、その時もまた何もできないかもしれません。でも、少なくとも私はユウジさんを助けますから。手伝いますから」
「サシャさん⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯あれ?なに?なに、この雰囲気は。心なしかミラさんとダヌさんがそわそわしてない?
「だから、だから、これに懲りずにちゃんと来てくださいね??でないと、でないと⋯⋯」
え、え、え?でないと?
「私がニホンに来れなくなる!もっと色々食べたい!色々見たい!あ!出かける為の服をまだもらってない!」
「⋯あーー、そーーですかー」
ミラさんはえっ?て顔している。ダヌさんはそれでこそ!みたいな顔して頷いている。
そして、皆一緒に消えていった。
「なんか⋯⋯なんかいろいろ疲れたなぁ」
本当に疲れた。明日も休みって言っておいたけど、行かないで引きこもろうかなぁ。
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