19 初体験は突然に

「⋯あれ?」


 ここどこだ?教会の近くじゃない?そもそも町じゃなくね??サシャさんの近くのはずだよね?


 辺りを見渡してみると、家屋が全くない荒野のようだった。視界の端を馬か何かが駆けていて、遠ざかっていくのが見える。それとは別に反対から何かがこっちに向かってくるのも見える。


「⋯イノシシ、とか?」


 動物というより、獣といったほうがいいのか。近づいてくるものから土煙だけではなく、黒いモヤのような物も漂っている。


 普通の獣じゃないよね、あれ。⋯魔物ってやつか?


 ちゃんと見た事はなかったけど、多分そうだろう。このままだと危ないかもしれない。


『防御力上昇』


 使えるようになったばかりの防御力上昇を急いでかけた。一瞬、膜がはられるような感覚があったから、問題なくかかったはずだ。


 こちらに気づいたのか、猛スピードで駆け寄ってくる。あ、これ見た事ある。突進じゃね??なんて思った時にはもうくらってて、軽く吹っ飛ばされた。


「っっつっっっ!!!?」


 魔物だからなのか、位階の違いによるものなのか。初めてくらった突進とも、自分で使う突進とも威力がまるで違う。それに、明確な攻撃の意志を感じる。これが殺意だろうか。防御力が上昇していても痛いものは痛いし、かけてなかったらと思うとゾッとする。


 ⋯痛ぇし、怖ぇよ。なんなんだよ!軽く飛んだぞ?!


 魔物は距離をとると、またこちらをめがけて突進を仕掛けてきた。


 ⋯このままじゃ、やられる、か?


 またくらっても、さっきと同じ程度ならまだなんとかなるだろう。でも、いつまで防御力が上昇しているかわからない。効果が切れた後にくらったら絶対に大怪我する。意識を失って回復が出来ない状態にでもなったら終わりだ。


 ⋯やられる前に、やらないと!


 そう思った瞬間には、もう目の前にいて魔物がいて避けられそうにない。咄嗟に魔法を放った。


『炎』


 自分の目の前に出すだけで当てる事はできた。でも、何もイメージできなかったのと、突進によるスピードが出ているせいか、あまりダメージを与えられていないようだ。急いで魔法を繰り返す。


『炎』

『炎』

『炎』

『炎』


 ひたすら炎を繰り返す事しかできない。それでも徐々にダメージを与えられたようで、魔物の全身に火が回った。こちらに到達する直前で止まり、そのまま動かなくなった。


 ⋯倒せた⋯のか?⋯焦げ臭ぇ。


 こちらとしても、突然の出来事に精神的にも体力的にも限界だ。もう、動きたくないというか、動けないという状況だ。今まで生きてきて、こんな経験は初めてだ。


「⋯⋯っ、ふぅ⋯⋯⋯」


 魔物は燃えたままでいたが、その場で思わず地面に寝転がった。


 ⋯多分、もう少しで部屋に戻るだろうし、このままでも大丈夫だろ。つか、結局ここはどこなんだろ?近くにサシャさんはいないのか?


 いろいろ確認したい事はあったけど、急激な眠気に襲われて眠ってしまった。


 目を覚ましてみると、見慣れた天井だった。


「部屋、だな。ちゃんと戻ってきた」


 初めて魔物を倒した状態はどうなっているのか。


『状態』


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ユウジ・サトウ


職業  無職

位階  五

体力  中

魔力  小

能力  世界移動 十分間+十分間

    学習

     学習による効果 回復

             解毒

             防御力上昇

             突進

             炎

             水

    経験増


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 確認してみると、体力は少し減っているぐらいですんでいる。防御力上昇のおかげだろう。魔力は少なくなっている。あんなに何度も炎を使ったのは初めてだけど、感覚的には回復をたくさん使った時と変わりない。画面にはないけれど、精神の状態を表す項目があったら、それも少ない表示だっただろう。病気を治してもらう前、じわじわと死を感じた事はある。でも、今回のような突然なのは初めてだ。なんとかなったから良かったものの、ならなかったら⋯⋯。


 ちなみに、今回は位階が上がる事はなく、能力が追加される事もなかった。おそらく経験は増えただろうけどわからない状態だ。


 あんな目にあっても何もないってかー⋯。


 今まではどこか、ゲームを楽しんでいるような軽い気持ちでボタンを押していたけど、少し認識を改めた方がいいのかもしれない。あちらの世界も紛れもない現実で、少し間違えば命に関わる。こちらの世界とは違うんだ、と。


 そう思ったのは間違いないんだけど、


「⋯⋯あ、この服もう着れないよなぁ」


 そんな言葉が出てしまった瞬間、平和な日本に戻ってきたと感じ、それ以上考えるのを放棄してしまった。


「⋯さ、風呂はいろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る