ケイク部の日常!~おしゃべりとクイズの放課後~

越山あきよし

第1話「パンはパンでも食べられないパンは?」

「パンはパンでも食べられないパンは?」


 りんちゃんがクイズを出した。

 それに対してまなつちゃんがぼやく。


「りんりん、面倒だからってそんな定番な……」

「いいじゃない別に。それで答えは?」


「答えは……パンツ!」

「まなつは、なんであえて、それを選んだ!」

「いいじゃんパンツ。文字数少ないし」


「そんな理由?」

「フライパンじゃ長いじゃん」

「たった二文字の違いでしょ?」


「ひよりんはなんて答える?」


 まなつちゃんがわたしに話を振る。


「え!? わたし?」

「うん。そう」

「この流れで話ふる?」


「えっと……た、短パン!」

「ひより、流されないで……」


「フライパンより、一文字短い。いいかも」

「文字数でしか見ないんかい!」


 ――パンッ!


「のの、なにやってるの?」


 りんちゃんが問うと、ののちゃんが答えた。


「これでどうかと思いましてぇ~」

「いや、どうって……?」


 ののちゃんが手を叩いて音を鳴らす。

 ――パンッ!


「これですよぉ~」

「あ、パンッ! って鳴ってるね」


 まなつちゃんが嬉しそうに言った。


「まさかの擬音で表現して0文字」


 りんちゃんは脱力している。


「いいね」


 まなつちゃんは親指を立てたサムズアップで肯定した。


「まなつはどんだけ文字数に拘るのよ!」

「あはは……」



 わたしは今、軽クイズ研究部の部室にいる。

 遡ること今日の放課後――



 ――放課後。


 わたしはすぐに帰る気になれず図書室に向かっていた。


 校舎四階の端。

 中央階段を上って、文化系の部室が並ぶ廊下を歩く。


 図書室のドアを開けようと、わたしが手を伸ばすと、


「わははは」


 図書室内から軽快な笑い声が聞こえた。


 静かな空間のはずなのにどうして?

 まぁ、そういう人もいるよね。


 中に人が居ることを知ると急に怖くなったわたしは図書室には入らず、回れ右して廊下を歩く。


 ……わたし、なにしてるんだろう。


 ふと、ある部屋が目に入る。


 一番端の部屋。

 文化系の部室が並んでいることを考えるに部室。


 プレートがついていないことから空き部室なのかな?

 ドアに手をかけ開けてみる。


 ――ガラガラッ!


「あ……」

「ん?」


 中に人がいた。


「お邪魔しました」


 そう言ってドア閉めようとするも、


「待って!」


 制止されてしまう。


「な、なんでしょう……」

「あなたも一年でしょ。あたしも一年。一緒に話さない?」


 りぼんの色で学年がわかるようになっている。

 同じ緑色だから同学年だ。


「え、いや、その……」

「入って、入って」


 手を引かれ、わたしは部屋に入る。


 中にはわたしを含めて四人いる。

 全員一年生のようだ。


「いらっしゃいませぇ~」

「まなつ、強引に中に入れたら可哀想でしょ」


「いいじゃん。どうせ暇してるでしょ」

「なんで決めつけてるのよ」


「放課後に文化系の部室が並ぶ廊下にいる人は暇してるって決まってるんだよ」


「それ、どこ情報よ」

「まぁいいじゃん」


「まぁいいけど、私は久世くぜりん。りんて呼んでね」

「それじゃ、りんちゃんで」


 なんか一人ずつ自己紹介する流れになってる。

 その流れで呼び名を決めるわたしも、わたしだけど。


「あたしは早坂はやさかまなつ」

「まなつちゃんだね」


「そう。んでこっちが――」


「わたくし、月野ののかですぅ〜」

「つきののの?」


「月野、ののか、ですぅ~」


「ののでいいよ」

「まなつが決めるな」


「それで、あなたは?」

「わたし?」

「そう。名前、教えてよ」


「えっと……わたしは夕凪ゆうなぎひよりです」

「ひよりんだね」


 いきなりあだ名呼び⁉


「ここにいるのはみんな一年だから敬語は使わなくていいよ」

「そうなんで……そうなんだね」


「それで、ひよりんは何してたの?」


 まなつちゃんはテーブルの上に置いてあるクッキーを手に取り、サクサクと食べながら訊いてきた。


「わたしはなんか帰る気になれなくてふらふらと……」

「ほら聞いた? やっぱりそうだよ!」


 まなつちゃんが嬉々として言う。

 それに対してりんちゃんが呆れ顔で返した。


「やっぱりって、なにが?」

「放課後に文化系の部室が並ぶ廊下にいる人は暇してるの!」


「いや、たまたまでしょ」

「そんなことないよ」


「えっと……ここはなにをしてるとこなの?」

「ここはね……えっと……ケイク部!」

「……ケイク?」


「軽クイズ研究部の略だよ」

「軽、クイズ……研究部?」


 部活一覧に載ってなかった気がするけどな。


「そう。クイズを出して遊ぶの!」

「へ、へぇ〜」


「今からりんりんがクイズ出すとこ」

「そうなんだ」


「うん。ひよりんも混ざる?」

「わ、わたしは……えん――」


「混ざるよね!」


 まなつちゃんに両手をぎゅっと握られた。


「う、うん……」

「それじゃ席について」


 わたしは言われた通り席につく。


「それじゃ、りんりん。どうぞ」


 りんちゃんは呆れ顔をまなつちゃんに向け、軽く咳払いしてから話し始めた。


「パンはパンでも食べられないパンは?」


 ――という流れがあり、わたしは部員ではないのに軽クイズ研究部の部室にいる。


「それじゃ、明日もこの部室に集合で」

「わかりましたぁ~」


「明日もやるのか」

「当然じゃん。部活なんだから」

「まぁ、いいけど……」


「クイズは持ち回りで出していこう。明日はのので」

「わたくしですね。任せてぇ~」


「……部活……」

「ひより、どうしたの?」


「わたし、部活には良い思い出がなくて……」

「そうなんだ」


「うん。本当はない部活なのにあるって言われて、わたしだけそれを知らなくて……でも……」


『え⁉』


「どうしたの? みんな」


「ううん、なんでもない。ひよりんも来てね」

「え? いいの?」


「部員じゃなくても大歓迎! そんじゃ明日!」


 わたしはみんなと別れる。

 なんかよくわからないけど、明日も部室に行こう。

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