第7話 腕からみ、手つなぎ(ハーレムウォーク)

 正午ちょうど。


「ほらあ、矢口! 行くぞ!」

 とドアの前で如月が言った。


 日差しがほどよく、そして少し涼しいそよ風が吹いてる。

 俺たちはマンションのエントランスを出た。花見だかピクニックだかよくわかんないけど、とりあえず外出だ。


 ……俺の右には白雪ノノ。左には如月アカネ。

 いや、なんかすげえ並びになってるんだけど。


 そして――。

「えへへ〜、平太さん♡」


 白雪が、当然のように俺の腕にからみついてきた。

 体の密着度、尋常じゃない。制服の布越しに、しっとりと柔らかいものが……って、ちょっと待て待て待て!


「お、おい白雪、近いって!」


「え〜? だってカップルって、こうやって歩くもんでしょ? ふふっ♡」


 いや、付き合ってないよね!?

 それ、ただの距離感バグってるやつだよね!? 

 こっちは思春期男子だぞ! 前かがみで歩かんとあかんくなるよぉぉぉお?


 それでも白雪は構わず俺の腕にしがみついて、顔を見上げてニコニコ。

 まるで本当に彼女みたいな自然な笑顔。しかも美人。しかも黒髪ロングの清楚系。街中にいそうでいない、幻級の美少女だ。


 ……いや、いま現に俺の右腕にくっついてるけど。


 ただでさえ注目度MAXな白雪に腕を取られて、俺は半ば引きずられるように歩き出す。


 と、その瞬間――。

「……チッ。調子乗ってんじゃねえぞ、ビッチ雪女」

 横から低い声とともに、ぬっと如月が俺の左手をつかんできた。


「へ、えっ?」


「お前だけが目立つんじゃねえ。私だって――」


 そして次の瞬間。

「カップルつなぎでもいいよ」

 そう言った如月は、なんのためらいもなく、俺の左手をぐいっと引っ張った。

 普通に手をつなぐんじゃない。

 お祈りする時みたいに、指を交互に絡ませて、がっしりと握ってきた。おいおい、力強っ!

 なんだこの密着率……!


 うわぁああああああああ!!!???

 頭がバグるってえぇええええ!!!!

 正直、叫びそうになった。


 超能力Sランク級の美少女二人に、左右から密着されながら歩いてる。

 どこのハーレムだよ!? なにこのハーレムウォーク!

 通りすがりの人たちの目線が、ガンガン突き刺さる。


 大学生らしき二人組が「えっ……やばくね?」とか言ってるし、

 ちっちゃい子どもが「ママ〜! あの人たち、何してるの〜?」って聞いてる。

 母親は困ったように「見ちゃダメです」って言ってた。なんでだよ。


「おい……これ、ちょっとヤバいって」

 俺は小声で二人に言う。

 が、白雪はくすっと笑って言った。


「そうですよねヤバいくらい幸せですよねぇ♡」

 いや、俺が言いたいのはそういう意味のじゃないんだよ!

「まあ、左側についてる燃えるおサルさんは邪魔ですが」


 ……おいおい、白雪。如月のこと、「燃えるおサルさん」呼ばわりはやめたほうがいいぞ?


「なんだとこのビッチ雪女!」

 如月も顔を赤くしながら、強く手を握った。

「……あのビッチに負けたくないし……あ、いや、なんでもない!」

 なんでもないって言いながら、超気合い入ってますけど。


 でも、まあ、二人はさっきみたいに喧嘩にはなってないので、とりあえず現状維持するしかない。 白雪は俺の腕にほっぺを軽くくっつけてるし、如月は指の絡め方を地味に調整してきてる。


 そして、そんな俺たち三人組が向かう先は――。


「……あそこだ!」

 如月が元気よく指を差した。

 そこには、ちょうど満開の桜が咲く、小さな町の公園があった。

 春風が吹き、花びらが舞う中、地面にレジャーシートが敷かれている。


「準備万端です♡」

「……お前、いつの間に……」と如月がたじろぐ。

「さっき、ベランダから飛んで、公園に準備しといたんですよ♡ どうですか、平太さん、私っていいお嫁さんになれますよね?」

「い、いやまあ……」

 如月が俺をめっちゃ睨む。

 


 ――そして、奇妙な花見デビューが幕を開けるのだった。


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