第29話 臆病な自尊心と尊大な羞恥心

 FPS──ファーストパーソン・シューティングゲームと呼ばれるゲームジャンルがある。

 要は一人称の視点で銃をバチバチに撃ち合って倒しまくるっつーゲームだな。

 全世界で人気なジャンルだけあってプレイ人口は相当なものだし、FPSだけで食っていけるプロゲーマーもそこそこ多かったりする。


「問題はあたしにFPSの経験がほとんどねぇ、ってことだな……」


 案件先の企業の要望はFPS配信。

 やったことが無い、というわけではないが技術の習熟に時間が掛かりすぎじゃね? と思ったあたしは面倒になってやめた。


 負けたところで自分のせいじゃねぇ。

 味方のせい、ということにしておけばあたしのプライドが傷つくこともなかったし。クズと言えよ。あたしはクズだよ。


 まァ、自分のせいにも味方のせいにもできないくらいの初心者帯だったし、そこまでハマるほどの面白さを見出すことができなかった、ってのが主な理由だ。


「……ゲームの案件配信は初めて。そこでFPSをプレイしてボコボコにされてキレる。つまりは案件先の予想通りという形で終わる。──到底耐えられるわけねぇよなァ??」


 馬鹿にされっぱなしが一番ムカつく。

 兎にも角にもプライドの高いあたしにとって、負けることが分かっていながら挑むなんてことは耐え難い屈辱だった。


「コソ練してイキるしかねーな」


 つまり、結論がコソ練だった。


☆☆☆


「だぁぁぁ〜〜っ!! くそがぁぁあ!!!」


 あたしはコントローラーをぶん投げた。

 初っ端に集中砲火を食らって消し炭にされた。


 ……一人で何でも解決できる問題でもねぇし、そもそもあたし自身も始めたてだからワンマンプレイができる実力もねぇ!!


「イライラするなァ……これを配信したらマジでBANされる気がしてならねぇ。七色がFPSやってなくて良かったなおい。水と油だろ」


 FPSは暴言厨と相性が悪すぎる。

 例に漏れずあたしもイライラが止まらないことによって、ずっと貧乏揺すりを繰り返している。

 ……あー、クソ実戦だけじゃ上手くならねぇ。


 思案するが上達するためのアイデアが浮かばない。この分野に詳しい人間が周りにいない……友達いねぇから誰もいないわ。


 なんて自虐をしながら唸っていると、ピロンと音を立ててスマホが鳴った。見るとマネージャーからだった。


────

マネ:あの、とある人からFPSのコツをまとめた資料が送られて来まして……活用してください。

【ワタシとFPSコラボ配信をやろう資料】

レイナ:誰から送られてきたか隠す気ねぇじゃないですか

────


 あたしは圧の強いタイトルの添付資料を開くと──そこにはずらりとFPSのアドバイスが並んでいて、あたしが案件でやる予定のFPSゲームから、有名どころのゲームタイトルのアドバイスまでリスト分けされたものが広がっていた。


 ……このタイミングとこの知識量。

 そしてあたしが案件でFPSをすることを知れるのは事務所内の人間──マネージャーか所属しているVTuberのみ。


「レヴィ・スケルトォ……随分と舐めた真似をしてくれるじゃねぇか」


 ギリギリと歯軋りをして屈辱に耐える。

 敵に塩を送られるほどあたしは弱いと思われているのだ。特に、最近自信のあるゲームでボコボコにしてきたヤツに。

 

 ふざけんじゃねーよ、と思う反面、八方塞がりだったFPSゲームの上達に光明が差したことは大きい。

 屈辱は屈辱だが、あたしは再三言ってる通り目的のためならば手段は選ばない。


 敵から塩を送られたんなら、その塩を飲み干してぶち殺してやるまで。あたしに練習の隙を与えたことを後悔させてやるしかねぇよなァ???


「とはいえ悪寒がする……」


 何が狙いなんだコイツは。

 あたしに恩を売ったって返せるものはねーし、返すつもりはねぇぞ。だってあたしは別に頼んだわけじゃねーからな。


 ……まァ、案件配信が上手くいったら多少の希望を通すくらいのことはしてやっても良いがな??

 ハッハッハ!! まあ、多分しねぇと思うけどな!!! ハッハッハ!!


☆☆☆


「かわいいね♡ かわいいかわいい♡」

「………………っっっ」


 あたしはピンク髪の少女の膝の上で、借りてきた猫のようにジッとしながら頭を撫でられていた。



 ──こうなった経緯は5日ほど遡る。




 

 

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