第23話 コラボの概要
「三日後にコラボお願いします」
「えっ」
当たり前のように拒否権なんてものは無く、唐突にコラボの予定が決まった。
相手は暴言厨こと七色光である。
「くっ……断れねぇあたしが恨めしいぜ……」
事務所に入ったからには事務所の意向には逆らわない。あたしは基本的にそう決めている。
波風立たせても何も良いことなんてねぇし、活動のバックアップをしてもらっている身で逆らうほどあたしも馬鹿ではねぇのだ。
にしても七色光とコラボか……。
アイツが雑談配信してるイメージとか無いんだが歌枠コラボでもやんのか? いや、相手が霞むから歌枠でのコラボはしないとかそういや言ってたな。
何たる傲慢な物言いだとは思うが、実際のところアイツに歌唱力で勝てるVTuberは今んところはいねぇし妥当な判断ではあんじゃねーかと思う。
「ハァ……って噂をすればか」
憂鬱だとため息を吐くと、タイムリーなことにコラボ相手である七色光から通話が来ていた。
メッセージも無しに通話を掛けるとか陽キャみたいなことしやがって……。
「…………あい」
『うふふ、おはようございますレイナさん』
「深夜だぞ今」
『わたくしが起きた時間が朝なんですよぉ』
たまにあたしもその言い訳使うから真似するのやめてくれ。夜型人間の弊害を身にしみて感じてるんだからよ。
「あ? ってかてめぇって規則正しく生活してんじゃなかったか?」
『ええ、21時に寝て4時に起きたので健康ですよ』
「21時は夕方だろ……」
『うふふ……過言〜♪』
ある意味VTuber向いてねぇんじゃねーの。
容姿も良いし歌もお茶の間で通用するレベルだし、なんでコイツVTuberになったんだろうな。
まあ、別に七色光の事情なんて微塵も興味ねぇし聞く気はないけどな。
「んで、コラボの件だろ? どうしていきなりコラボなんかしようと思った?」
頭を掻きながら問いかけると、少しだけ沈黙が広がった。
まるで何かを考えているような間で、七色は電話越しでも想像できる楽しそうな声音で言った。
「わたくしも一期生として行動しなくては、と思ったんです。先輩の役目は後進の育成も含まれますからね。ですので、今回アナタ方3人の5期生とコラボをしようと思ったんですよぉ」
「……ほーん、殊勝な心掛けじゃねーか」
……あー、自分さえ良ければ何でも良いや、って領域に突入している……ある意味あたしに似ているコイツがそんなことを言い出すなんてな。
意識の改革でもあったか?
まああたしだけじゃなくて5期生全員にコラボ打診を掛けてるなら、あたしとしても頷く他ない。
冷静に考えて211万人の登録者を誇る一期生とタダでコラボなんて美味しすぎる話だ。
ふっ……お前のリスナー全員食い散らかしてあたしに鞍替えさせてやんよ。
……ってコラボだけで数字を稼ぎたくねぇけど!
あくまであたしは、あたし自身の力で勝ち抜きたい──が、無料で数字をくれるなら乗らない手はねぇし、どのみち拒否権はない。
と、コラボをしてしまう言い訳を心の中で積み重ね、七色の続きの言葉を待つ。
『ズバリ! 題目は5期生に100の質問投げてみた! まあ、他の人に5期生を知ってもらおうというコーナーですねぇ。実際は100も質問していたら時間が無いので3人で割って33個の質問に答えてんもらおうかなとぉ』
「……マジで4期生にしかメリットがねぇな。なんか企んでたりしないよな?」
上手い話には裏がある。
己の時間を削られることを何よりも嫌ってそうな人間が他人のために体を張るなんて信じられねぇ。
あたしに負けず劣らず身勝手でカスな七色光が、こんな善意の塊みてぇなことをするなんておかしい。
暴言厨、七色光が改心?
……ハッ、無い無い。そんなんで改心すんならBANされた翌日にツニッターで毒を吐いてねーわな。
ということでかなり訝しみながら問いかけると、彼女は非常に何かありそうな間で言った。
『…………………………うふふ〜、無いですよぉ』
「なんだよその間は」
『もしも何かわたくしが企んでいたとしても、企画自体に嘘は無いことは約束しましょう。ですので、別に問題は無いんじゃないですかぁ?』
「……借りだとは思わねぇからな」
『もちろん。わたくしが勝手に企画したことですからねぇ……』
変に理詰めで納得させようとしていることがきな臭えが……確かにあたしサイドで問題は一つもないし、勝手に借りを押し付けようともしないなら放っておいても良いだろ。
「じゃあ良いわ。平和的にコラボと洒落込もうじゃねーの」
『ええ、楽しみにしていますよぉ』
そう言って七色は通話を切った。
……若干不安要素はあるが、心配したところで対策をしようがねぇ。警戒は解かないで発言には慎重になろう。
あたしは別に暴言厨ではないしな。
七色とは違う。清廉潔白がモットーです(大嘘)。
「ハァ……憂鬱だ」
☆☆☆
「ふぅ、危ないですねぇ。本当はレイナさんだけコラボに誘って色々と本人の情報を聞き出そうとしていましたが……我ながらナイスな言い訳。レイナさんの同期にも興味自体は僅かながらありますし……良いでしょう」
暗闇で七色光はニヤニヤと笑った。
全て己の手のひらの上だと言うように。
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主人公はありがとうとごめんなさいが言えないデバフに掛かっています。
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