第13話 努力を惜しんで後悔するのは勿体ない

 あたしにとっては喜ばしいことだが、素直に喜ぶことができない事態が起こった。


 本配信、そして切り抜きが大いにバズった。

 言うまでもない、先日の性癖デュエル配信である。


「あたしの登録者が……うお、三万も増えたか。クソドMが……ゲッ、七万人も増えてんじゃねーか。まあ……初期の数字が取れてねぇからな。あたしのリスナーが登録した分も含めれば妥当か」


 恩を売って登録者も増えてwinwin……のはずなんだがなぁ……謎に敗北した気分になるのはなぜだ。

 あれからクソドMから毎日メッセージは届くし、なぜかあたしとアイツのカップリングまで作られるし……。


 馴れ合って天下取りたくねぇ、って言ってんだろ。


 大体こういう話題は水物で一過性のモノ。

 だからこそ変に擦ったり触れることでリスナーの継続視聴を見込めなくなる可能性があるから、あたしはあんまり内輪ノリが加速するコンテンツを作りたくねーんだ。


 馴れ合いというのはそういうこと。

 あたしだって個人の嗜好だけで馴れ合いたくないって言ってるわけじゃねーんだ。

 そういう理由があるから忌避してるだけ。


「とりあえず、アイツのことは一旦無視。味を占めて運営からコラボ申請が来たら受けるが、あたしからはアクションを取らねぇ。それで良いだろ」


 ……コラボするのはまあ別に良いんだよ。

 でもあたしはコラボをコンテンツ化するほど、集団でのエンタメには向いてねぇ。

 どのみちコラボで登録者を稼ぐのは頭打ちする。

 

「やっぱり歌だな。あたしの特技は歌ってなんぼのもの。歌枠もそうだし……ん、確か運営が遠隔での歌唱レッスンがあるとか言ってたな」


 ライバーへの支援は手厚く。

 それがウチ、【Vertical】の運営方針だ。


 ばーちかる、と呼ばれているあたしが所属している事務所の名前は、"Virtual"と"身近"を掛けて『特定の業界に特化する』意味を持つ"Virtualバーチカル"という英単語から生まれた。


 事務所に所属しているVTuberには遠方に住んでる者も多いらしく、遠隔リモートでの支援もかなり厚い。

 

 その支援の一環に、歌唱レッスン、ダンスレッスン、マナー講座、会話講座、があると聞いた。

 

「あたしの歌の才能は割と唯一性がある。だが、唯一無二の絶対的に歌が上手いってわけではねぇ」


 それはマネージャーが『歌を理由に採用していない』と言ったことで理解できた。

 当然血反吐出るくれぇには悔しいに決まってる。結構自信があったんだぜ? 鼻っ面を思いっ切り叩き折られた気分だ。


 だからこそ、あたしは天下を取るためなら努力を惜しむことはぜっっったいにしない。

 あたしはニートで面倒くさがり屋だが、目的のための手段は選ばない。それが努力という緻密に積み重ねるものであってもだ。


 あの時進まなかった後悔を、あたしは──チッ、まあ良いわ。


「そうと決まればライバー専用の応募フォームから……っと、ま、これであたしより歌が下手なヤツが講師にいたら拍子抜けだがな!!」


 ハッハッハ!! とあたしは盛大にイキリ散らかしながら、想起した思い出したくもない過去を心の奥深くに埋没させていった。


☆☆☆


(調子に乗ってすみませんでした)


 あたしは尊大な自尊心が羞恥心によって覆い隠されていた。


「レイナさん、聞いてる? ここはもう少し……らら〜♪ ら〜♪ みたいにハッキリ歌ってみましょうか」

「ア、ハイ」


 レッスン講師……コイツ……今まで会った人間の中で一番歌が上手い……ッッ!!

 あたしより年下なのに……ッッ!!!!


 パソコン画面ににこやかな女性が映っている。

 銀髪碧眼。まるで物語から飛び出してきたかのような……妖精と見間違えるほどに見目麗しい顔面とスタイル。

 おまけに、その口から発せられる歌声は天使のように聞き惚れさせるものだった。


 才能だけじゃない。

 努力を感じる歌の精度。上手いというより巧い。


 なるほどな。理解したよ。

 こんな逸材を事務所で囲ってんなら、あたしの歌声程度で一々驚くわけがねーわな。


 あー、くそムカつく。

 絶対に絶対的に上手くなってやる。


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第一章(中)

歌唱レッスン&事務所の先輩編が始まります。

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