第7話 TSヤサグレVTuberはガチギレする

「あんたさ。お給料いつ入るわけ? いつまでもお荷物を置き配してる余裕は無いんだけど?」

「VTuberってそんなすぐ給料入るもんじゃねーんだよ。ってかデビューしてから一週間……つまりは就職してから一週間で金貰えるわけないやんか」

「VTuberってアレよね? ファンからお金貢いで貰って不労所得で暮らすホストかキャバみたいなヤツ」

「我が母ながらひっでぇ認識だぜ……」


 日課のエゴサをしていたあたしを呼び出した母親が、いつまでも家にお金を入れないあたしに業を煮やして言った。

 堪え性ってものがねぇのかよまったく!!

 まあ、高校を不登校になってから何の文句も言わず──いや、一日に五回くらい嫌味言われたけど──養ってもらった恩義がある。


 フッフッフ……初任給入ってきてビビるんじゃねーぞ。


 そんな不敵な笑みを披露していたら、またも母親から冷たい視線をプレゼントされた。

 幼い頃からあの視線があたしにとっては愛情だ……。


☆☆☆


 コラボが正式に決定され、運営のSNSからファンへの告知も済まされた。つまりは元々逃げる気もねーけど、完全に逃げられなくなったというわけだ。

 

 コラボは4日後の夜19時から。

 割と日にちが迫っている──のにも関わらず、あたしとコラボ相手のサーヤはまだ通話すらしたことが無かった。


「……返信が来ねぇ……アイツコラボする気あんのか? 初配信以降、配信も控え目だしよ」


 初配信を盛大に爆死したファッションオタクのギャル娘──サーヤは、一週間経ったあれから2回ほどしか配信をしていなかった。

 最初のうちは新人は毎日配信するもんだと思っていたし、現にあたしも毎日欠かさず配信をしているわけだが……、まあもしかしたらVTuberが副業の可能性もあるしな。

 一概に配信してないからどーのこーの、なんて言えねーか。


「とはいえ……表面上は明るく振る舞っていたけど……ありゃ明らかに初配信を引きずってる顔だな。顔見えねーけど」

  

 コラボ相手の情報は調べるべし、ということで2回の配信をしっかり見たあたしだが、どうも会話がぎこちない。

 で好きになって配信に来てくれたリスナーも苦言を呈すほどには、配信者として失格だった。


「……あたしとコラボした程度でテコ入れなんてできるか? いや、それはあたしの知ったこっちゃねーか」

 

 クズなあたしは、別にこっちに被害が来ないならばコラボが失敗しても良いと思っている。

 

 あたしの目標はVTuberの天下を取ること。

 馴れ合って天下を取れるくらいなら今頃は群雄割拠の大VTuber戦国時代になってる。


 飛び抜けて登録者の多い者は、皆が皆強大な個性と──伸びるべき要因を持ってるわけで。

 他人に構ってる暇なんて天才のあたしには無い。


「だとしてもコラボ前にコミュニケーションが取れないのは論外だけど」


 実際に会って打ち合わせしよう、とか言われたらあたしもフケる可能性あるし人のこと言えねーが。

 対面コミュニケーションが苦手すぎるあたしにオフ会はキツイんだ……。


 ……ハァ、とため息を吐く。

 すると、何ともタイミングが良いことにサーヤから返信が来た。ま、流石にそこまで常識がねーわけじゃなかったか。


────

【サーヤ】:返信遅くなってごめんなさい。はじめまして、サーヤです。

 今回は何のメリットも無いのにコラボを引き受けてくれてありがとう。

 でも私、このコラボ断ろうと思ってて。いっぱい考えて考えて……このコラボがレイナさんの活動の邪魔になるんじゃないかな、って思っちゃって。 

────


「はァァ??」


 あたしはそのメッセージを読んだ瞬間、沸々と怒りが沸き立ってきた。


 あたしに時間を使わせたこと。終始卑屈な態度。


 ──違う、そんなことじゃあたしは怒らない。


であたしの邪魔になると思ってんじゃねーぞクソファッションオタク。舐めてんのか? 喧嘩売ってんのか?」


 コラボを断る。まあ、それもヨシ。

 自分に自信が無い。どうかと思うがあたしもリアルじゃ同じだから特に言う事無し。

 

 あたしの、活動の、邪魔?

 

「断るなら自分の都合で断れよ。断る理由ダシにあたしを使ってんじゃねーよ」


 ──決めた。絶対コラボしてやる。

 そして──コラボしてくれてありがとうございました、ってあのファッションオタクに言わせてやる。


 じゃなきゃあたしの気が済まねぇ。


 ほうほうそうか。失敗する前提か。

 なら確実にコラボを成功させてやるよ。

 お前が自信ねぇって言うんなら、卑屈な態度であたしに恥をかかせようとすんなら……。


 その不甲斐なさを──あたしが打ち砕いてやる。


 そしてあたしは何の断りも無しに、通話ボタンをタップした。

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