20.本音リプっ!


 菊池先輩の家に戻った後は、紫尾先輩主導のもとオムライス作りに励んだ。

 途中、「好きな人に手料理を振る舞うために、練習をするのはとても少女漫画力が高いな!」と、横槍に刺されたものの、オムライスは何とか完成した。

 中央で切ればふわとろの卵溢れる紫尾先輩のオムライスとは違い、わたしのはパサパサの焦げついた卵焼きになっていた。

 これじゃ、いつの日か久蘭くんに食べさせてあげれないな……。


「今誰かのことを考えたかな?」

「ぅえっ!?」


 考えていることが見破られて、また素っ頓狂な鳴き声を出してしまった。

 菊池先輩って本当は読心スキル持ってるって言われても信じるくらいなんだけど……わたしが分かりやすぎるのかな!?


「……そのオムライス、私が食べるよ。紅野さんは私のを食べて」

「えぇっ!? そ、そんな悪いですよ……! お腹壊しますって!」

「壊さないから。紅野さんはゲストなんだから。それに、お互いのを食べた方が色々と勉強になることあるでしょ。わたしも食べてアドバイスするから」


 確かに勉強と同じで、現在自分がどういう立場にいるか分かった方がいいもんね。

 本当に紫尾先輩は面倒見が良い先輩だなぁ。わたしもこんなカッコいい女性になりたい……。


「オレも食べてみよう!」

「いい。アンタはわたしの作ったのだけで我慢して」


 と思ったら、紫尾先輩はさっき見せた顔色に変わってはふわとろオムライスを菊池先輩に突き出した。

 それはまるで、好きな人に手料理を振る舞う恋する乙女という可愛さというか……このギャップ萌え……あれ、何だか抱き締めてあげたい気持ちが……!?



「まぁ、そうだな。じゃあいただきま──」


 言葉は途切れ、落ちるスプーンは皿に当たって、高い金属音を出す。

 わたしが驚いている間にも、力を失う菊池先輩のことを、紫尾先輩は下から支えてあげた。


「だいじょっ……!」


 思わず大声が出たわたしを「しー」と紫尾先輩がジェスチャーと共に宥めてから、小声で喋る。


「そこのソファでいいから運ぶの手伝ってもらっていい?」


 わたしは言う通りに、菊池先輩を右脇から入り込むようにして一緒に支える。

 完全に脱力しきった状態の菊池先輩は身長が高くて体格も良いから、二人で支えてもとても重かった。

 こうなった時、いつも紫尾先輩一人で支えてあげてるんだろうか……。


「ごめんね、オムライスせっかく食べるとこだったのに」

「ぃ、ぃえ……! 謝らなくても大丈夫ですよ、また温め直しまして一緒に食べましょ……!」

「……うん。そうだね、ありがとう」


 わたしはラップの場所だけ聞いてから、オムライス三つをふんわりラップをかけた。

 その間に紫尾先輩は、眠る菊池先輩に膝枕をしてあげるだけでなく、頭を撫でている。撫でている!?


「なに?」

「紫尾先輩って……ほ、本当は菊池先輩のこと好きすぎませんか……!?」

「紅野さんもこのバカと同じこと言うのね……」

「はぅ……! い、いやぁ、そ、そのだってぇ……」

「もう……内緒よ」


 唇に人差し指をくっ付けて「しっ……」とした。

 その大人の魅力を思わせる仕草にわたしまでドキリとしてしまった。


「はぅぅ、好きです紫尾先輩……」

「何で私が告白された?」

「わゎゎっ! 違うんです、違わなくはないけど、はっ……」


 目が合った。

 それでわたしは冷静さを多分(?)取り戻して、本当に言いたかったことを聞いてみる。


「あの先輩って……どうして普通の学校に行かずに、ブルアカに通っているんですか……?」

「普通、か……。さぁね。何でだろ。まぁ、私にとって玲央がいるのが普通だからさ。アイツが学校に行けないなら行かないし。ゲームするなら私もするし。それでいいというか、それが好きなんだよ。そう……好きなんだよ、私は。なのに、余計なお世話というかなんというかさ。馬鹿だよね、ほんと……」


 先輩が見上げる先、月の代わりに満月型のリビングの電灯がわたしたちを照らしてくれている。

 揺らぐこともちらつくこともなくただ白く光る。脚立を使えばすぐ届く高さにあるけれど、普段わざわざ触れに行くことはない。

 その時って、灯りが点かなくなった時だけで……。


「私がいない時に何かあったら怖いから。それに、私こそに何かあった時に玲央を一人にしたくない。もう、玲央に悲しい想いをさせたくない。だからずっと一緒にいてあげたいの」

「紫尾先輩……」


 薄らと涙を浮かべる紫尾先輩。

 けれどすぐに元の凛々しい表情に戻った。


「ごめんね。ううん、ありがとう紅野さん。あまり本音を言うことないからさ。改めて自分の気持ちを再確認できた」

「──ほんと、お前は俺のこと好きすぎるだろ」

「はっ!?」

「いだっ!?」


 実は数分前から目覚めていた菊池先輩。

 わたしは目が合ったから気付いていたけれど、紫尾先輩は顔を真っ赤にして頭を引っ叩いた。


「いつから起きてたの、いつから聞いてたの……!」

「いつからだっていいだろ。オレは友理菜の好き好き具合はいつだって知っているからな」

「こいつ……! もしかして紅野さんは気付いてたの!?」


「ごめんなさいぃ……!!」とわたしは全力で頭を下げた。

 紫尾先輩は「起きたなら食べれるでしょ」と乱暴に菊池先輩をどけて、立ち上がる。


「友理菜、オレの方こそずっと言ってなかったな。愛してるよ」

「やめてよ、恥ずかしい……」


 紫尾先輩は振り向かず、けれど人差し指と親指だけで小さくハートを作って、キッチンへと向かった。


「ふっふっふっ紅野くんよ、見せつけてやったぞ。これが少女漫画だ!」

「だ、台無しにしてません!?」


 けれど、とてもキュンとしたのは事実。

 好きを言葉にできるのはいいなって、心からそう思えた。



   **



「おはようちゃん」

「ふぁ、おはようございます……?」


 昨夜はオムライスを食べた後もゲームしたり、と一緒にお風呂に入ったり、それに隣り合わせに寝ながらガールズトークをした!

 これがもう〜最高に楽しかった! だって改めてお泊まり会ってすっごく青春じゃない!?

 それに、お互いのことを下の名前で呼び合うようになった。

 嬉しい……! 良かった〜夢じゃないみたい!


「朝ごはんできたよ。食べてくでしょ?」

「はい……!」


 エプロン姿の友理菜先輩が起こしに来てくれたわけだけど、もう友達超えて娘になった気分です。

 菊池先輩も髪が逆立っているけれど、既に椅子に座っていて、朝ご飯を楽しみに待っている。


「ふっ、どうやら二人は仲良くなれたようだな。しかしガールズトークに参加できなかったのは残念だ。少女漫画のサブストーリーが目の前にあったというのに……!」


 菊池先輩も最初はハイテンションでトークに参加、というより「さぁてタクミのどこを好きになったのかな!?」と質問攻めしてきたんだけど、「キショいしウザい」って友理菜先輩に物理的に寝かされたんだよね……。

 それにちゃんと明言したわけじゃないけれど、わたしが久蘭くんのこと好きと認識していて……まぁ、その通りなので、のちのガールズトークではその話題にはなったんですけどね!


「ならば自ら生み出すのみ! さっそく今夜、ダブルデートを実施するとしよう!」

「だだ、ぶるでーと!!?」


「これを見たまえ!」とスマホで見せてきたのはとあるホームページ──花火大会!?

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