11.徹夜ステータスコンディションっ!


「はあぁぁあああ。どうしよぉぉ!」


「今はな」ってどういうことだろ???

 別にわたしは鈍感でも馬鹿でもないと自負してるから、意味はもちろん分かるよ……今後好きになる可能性があるってことだよね。


「──────!!!」


 ちょっと感情が抑えきれなくて、薄手の毛布に顔を埋めて叫んだ。

 うぉ、落ち着けぇぇわたし!

 あくまでも今は好きってわけじゃないからね! そう、未来はどうなるかわたし次第! えっ!? わたし次第なの!?


 わたし次第としましては……うぅぅ、どどどどうしよう、もうわたしの方は……好きが溢れすぎて止まらないかも……。

 話す度にあの初恋の思い出が……ううん。たった今改めて恋に落ちているわけだけど。

 せっかく会話に慣れてきたのに、これじゃあ全部やり直しだよ。


 ──月が綺麗ですね


 それに、久蘭くんはあの言葉の意味を調べたのかな。

 だとしたらわたしの気持ちにはとっくに気付いている……?

 知った上であの言葉を言ったとか……? でもあれには色々と有名な返しもあって、そのどれにも当てはまらないから、う、うーん、うぅ、うううぅぅぅぅぅ……──


 ──とと、とりあえず今できることは一つ!

 眠れないからって午前2時に悶えてる場合じゃないということ。

 寝ましょう、ちゃんと……寝れるかな!?


 

   **



『おはようショコラ』

『……ぉ、はよぅござ……』

『大丈夫?』


 結局一睡もできなかった……瞼は重いし、頭も支えられないくらい項垂れては、キーボードに頭突きしてしまいそう。


『クテスト行けそ?』

『いっ、行けます……! もちろんですとも!』

『そうか。まぁ体調悪いようなら無理しなくていい。別に出席しなくても怒られないし。たまには休んだっていいから』

『うっ、うん。大丈夫だよ、へへ……』


 ここ最近ブルアカでも、わたしの前だけはタクミくんではなく久蘭くんとして、キャラではなく素のままでいてくれる。

 アバターの表情は笑っているけれど、声からしてあぁ〜無表情なんだろな〜って分かる。

 わたしだけってのは本当に嬉しいんだけど、またドキドキするようになって、眠気の方が寝ちゃうくらいには目も冴えてきた。


『今日は英単語を鍛えたいからワードデザートに行きたいけど、どう?』

『うん……! いいよ、そこで!』


 わたしは久蘭くんと一緒にワープ!

 まぁまずはね。二人きりでクテストに行ける毎日に喜びを噛み締めないと!!


 ……けれど、この時わたしたちは気付いていなかった。

 行き先を盗み聞きしている二人組がいたことに。



   **



『よしっ……! 助けてタクミくんっ!?』

『任せて。hornは日本語で角だから、弱点はここか』


 久蘭くんが氷属性を付与した剣で、砂漠を泳ぐ巨大魚の角を斬り、モンスターを討伐する。

 クテスト中の問題は、正解に応じた行動を起こすことで戦闘を有利に進めることができる仕様。

 かなりの強敵でも頭脳を使えば何とか倒せるけど……本当に、久蘭くんってゲームの腕前だけで乗り切ってたの、すごいな……。

 わたしなんて全問分かったとしても、ゲームの腕前だけで簡単に絶命するよ!?


『すごいねタクミくん……! もう、身体の名称単語は完璧じゃない!?』

『うん。俺も結構自信ついてきた。もうちょっと奥のエリアに行ってみるか』

『うんっ……!!』


『──おいおい、俺のこと忘れてもらっちゃ困るな!』

『ひゃうっ!?』


 このエリアで、影すら消し去るほどギラつく太陽に負けじと明るく返事すると……そんな太陽よりも暑苦しい声が聞こえてきた。


 どこからか男の人の声が聞こえる。けど、周りを見渡してみてもいない。

 ボイスチャットぽいから、NPCでもモンスターでもなさそうだけど……いっ、一体どこに……幻聴かな?


『このオレを見上げたくなる気持ちはよく分かるが、不正解だ。ここだ! 下だ!』

『え? ぎゃぁぁぁ!? なっ、生首がぁっ!?』


 わたしと同じ金髪だったので、黄色い砂に混じってすぐには気付けなかった。

 新手のモンスター!? ……ではなく、生徒ユーザーが砂に埋められているみたいだ。地から浮き出る顔はとても凛々しくてイケメンだった。なに、イケメンの生首て……。


『もしかしてさっきのモンスターの仕業かな。問題を間違えたら、砂に埋められる特殊攻撃があるんだよ』


 他の生徒、というより不審者が出たことで、久蘭くんはよそ行きの態度に戻ってしまった。


『そそ、そんな!? たたっ、助けないと……!』

『その心配はご無用よ』


 ふわりと砂が舞う。

 同じく下から声が聞こえたので視線カメラを向けると、黒い影。

 空から舞い降りてきたのは、胸元まである黒髪でお姫様カットの女の子。

 砂地に軽やかに着地する彼女に似つかわしく、妖艶で華憐な黒い着物ドレスの装備を着用している。砂漠エリアでは暑そうだけれど、灼熱デバフは受けない効果はあるみたい。


『いきなりごめんね。表示されていると思うけれど、私のユーザー名は、』

『オレの名はエンペラー༒カイザー༒ロード! 略さずにエンペラー༒カイザー༒ロードと呼べ。そしてこの無愛想な態度ではあるが、オレのことが大好きな彼女の名はカグヤだ』

『キショい』


 すっっっごい怖い目でエンペラー༒カイザー༒ロードさんを見下している……。あ、踏みに行った!


『えっとー、本当に助けなくてもいいのかな? このままだと別の個体に狙われるけれど』

『大丈夫です。これは私が埋めたので』

『埋めたんですか!?』


 カグヤさんがエンペラー༒カイザー༒ロードさんを踏みつければ、彼はさらに埋まる。


『オレたちは生まれた時から一緒にいる幼馴染だからな。これくらいのじゃれ、なんてことない』

『え、エンペラー༒カイザー༒ロードさんっ……!?』


 グリグリと踏み潰されて、みるみる沈んでいくんですけど!?

 位置情報バグ起きないかな!?


『ごめんね、気遣わせて。そんな律儀にフルネームで言わなくてもいいんですよ。ショコラさん』

『ふぇっ!? す、すみません……!』

『ハッハッハッ! 顔を上げろ、謝る必要はない!』


 わたしが謝罪モーションを出すと、埋まるカイザーさんと目が合った、気がする。

『そうね、こうべを垂れるのはアンタの方ね』とカグヤさんは踏み潰すのを止めないままでいる。


『勝手ながらしばらく君たちを観察させてもらった! 学年一聡明なショコラくんと、学年一最強のタクミ。最近よくつるんでいるとブルアカで噂の二人をね』


 少し前にちょっと騒ぎになったわたしたち……。

 とても人気者な久蘭くんに対して、わたしはバグギャルとして悪目立ちしている。

 必然的に注目を浴びるのは仕方ないか……。


『それで? 僕らが一緒にいることに何か言いたいことでもあるのかな。文句でも何でも僕が聞くよ』


 久蘭くん……! うぅ、建前でもそう言ってくれて嬉しいよ……!

 でも、やっぱり彼に迷惑かけているんじゃないかなって不安になっちゃう……。


『文句? ふっ、そんな低俗なことを言いにきたわけじゃない……』


 カグヤさんの足踏みも砂中もすり抜けて、リスポーンしたエンペラー༒カイザー༒ロード──カイザーさんは、勿体ぶった後に言い放った。


『君たち──付き合ってるのか?』

『『……えっ!?』』

『もし付き合ってるのなら教えろ。告白はどちらからだ。どんな言葉を言った。恋人としてのイチャイチャは何した! 付き合ってなくても言うがいい。お互い意識してるか? 実はこっそり会っていてデートしたか。告白する予定はあるのかぁぁ!? ごふぁっ!?』


『……キショい』


 カグヤさんが放つ風属性の究極魔法は、カイザーさんを今度は空高くへと吹き飛ばした。

 眩しい太陽の隣に一等星カイザーさんがキラリと輝きました。


 えっとぉ、な、何だかとんでもない二人組が来たなぁ……。

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