8.初恋アップデートっ!


 久蘭くんと再会したあの日から。

 LHRまでクテストや図書室で勉強会をして、放課後にはまたフードコートで待ち合わせて、商業施設を散策する日々を過ごしていた。

 最初はぎこちない会話ばかりだったけど、次第に慣れていくようになった。やっぱり慣れってほんと大事……。


「えっ、こんなところにマッサージチェアあったんだ。最近設置されたのかな……」

「俺が寮に入る前にはあったと思うけど」

「4年……最近だよねっ! お母さんももうオリンピックねって言うし!」


 中学生の頃はそれこそ月日が経つなんて、とてもじゃないけど耐えられない時間がかかると思っていた。

 けれども今は目標があって、久蘭くんと一緒にいられるのが嬉しくて楽しくて……あっという間の1ヶ月が経ったわけだから、高校生活すぐ終わるんじゃ!? って思うようになれた。

 気付けば寿命を全うしてるかも!?


「無重力みたいな浮遊感が体験できるってさ」

「ぁー……わたしは浮遊霊かな、でも地縛霊の方がお似合いかぁ……」

「何の話?」


 ……あ、ずっとわたしが訳わからないこと言ってて久蘭くんを困らせてしまった。いつものことか。


 毎月3千円のお小遣いが支給されているわたしならば、少し躊躇する値段に設定されているマッサージ体験代。

 でもわたしが自ら外出するようになってから、お父さんから臨時ボーナスを貰えるようになった。


「もかが一人で外に出れるようになるなんて、これもブルームオンラインプロジェクトのおかげかな」って二人は喜んでくれた。

 確かに、わたしがこうして男の子と毎日遊びに行くだなんて、奇跡なんて使ってもありえないのに。


「ぁゎゎ……逆さまじゃない!?」

「普通に寝てるだけだよ」


 わたしが体験しているところを上から覗き込む久蘭くん。ほわぁ、下から見上げてもカッコいい……。

 もし久蘭くんがお父さんになった時、彼の赤ちゃんはこんな景色を見るのかなぁ、って考えるとなんか、ふぇへへへ……。


「──おーい、起きろー」

「びゃぶっ!?」


 この日もまた思い出が作れたね⭐︎

 初恋の人にヨダレ垂らした寝顔を見られて……だ、大丈夫かな、ろくなものないけれど!?



 でも、最近はブルアカに登校ログインするのも楽しみになった。いつもギリギリだったのに、最近は誰よりも早く教室で待機している。


 久蘭くんは……今日はまだ来てないみたい。まぁ久蘭くんも結構ギリギリ登校ログイン派だからね。

 早く来ないかな〜。今日はどこのエリアにクテスト行こうかな〜。

 ゲームだって良い感じに上手くなってきたし! アイテムが使えるようになったもんね!


『ショコラさん』

『はぃっ!?』


 なんて、世にも楽しい思い出を一人回想していたところ、いきなり女の子に話しかけられて、慣れた奇声をあげたわたし。

 わたしを取り囲むようにアバターが囲んで……えっ、囲まれてるの!?

 まさかわたしが明るくなったことに気付いて、声をかけてくれた!?

 バグギャルと揶揄されていたけれど……いよいよわたしも人気者の仲間入り!?


『あっ、ぅお、おともだちに立候補とかですかっ』

『フレンド申請? しないけど』

『あっ、調子乗ってすみません』


 全然違ったぁ……。


『別に調子に乗ってるとまでは言わないけどさ。最近タクミくんと仲良いじゃん』

『あ、はい。僭越ながら仲良くさせてもらって、ます、はい』

『そうなんだー、どうやって仲良くなったの?』

『どぅっ、どう、やって……えぇ』


 最初こそキッカケは、わたしに勉強を教えてほしい土下座から始まって……。

 それが小学生の時に仲良くしていた久蘭くんだったと知ってからは一気に距離が縮まって……だけど。

 勉強ができないことはみんなに隠したいみたいだし、リアルについては尚更言えないし……。


『う、うーん……ぅ、運……?』としか言えなかった。


『へー。たまたまなんだ』

『ぅ、うん……! たまたまだよぉっ! ラックにステ振りしてて……! えへへ……』

『じゃあそろそろタクミくんに付き纏うのやめた方がいいよ』

『……へ?』

『タクミくんはさ、学年で一番優秀なんだよ。高難易度もソロで行けちゃうし。わたしたちは邪魔にならないようにクテストには一緒に参加しないって決めてるのに。それなのに足引っ張るようなことは、協調性が欠けてるっていうか』

『えっ、あっ、そんなの、知らなくて……』

『まぁショコラさんは私たちとはいたくないみたいだから知らないだろうけど。だからこうして親切心で直接言ってあげたの。DMしてもお得意のバグでメッセージ受け取れなかったら可哀想だし』


 ……クスクスと笑う声が耳元で飛び回る。


 あ、ダメだ、溺れそう。

 わたしは久しぶりに水面へと上がってきたみたいに咳き込みながら息を吐いて、ヘッドホンを取った。息が、辛い。


 あー懐かしいな……この感覚。

 思い出が、嫌なことでアップデートされた。


 結局、リアルでもオンラインでも一緒。

 わたしはどこに行っても生きづらい。いっそ、息できない月にでも行って、ウサギと餅つきでもしていたい。




 ──うっすらと聞こえていた笑い声が止まっている。

 また無言を貫き通すわたしに呆れて離れたのかと思っていたけど、机に置いたヘッドホンから小さく男性の声が聴こえる。

 教室には久蘭くんのアバターが現れていた。


『──ショコラさんに何か用かな? 僕も用事があるんだけども』

『い、いえ! タクミくんの邪魔しちゃダメだよってショコラさんに注意してただけで……!』

『何で?』

『何でって……その……』

『誰といるべきかなんて誰かが決めるものじゃないよ。元々僕らはみんな居場所を求めてここに来たはずだ。だからどこにいたって好きにしたらいい。僕は好きでショコラさんといたいからさ』



 ……っ。

 タクミくんは、久蘭くんはわたしと一緒にいたいと願ってくれてる。

 わたしの願いはもう叶っている。

 わたしのアバターは相も変わらず突っ立ったまま。

 わたしのあなたへの愛も変わらず寄せたまま。

 久蘭くんのこと好きだ、やっぱり好きだ。


 初恋は今もって、アップデートされた。


 ……タクミくんの反論と、タイミングよく始業時間になったことでAIの出欠確認が始まったことで、この輪は解散された。



『──タクミくん、そのさっきは……』

『ショコラさん。今日は久しぶりにコーナーマインに行ってみようか。あそこの化学元素の問題が難しくて』

『あ、ぅん……!』


 話題を避けられた……!? で、でも別に嫌いというわけではなさそうだし……。うぅ、恋を再確認してから久蘭くんの一挙一動が気になるよぉ……。


 今日も放課後に出会う約束をしているわたしたち。

 クテスト中は顔見られないで済むけど、直接会った時わたしは慣れた顔になれるかな……うぅ、楽しみ、だなっ。



   ◇ ◇ ◇



『──ふーん、面白いじゃん』

『なに少女漫画の男が言いそうなことを言ってんの?』

『ふっ、つまりカグヤは少女漫画に相応しいイケメンってオレのことを評しているんだな。やっぱオレのこと好きすぎるよな』

『黙れ玲央れお。私は幼馴染としてお前がまともでいられるよう止めてあげてるの』

『オイオイ、ブルアカではその名前じゃないぞ……此の名を叫べ! 〝エンペラー༒カイザー༒ロード〟となっ!』

『嫌』


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