第八話

「ただいま、お母さん」

「おかえり、ナヒコ。どう、食堂の方は? 上手く行ってる?」

「うん。まあまあね」

「そうかい、そうかい。それじゃあ、上手く行ってるんだね」


 そう答えたベージュ色のワンピースに白いエプロンを着たお母さんは、かまどに向かった。首までの長さの金色の髪を後ろでたばねて、真剣しんけん眼差まなざしをしているお母さんはこれから、料理を作るつもりだろう。興味きょうみを持った私は、聞いてみた。

「お母さん。今日は何の料理を作るの?」

「うーん。今日はねえ、食欲しょくよくが無い時でも食べてもらえる料理よ」


 私は俄然がぜん、興味をもった。食欲が無い時でも、食べてもらえる料理?! 覚えたい、ぜひ覚えたい! まだ私の食堂にそういう人はきてないけれど、きたらきっと役に立つ! なので私は、お母さんがどんな料理を作るのか見ていた。お母さんはまず、かまどに向かって右手をかざして魔法をとなえた。

「フレイム!」


 するとかまどに、炎が出現した。そしてお母さんは、料理を始めた。そうだ。私はお母さんから炎の魔法と、料理の作り方を教えてもらったのだ。そうしてお母さんが作った料理はワサビしょうゆにけたマグロ、塩味がいたベーコンのパスタ、のどしが良い湯豆腐ゆどうふ、キノコとほうれん草のスープだった。お母さんは説明した。


「ワサビなどの香辛料こうしんりょうを使った料理は、味覚を刺激しげきして食欲を増進ぞうしんさせるの。それから塩を少し多めに使ってい目の味付けにして、メリハリをつけるの。のど越しが良く、口当たりが良い料理もおすすめ。そして、具だくさんのスープ。スープと一緒なら食べ物が、のどを通りやすくなるから」


 そしてお母さんは、それらの料理をテーブルにならべた。私はそれらの一部を、たなの上に並べた。そこにはお父さんの形見かたみの、聴診器ちょうしんきが置かれていた。


 お父さんはこの街で、医者をしていた。スキャンの魔法と聴診器を使って、患者かんじゃさんの具合ぐあいが悪い部分を見つけていた。そうだ。スキャンの魔法は、お父さんから教えてもらったのだ。


 でもお父さんが患者さんの具合が悪い部分を見つけても、薬は出せなかった。この国にある薬は、ほとんど戦場で戦っている兵士へいしに使われたからだ。


 そこでお父さんは薬を出す代わりに、お母さんから聞いた病気にく料理を患者さんに教えていた。この国には、『医食同源いしょくどうげん』という言葉がある。


 日頃ひごろからバランスの取れた美味おいしい料理を食べることで、病気の予防や治療ちりょうにつなげるという考え方だ。お父さんはそれを、患者さんたちに勧めていた。


 でもお父さんは去年、くなった。軍医ぐんいとして戦場に行くことになり、そこで戦死した。私とお母さんはお父さんが無事に帰ってくることを毎日、いのっていたがその願いは届かなかった。帰ってきたのはお父さんが使っていた、聴診器だけだった。


 その時、私は実感した。この国は今、戦争をしていると。そしてどんなに会いたいと思っても亡くなった人間には、二度と会えないことを。

 

 そうして私とお母さんと二人で、お母さんが作った食欲が無い時でも食べてもらえる料理を食べ始めた。やっぱりお母さんが作った料理は食べやすくて、私は夢中むちゅうになって食べた。そしてやっぱりこれらの料理は、食欲が無い人でも食べやすいと実感じっかんした。


 そうして食事をしていて満足した私は、話し出した。私の食堂に、トミヒ様がきたことを。するとやっぱりお母さんは、おどろいた表情になった。お母さんは、聞いてきた。

「まあ、第一王子のトミヒ様がいらしたの? どういう理由で?」


 なので私は、説明した。トミヒ様は父である国王からガナス国と戦っている部隊の、作戦司令さくせんしれいまかされた。なので戦場に行って、指揮しきることもある。でも命の危険を感じることもあって、それが大きなストレスになっていたと。


 それを聞いたお母さんは、ため息をついた。

「そうなの。トミヒ様も、大変ねえ。戦争なんて、早く終わればいいのに……」

「そうね……」


 そうして食事は終わり、私はお母さんを手伝って後片付あとかたづけをした。それも終わると私は、自分の部屋に向かった。


 この家はドアを開けるとすぐに、木製のテーブルがあるリビングがある。そして左側には、かまどなどがあるキッチンがある。更にドアから見て正面の奥には、部屋が二つある。左側が私の部屋で、右側がお父さんとお母さんが使っていた寝室しんしつだ。お父さんが亡くなった今では、お母さんが一人で使っている。


 そして私の部屋は以前、使っていたそのままになっていた。木製のベットで横になり、私は思い出した。どうして私が、食堂を開くことになったのかを。


 このヨミフ国はガナス国と百年もの間、戦争をしていて庶民しょみんの生活は苦しくなっていた。戦争に必要だという理由で庶民は、多くの税金を国におさめていたからだ。だがそれでも国は、教育に力を入れていた。


 戦争で戦うための優秀な兵士を育てる、仕事をしてお金をかせいで国に税金を納めさせるために。そのため全ての子供たちは六歳から十五歳まで、国民義務学校に通うことになる。


 多くの場合そこを卒業すると、男子は国軍こくぐんに入隊して兵士になるための訓練くんれんを受ける。女子は工場などで働いて、戦争で使う武器などを作る仕事をすることになる。


 でも私は、工場では働かなかった。戦争のための武器を作る仕事がいやだったから、私はお父さんの仕事を手伝った。医者をしていたお父さんの診療所しんりょうしょには毎日、患者さんがやってきた。やっぱり戦争の影響えいきょうでストレスを感じている患者さんが、多かった。


 そうして仕事をしていて私が二十歳の去年、お父さんは亡くなった。私は、お母さんに相談した。私は、食堂を開きたいと。『医食同源』にしたがって、体の調子が悪い人たちにそれが良くなる料理を食べさせたいと。それはお父さんがしていた仕事と似ていてある意味、私はその仕事をぎたいと。


 お母さんは、そうすると私がこの家を出て行くことになるのでさびしがったが、最終的には賛成さんせいしてくれた。やっぱり体の調子が悪い人に、それが良くなる料理を食べさせることは大事な仕事だと理解してくれたからだ。

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