第20話 行正の想い
人の愛読書を読むとその人のことが理解できるとかいうので、咲子の愛読書を読んでみたが、不安になっただけだった――。
そんなことを考えながら、行正は玄関ホールに向かい歩いていった。
清六だけでも不安なのに、清六以上の色男を家に招き入れるとは何事だ。
咲子は、まだ悩んでいるような顔で女中たちと後ろからついて来る。
いつものように見送りに出てくれるのだろう。
ちょっと、ぼーっとしたところもあるし、訳のわからないことを言い出して、得体の知れないときもあるが、愛らしい妻だ。
上官が持ってきたのは、断れるはずもない見合いだった。
三条の跡継ぎである自分が結婚しないとかありえないし。
相手もどうせ選べない。
じゃあ、なんでもいいか。
そう思っていた。
世間体のために、妻という存在があれば、それでいいだけだから。
叔父が言っていた。
広い屋敷の中、妻と顔を合わせることはあまりなく。
女中や下男ばかりと顔を合わせている、と。
では、日常生活をストレスなく送るうえで、大切なのは、妻ではなく、女中や下男だな。
そう行正は思っていた。
――使用人たちは厳選しなければな。
三条家の使用人たちはみな、申し分ない者たちだ。
使用人たちは横のつながりがあるという。
彼らに口をきいてもらって、これと思う人物を紹介してもらおう、などと算段しながら見合いの席に臨んだ。
妻となる女が現れた。
一目で気に入った。
ほんとうに棚ぼたみたいに、こんな理想通りの……
いや、人が見てどう思うかは知らないが。
自分好みの女が降ってきたりするとかあることなのか? とおのれの幸運を疑った。
疑いと、初めて女性に好意を持ったという戸惑いで、見合いの席では、最初から最後まで険しい顔つきと、そっけない口調になってしまった。
妻となるはずの咲子は、明らかにビクビクしていた。
まずい、これは断られるかもしれないと思ったが。
咲子にとっても、断ることは許されない見合いだったようで、結婚話はどんどん進んでいった。
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