第11話 過去(2)

 ひたすら訓練に励んだ。

次第に人工の魔獣を殺すことになんとも思わなくなった。


武器の扱いがうまくなるほど、一度に殺した数が増えるほどに褒められるようになった。


 今まで褒められることなんてなかったから、うっすらとそれを嬉しく思ってしまうのが嫌だったけど、別にそれでもいいや、と変な風に受け入れられるようになった。


 心がどんどん平坦になって、山本先生には「成長した」と言われたけど、そうは思えなくて。でも反発もしたくなかったし何も考えたくなかった。


 高等部に上がったころ、町で魔獣が出たという話をちらほら聞くようになった。


 先生たちは何も言わなかったけれど、魔獣を生み出すそうとする人々がこの町にも住みつくようになって、本部というところにいる「狩人」たちが討伐に行った、と噂で聞いた。


同学年のルキヤや初音は


「早く本物の魔獣を狩りたい」といつもの目を輝かせた笑顔で話していた。


「もっとたくさん魔獣が出たらいいのにな」


 心を殺していたはずなのにそんなルキヤの言葉が気持ち悪くて、吐きそうになって部屋に閉じこもった。


山本先生が心配して見にきたけれど、


「別に何でもないです」


とだけ言った。


先生も先輩たちも魔獣狩りの事ばかり考えているし、相談したって仕方ない。


 気分の悪さが治まることはなかったけれど、それについて説明もしたくなくて、体を引きずるように訓練に参加した。


 地下にある広場には、いつものように魔獣が放たれ、生徒たちが皆弓や短剣を構えている。


 以前よりも更に大きく狂暴になった魔獣が3匹、バラバラに生徒たちにとびかかっていったが恐怖はもう少しも感じなかった。


 今では素早く鱗の間を狙って矢で貫けるようになった。ルキヤや初音よりも正確に。


 だけど、少しでも「現在」以外へ目を向けると、周りには闇だけがただ広がっていてどこにも逃げ場がないような感覚に襲われた。


――こんなことをして何になるんだろう?


 その声に耳を傾けたくなくてひたすら矢を放った。


 魔獣を殺すことが大切。

 それ以外はいらない。

 目的も何も必要ない。


それだけのために存在している。


何も間違っていない。


くすぶりながら燃えていく、目の前の無機質な物体の事なんてどうでもいい。


……なのに。頭に浮かんだのはあのつぶらな黒い目だった。


 訓練が終わってルキヤたちが行ってしまっても、広場に立ち尽くしていた。


 乗り越えた、というよりも以前のようにうまく目を背けたつもりだったのに、なんだか寮には戻りたくなくて、ふらふらと地上に出てみた。


 めったに外へ出ることはないので光がまぶしく感じたが、吸い寄せられるように太陽が沈みかけていた空へ手を伸ばす。


 秋の澄んだ空気の中、どこまでも歩いて行けそうな気がして、思わず校門から外に出ていた。


 一応整備はされているけれど草が生い茂っている山道は、もうしばらく聞いていなかった葉擦れの音や虫の声であふれていた。


 名前の分からない、太くてもう何年もそこに立ち尽くしていそうな木にもたれてしゃがみ込む。


「はぁ……。戻りたくないな」


ずっとこのまま、誰に見つかることもなくここにいられたら。


その時。


「戻りたくないの?」


 静かな声がすぐ側で聞こえて、はじけるように立ち上がる。


 振り向くと、スケッチブックを手にした、同い年くらいで同じ制服を着た少年が立っていた。


「現山学園の人だよね?僕もなんだ。あそこにいるとなんだか息苦しくなるもんね」


 見たことのない顔だから多分「普通科」の生徒だろう。理事長が入学金を稼ぐためだけに適当に入学させた、多分この先もかかわることのない生徒たち。


 魔獣をけしかけられたり、それを殺したりする必要もないのに息苦しいなんて、ただ甘えているだけなんじゃないかと思う。


 そんなことを考えながら、何気なく少年が持っていたスケッチブックに視線を移した。


 開かれたままのそこには、モルモットたちがピクニックをしている絵が描かれていた。


「ああ、これ、家で飼ってたモルモットを描いたんだ。『プゥ』っていう名前で、寮に入ってからは全然会えなくなっちゃって……。親からは死んじゃったっていうメールだけが来てた」


「そうなんだ……」


「まだ、プゥにはもう会えないっていう実感がわかなくて。これはプゥが、天国でこんな毎日を送ってたらいいなって思って描いたんだ。たくさん描けたら絵本にしたいって思って」


 描かれているモルモットたちはみんな生き生きとして楽しそうに見えた。中にはモルによく似たモルモットもいる。


「絵本、できたら見せてよ」


 そう声をかけると、彼は歯を見せて笑った。


 その少年――蒼川望あおかわのぞむは、この学園での二人目の友達になった。


 望にとっては、それは決して幸せなことではなかったんだろうけれど。

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