第3話 両親の想い

「記憶をなくした俺に、両親は何を託してくれたのか──」


ノートの2ページ目には、涙の跡とともに、両親からの“ある願い”が綴られていた。


それは、俺の名前を呼ぶように始まる、たった一通の手紙だった。





両親が泣きながら書いてくれたという、ノートの2ページ目。

どんな“俺”を残してくれたのか。

震える手で、そのページを開いた。


そこには、こう書かれていた。



ユウシへ。

生まれてきてくれて、ありがとう。


諦めなければ、絶対に大丈夫。


お父さんとお母さんは、かつて小さな会社を経営していました。

でも、失敗して──すべてをなくしました。

信頼も、夢も、生活も。

それでも、最後まで諦めませんでした。


だから、ユウシ。

あなたも、どうか、生きることを諦めないで。


──お父さんとお母さんより



……それだけだった。


“俺”がどんな人間だったのか、

どんな夢を持って、どんなことで笑っていたのか、

そういうことは、何一つ書かれていなかった。


思わず、呟きかけた。


「……俺のこと、もっと教えてくれよ……」


でも、すぐに気づいた。

きっと、二人は知っていたんだ。

記憶を失った俺が、過去に囚われずに進めるように──

思い出ではなく、“未来を託す言葉”を選んでくれたんだ。


一滴の涙が、静かに頬を伝う。

それはきっと、俺がこの世界で一番最初に流した、意味のある涙だった。


窓の外では、夕陽が沈みかけていた。

ほんの一寸の光。それでも、たしかに、胸の奥を照らしてくれていた。


この光も、この涙も、いつかまた忘れてしまうかもしれない。

でも、このノートだけは、俺のそばに残る。


それが、今の俺にとっての──

唯一の“救い”だった。


そして数日後、俺は知ることになる。


──あの日以来、両親が姿を見せることは、二度となかったという事実を。



朝、目が覚めたとき。

理由もわからず、俺は泣いていた。



📘次回予告


第4話 親友からのメッセージ


なぜ、泣いていたのか。

なぜ、ページに涙の跡が残っていたのか。

答えはわからない。


でも──そのページは、たしかに“生きろ”と、俺に叫んでいた。


次は、ノートの3ページ目。

今度は、俺の“親友”に書いてもらおうと思う。

過去の俺が、どんな友を選んだのか──知りたくて。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


第3話は、「両親の言葉」でした。

何も思い出せない主人公ユウシにとって、それは唯一の“はじまり”の言葉。

自分がどんな人間だったのかではなく、

“これから”どう生きてほしいか──

そんな想いが、たった数行に込められていました。


「生まれてきてくれて、ありがとう」

もし記憶を失ったあとでも、こんな言葉が残されていたら……

きっとそれだけで、もう一度、歩き出せる気がする。

そんな想いで書いた回です。


そして最後、衝撃の事実も明かされました。

ユウシの両親は、もう──

この先の展開にもぜひ注目していただけたら嬉しいです。


次回は「親友」が登場します。

かつてユウシが“心を許した”存在。

果たして彼は、今のユウシにとってどんな言葉を残していたのか……。


それでは、また第4話でお会いしましょう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る