第2話ファムリタ

 此処はドキ♥ときのOPに出てきた家だ。


ガバッと起き上がって確認しようとするが、急に走馬灯のような情報が脳内にぶわっと広がり、頭痛の余りに布団に沈む。


「って事はあたしがヒロイ…ッ、頭痛い…」


 頭が割れそうに痛い。中身を掻き混ぜられるような不快感。ヒロインである事を確かめたいのに、雪崩のような情報がそれを許してくれない。


 エデランド家。あたしはファムリタ。ロスク。マリエール。男爵。礼儀作法の授業が嫌い。内弁慶で外では引込み思案な自分は、なかなか友人も作れない――


「うああっ…!痛い!」


 叫んだ私へ駆け寄る誰かの気配を感じながら、あたしは昏倒した。



 記憶が馴染んでようやく頭痛が落ち着いた。


 ここはエデランド男爵家。ヒロインの家だ。あたしの名はファムリタ・エデランド。ヒロインであるマリエール・エデランドの腹違いの妹だ。マリエールの母フェリア・エドランドは既に没しており、後妻だったあたしの母エルザ・エデランドが正妻に納まった。


 エルザはマリエールに敵愾心を燃やしており、虐げている。


 使用人以下の扱いを受けながら、マリエールは愚痴の1つも零さず、健気に働いている。


 その姿に、あたしの双子の弟であるロスク・エデランドは心を痛め、何度も待遇改善を母に訴えては罵詈雑言と扇での打擲ちょうちゃくを受けている。




いい加減無理だって解れよ、バカ。


そんなあたしは母に調子を合わせて姉を虐めている為、母に可愛がられている。


姉のモノはあたしのモノだ。偶に服やアクセサリなどを姉が手に入れる事があったが、全てあたしの手元にある。マリエールのクセに、贅沢だ。そもそもあたしの方が良く似合う。


水仕事でひび割れた手、化粧水やクリームなど一切使われていない荒れた肌にツヤを失って絡む濁ったピンクブロンド。ガリガリに痩せ細った体。そんなマリエールに似合うはずがない。


ヒロインなんだし、後でウハウハな未来が待ってるんでしょう?なら今ぐらい従順に虐められていればいいんだ。


 まあ、顔立ちはそれなりに似ていると言えなくもないし、あたしがヒロインの座を奪っちゃうかもだけど。攻略キャラの情報は全て頭の中に叩き込んであるのよ。黒曜様の隣はあたしのもの。ハーレムEDで誰のものにもならなければあの人が出て来てくれる。絶対に譲りたくない。もうヒロイン乗っ取るしかないじゃんこんなの。


 ごめんねマリエール、やっぱり未来の希望もあたしが貰ってあげる。ずっと使用人みたいにあたしにかしづけばいいの。


 双子の姉弟のロスクが攻略対象なのが痛いわね。言う事を聞く様に躾ければクリアにならないかしら。まあ、ロスクなんだし、後回しでいいわね。


 父デルフ・エデランドは母エルザに全く意見も出来ないダメ男だし、障害にはならないだろう。


 ふと目を開けるとメイドが傍に居た。


「…水」


「あっお目覚めに…」


「水!早く!」


「はいっ!」


 慌てて水差しからコップに入れた水を差し出され、遅いとぼやきながら水を飲む。やっと人心地がついた。


「お母様は…」


「呼んで参ります!」


 ぱたぱたと足音を立て、メイドが居なくなり、やっと一人になれた。


「…ステータス」


 ぱっと画面が開いた。この画面は自分以外には見えないものだ。




 ファムリタ・エデランド 14歳/女


 レベル1

 HP101/MP520

 力5

 体力5

 精神力12

 知力52

 忍耐1


 癇癪5

 礼儀作法3

 傀儡術1<new>

 生活魔法<未取得>

 光魔法<未取得>



「ファム、起きたの?大丈夫なの!?私の可愛い子…!」


 傍目には呆けているように見えたのか、お母様が私を抱きしめ、何度も背中を擦ってくれる。


「お母様、ファムはもう大丈夫です。今からお母様とお茶会が出来るくらいですよ?」


 にっこり笑って告げると、「まあ!」とお母様が私をハグから解放しながら頭を振る。


「倒れたばかりでお茶会なんて…!私の可愛い子にはまだまだ安静が必要よ?大人しく寝て体調を戻しなさいね?」


 そうだ、と同調する声が。…ああ居たのね父。ロスクは…居ないな。仮にも姉弟でしょうが、情のない事だ。


 嘆息すると、廊下から足音が聞こえた。ロスクとマリエールだ。…何故マリエールがあたしの寝室に勝手に入ってるの!ありえないんですけど!!


 いやしかし、なんだろうあの姿勢の良さは…なんだか覇気を感じるんですけど…


「マリエール…?どうして?」


 母の目が吊りあがる。ロスクが口を挟んだ。


「マリー姉さんは洗濯場でザゼン?を組んでセイシントウイツというのをやってたんだ。さっきやっと終わった所でファム姉さんが起きたと聞いて一緒に来たんだよ」


「まあ!洗濯をサボるなんてどういう心算かしら!!セイシントウイツは解らないけど遊んでいたんでしょうね。折檻せねばならないわ」


「精神統一は遊びではないが、その間洗濯が滞っていたのは事実だ。詫びよう。すまなかった」


「まっ…まああああ私に向かってなんて口の聞きようなのかしら!晩餐は抜きです。私達の晩餐後に私の部屋に来なさい!」


 座禅。精神統一。あの時光に飲み込まれる場で傍に居た…圭吾パパか。パパがヒロインか!しかしあの頭痛を良く昏倒せず耐えたものだ…昔から何かと気合でなんでもこなして来た男だけある…。


 ここは女のあたしがヒロインになるところでしょう!!?


 いや、待て。パパが顔のいい男にコナを掛ける訳がない。実質モブになる存在だろう。本格的に私がヒロインを乗っ取ってもいいんじゃない?むしろラッキーなんじゃない?


「気分が悪いわ。あたしはもう少し眠るので、退室頂いてよろしいかしら」


 傀儡のスキルを意識しつつそう言えば、皆文句もなく無言のまま部屋を出て行く。


 もう一度ステータス画面を見ると、間違いなく光魔法の文字が。


 そうよ、学園の入学前に光魔法を発現させればもう勝ちなんじゃないかしら。


 ヒロインは光魔法という稀有なスキルを取得する事で聖女扱いを受けるのだから。


 傀儡は便利だし、結構良いスキル具合だと思う。ただ、癇癪って何よ。そんなのスキルになるのっておかしくない!?あと、鑑定が欲しかったなあ…ヒロインのスキルには何があったのだろう?


 あっ、そう言えば子爵以上の家に養子にならないと。王族と結ばれるには最低でも子爵以上でなければならないからだ。光魔法が発動すれば、引く手数多に違いない。


よし、頑張ろう

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