第12話 れいかの過去



放課後、れいかがみくの腕を掴んだ。


「みく、ちょっと来て」


「え?どこに?」


「いいから!」


れいかに引っ張られて、みくは屋上への階段を上った。れいかの握力、意外と強い!


「いたたた!れいかちゃん、腕がちぎれる〜!」


屋上に出ると、れいかはみくをクルッと振り向かせた。眼鏡がキラーン!


「みく、正直に答えて」


「な、なに?」


れいかは深呼吸して、そして言った。


「さっきの紙、アレでしょ?」


「ア、アレって?」


「とぼけないで!」


れいかは自分のポケットから、一枚の紙を取り出した。


『願』の文字が書かれた、神令チケット!


「れいかちゃんも持ってたの!?」


みくは目を丸くした。れいかは苦笑する。


「やっぱりね。みくも持ってるんだ」


「で、でも、いつから?」


「実は…」


れいかは遠くを見つめた。その横顔が、なんだか大人っぽく見える。


「兄さんのことなんだけど…」


「お兄さん?」


みくは首をかしげた。れいかのお兄さんは、有名な進学校に通っている秀才だ。


「兄さん、本当は推薦に落ちてたの」


「ええ!?」


みくは驚いた。れいかは続ける。


「家族みんなショックだった。特にお父さんが…」


れいかの声が震えた。


「お父さん、会社で自慢してたから。『うちの息子は優秀で』って」


「それは…つらいね」


「でも翌日、学校から電話があったの。『合格です』って」


みくは息を呑んだ。


「それって…」


「おかしいでしょ?」


れいかは振り返った。目に涙が浮かんでいる。でも、次の瞬間――


「だから私、探偵になったの!」


「は?」


急展開すぎて、みくは目をパチクリ。


「名探偵れいか!真実はいつも一つ!」


れいかは謎のポーズを決めた。


「いや、それコナンくんでしょ」


「バレた?」


二人は顔を見合わせて、プッと吹き出した。


「あははは!なにやってるの、わたしたち!」


「ごめん、シリアスな雰囲気に耐えられなくて」


笑いが収まると、れいかは真面目な顔に戻った。


「でも本当に、調べたの。そしたら、落ちたはずの子が『自分から辞退した』ことになってた」


「それって…」


「誰かがズルしたんでしょ?兄さんのために」


れいかはチケットを握りしめた。


「最初は家族の誰かだと思った。でも違った。じゃあ誰?」


みくは黙って聞いていた。


「そんな時、これを見つけたの」


れいかはチケットを掲げた。


「机の引き出しに、急に現れて。最初はいたずらかと思った」


「使ったの?」


「ううん」れいかは首を振った。「使いたいと思ったけど」


「何を願おうとしたの?」


れいかは少し恥ずかしそうに言った。


「兄さんを、本当の実力で合格させてくださいって」


「それって…」


「変でしょ?でも、兄さん今すごく苦しんでるの」


れいかは肩を落とした。


「『俺、本当はここにいる資格ないんじゃないか』って。成績も下がって、部活もやめて…」


「でも、お兄さん幸せそうだよ?」


みくは思い出した。この前見かけた時、れいかのお兄さんは友達と笑っていた。


「あれは作り笑い!」


れいかは断言した。


「私にはわかる!だって、兄妹だもん!」


そして、みくをじっと見つめた。


「みくだって、作り笑いする時あるでしょ?」


「ギクッ!」


みくは思わず変な声を出した。図星だった。


「ほらね」


れいかは得意げに眼鏡を光らせた。


「でも」みくは聞いた。「本当の実力じゃないのに、幸せになれる?」


「それは…」


れいかは言葉に詰まった。そして、ぽつりと言った。


「わからない。でも、ウソの上に立つ幸せは、きっと長続きしない」


二人は夕日を見つめた。オレンジ色の空が、なんだかチケットの色に似ている。


「ねえ、みく」


「なに?」


「みくは、何回使ったの?」


みくは指を折って数えた。


「えーと、最初があやかちゃんので…」


「あやかさんの人気者化って、みくだったの!?」


「あ、バレた?」


「バレバレだよ!急すぎたもん!」


二人はまた笑った。でも、すぐに真顔に戻る。


「それで、みくはどう思う?」


「何が?」


「チケットのこと。使い続ける?」


みくは悩んだ。そして、正直に答えた。


「わからない。でも、一人で悩むのは、もう疲れちゃった」


れいかは優しく微笑んだ。


「じゃあ、一緒に悩もう」


「れいかちゃん…」


「だって、友達でしょ?」


みくの目に涙が浮かんだ。でも、泣く前に、れいかが言った。


「あ、でも泣かないで。眼鏡が曇っちゃう」


「それ、れいかちゃんの眼鏡でしょ!」


「あ、そっか」


二人は大笑いした。


その時、屋上のドアが開いて、しゅんたが顔を出した。


「あれ?二人ともここにいたんだ」


「しゅんたくん!もう大丈夫なの?」


「うん、熱下がった!」


しゅんたは嬉しそうに屋上に出てきた。そして、二人の手にあるチケットを見て、目を丸くした。


「それ…」


みくとれいかは顔を見合わせた。


「実は…」


家族の幸せのためなら、何でもする?


その答えは、きっと一人一人違う。


でも、一緒に考える仲間がいれば、きっと正しい道が見つかる。


そう信じて、三人は夕日の中で話し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る