第54話 アメン神官団の復讐

「陛下、……」

 アクナテンはムウトベネレトの青ざめた顔色に気づくや、

「今度は神殿に連れて行ってあげよう」

 と言ってアティにあずけた。

「失礼します」

 アティはネフェルアテンの手を引いてアクナテンの部屋を出て行った。

「どうしたのだ」

 アクナテンはムウトベネレトと二人だけになるとあらためて訊いた。

「スメンクカーラー様がお亡くなりになりました」


「死んだ……」


「はい、北の宮殿のバルコニーから転落して」

「なぜ北の宮殿などに行ったのだ……なぜ転落など……」

「わたしには視えました。スメンクカーラーさまは何者かに殺害されたのです」

 そこまで言ってムウトベネレトは泣き崩れた。

「アメンの神官に違いあるまい」

 アクナテンは怒りに声を震わせながら部屋を出て行く、その後をムウトベネレトが慌てて追った。

 北の宮殿に入ると変わり果てたスメンクカーラーの亡骸が横たわっていた。

「スメンクカーラー」

 メリトアテンが遺体にしがみついて泣き叫んだ。

「酷いことを」

 アクナテンは拳を握りしめ、怒りに肩を震わせた。

 遺体は首から下が焼けて黒焦げだった。

「何者かに火を放たれ苦しみながらバルコニーから転落したと思われます」

 警察長官のマフが警察隊とチムズ犬を引き連れて駆けつけた。

「マフ、犯人を捜し出せ! 必ず捕まえるのだ!」

 新都に来てから怒ることがなかったアクナテンが声を震わせて命じた。

「はい!」

 マフと警察隊は素早く犯人捜しをはじめた。


「誰にも見られなかっただろうな」

 ラビのヌイが手招きした。

「はい」

 テーベにあるアメン大神殿の秘密の地下室にゼノビアが入ってきた。

 破壊されたはずの地下ホールだったが、二重の構造になっていて、王族すら知らない秘密の地下ホールが破壊された地下室のさらに奥の地下に造られていたのだ。

「約束は果たしました。はやく、妹を返して下さい」

 妹を人質にとられ、やむなく犯罪に加担したことをゼノビアはひどく後悔していた。

 スメンクカーラーを北の宮殿に誘い出すだけで良いと、どうしても話たい事があるだけだ。その言葉を信じてとっさに思いついたのが、故ネフェルティティ王妃から遺品を預かっているという嘘だった。

 スメンクカーラーは安心しきってゼノビアに着いてきた。そして、北の宮殿のかつて王妃の部屋だったところに連れてきたところ王子は、ヌイと隠れアメンの神官らに油を浴びせられ火をかけられて殺害されてしまった。 

 妹を守るためとはいえ取り返しのつかないことをしてしまった。もう逃げ場はないのだ。ようやく太陽の街で自由を得たというのに、その自由も幻にすぎなかったのか。

「こっちへ着いてこい」

 小柄なヌイがゆっくり階段を下りる。

 ゼノビアもその後について行く。

 やがて二人が小さな扉を開けてくぐり抜けると巨大な地下ホールに出た。

「よくやってくれた」

 ホールの中心からアメンのハプセンネブ暗黒司祭が大きく手を広げて二人を招いた。

 司祭の隣には妹のルキパが立っている。

「司祭様、スメンクカーラーを暗殺しました」

 ヌイは淡々と報告する。

「ミイラに出来ないよう、火をかけて殺したであろうな」

「もちろんです。二度と転生して生き返ることが出来ないように焼きました」

「上出来だ」

 ハプセンネブは満足げに笑みを浮かべ目尻を下げた。

「もういいでしょう。妹を返して下さい」

 ゼノビアはハプセンネブに詰め寄る。

 そのとき、暗闇に隠れていたアメンの神官たちが出てきてゼノビアを押さえつけた。

「はなして! 自由にしてくれるんじゃなかったの!」

「二人とも自由にしてやるとも。あの世でな」

 ヌイがにたりと笑う。


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