第48話 ネフェルティティ王妃の死
その年、太陽が最も輝く季節、ネフェルティティ王妃は双子の王子と王女を産んだ。
最初に生まれた王子はツタンカーテン(後のツタンカーメン)と名付けられた。二番目に生まれたのは王女、ネフェルアテンと名付けられた。
ネフェルティティが名付けたのだ。
「ツタンカーテンはファラオとなる子、ならばもう一人の子は神に仕える子としなければなりません」
ネフェルティティはそう言って二人の赤子の額にキスをした。
「よかろうそなたの願い通り、ネフェルアテンはいずれ俗世をはなれたところで神の僕として仕えるよう育てよう」
アクナテンも妻の考えに異存はない。
子供が生まれると聞いてティイ皇太后も来ていた。
「お母さま、ネフェルアテンをお願いします」
ネフェルティティはなんとか体を起こそうとする。
「安心して。わかりました」
ティイは無理をしないようにと、背中に手を添えネフェルティティに優しく微笑む。
「ありがとうございます」
ネフェルティティは安心したのか、そのまま深い呼吸をしながら眠りに落ちた。
ネフェルティティ王妃の出産は無事に終えたかに思われたのだが、その夜、王妃の体調に異変が起きた。
「陛下! 陛下!」
王宮の寝室に主治医のメリトプタハが駆け込んできた。
「いかがした」
「王妃様が王妃様が」
メリトプタハは動転して言葉が続かない。
「どうしたというのだ」
アクナテンはベッドから慌てて飛び起き、ネフェルティティ王妃のところへ急いだ。
騒ぎを聞きつけてメリトアテンやアンクエスパアテン、スメンクカーラーもやってきた。
「ネフェルティティ、ネフェルティティ」
冷たくなった王妃にアクナテンは覆い被さるようにすがり嗚咽した。
「お母さま」
二人の娘も、あとから駆けつけた三人の娘たちも母の死に咽び泣いた。
太陽の都の太陽が沈んだ。
人々はネフェルティティ王妃の死をひどく悲しんだ。
ネフェルティティ王妃の亡骸には、アマルナで最高の芸術家たちが制作した黄金のマスクが幾重にも被され、母なる太陽にふさわしい姿で棺におさめられた。
ネフェルティティ王妃の棺は、大アテン神殿の東端からおよそ三キロほど東に進んだ境界碑の近くにある、第二王女マケトアテンが眠っている王家の墓に納められた。
アクナテンに追い打ちをかけるように、翌年、四女、五女、六女の娘たちがテーベのアメン神官団が放った疫病に倒れこの世を去った。
絶望と悲しみに打ちひしがれたアクナテンは、アテン大神殿の至聖所にひきこもったきり何日も出てこなくなった。
アクナテンは祭壇の前で跪きひたすら神に問いかけた。
神よなぜあなたはこんなもわたしを苦しめるのですか、
神よなぜあなたは王妃や子供たちの命を奪ったのですか、
神よそれでもテーベのアメンの神官団を赦せと仰せですか、
神よわたしの心は悲しみと憎しみではち切れそうです。
神よなぜあなたは私を待って下さらないのですか、
神よあなたはこれ以上何を私に求めるのですか、
神よわたしは早くあなたに仕えたいのです……。
彼は張り詰めた静寂のなかに一人たたずむ。
神はなにも答えてくれなかった。
アクナテンが諦めかけて至聖所を立ち去ろうとしたとき、アクナテンを真っ白な光がつつみこんだ。
「愛することは赦すこと。赦しなさい、赦しなさい。思い出すのです愛が全てであるということを。そなたの使命を全うしなさい。愛一つの世界を創りなさい」
神の言葉はアクナテンの心と魂を貫いた。
アクナテンは跪き瞬き一つせず放心したように太陽を見つめていた。
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